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手紙社リストVOL.19“本”編「花田菜々子が選ぶ『疑問符から始まる本の世界』10冊」

あなたの人生をきっと豊かにする手紙社リスト。今月の本部門のテーマは、「疑問符から始まる本」。その“読むべき10冊”を選ぶのは、ブックコンシェルジュや書店の店長として読書愛を注ぎつつ、私小説も人気を博している花田菜々子さん。「雰囲気こそ大事なのでは?」という花田さんが雰囲気で(いい意味で!)選ぶ、ジャンルに縛られない10冊をお届けします。

1.『ホワット・イフ? 野球のボールを光速で投げたらどうなるか
著・文/ランドール・マンロー,翻訳/吉田三知世,発行/早川書房

What if は、「仮に~したらどうなる?」という意味。アメリカでベストセラーになり日本でもヒットしたこの本は、かつてはNASAで開発職にも就いていた著者が「みんなで地球の1箇所に集まってジャンプしたらどうなるか?」「みんなで月をレーザーポインタで照らしたら月の色は変わる?」などのバカバカしい質問にまじめに答えていく本です。くだらなすぎ! でも意外と勉強になる!

2.『私とは何か――「個人」から「分人」へ』講談社現代新書
著・文/平野啓一郎,発行/講談社

なんだかすごく難しい哲学的な問いのようにも見えてしまいますが、これは作家の平野啓一郎さんが提唱する、「分人」という考え方についての本。会社の友達といるとき、昔の友達といるとき、ひとりでいるとき……自分の性格が違いすぎて「これって何だろう?」って思ったりしませんか。そんな謎をズバっと説明してくれて腑に落ちます。

3.『あなたの話はなぜ「通じない」のか』ちくま文庫
著・文/山田ズーニー,発行/筑摩書房

日々思うさまざまな「なぜ」の中でもわりと身近で、つらくて、しかも解決しづらいこの問題。「あれ? 説明が伝わってない?」「ちゃんとメールで書いたのになんでわかってくれないの?」の原因はもしかして自分かも。真摯で、具体的で、読んだだけで相手を理解し伝える力がつく名著。自分も若い頃繰り返し読んだ1冊です。

4.『どうして男はそうなんだろうか会議 いろいろ語り合って見えてきた「これからの男」のこと
編/澁谷知美・清田隆之,発行/筑摩書房

こちらも長年の謎がするするととけていく気持ちよい1冊。男の人ってどうして変な勝ち負けにこだわるの? どうして男友達の前だとやたら強がったりオラオラしてるの? どうして会社のことを自分のことのように自慢するの? それぞれの専門家たちによる指摘と考察は、日々被害をこうむる女だけじゃなく、無自覚に男らしさにとらわれている男たちのことも楽にしてくれそう。

5.となりの国のものがたり 1『フィフティ・ピープル
著・文/チョン・セラン,翻訳/斎藤真理子,発行/亜紀書房

韓国発の誰が誰だかわからなくなるくらいたくさんの登場人物が出てきてそれぞれの人生が交差していく不思議で楽しい小説。街で一瞬すれちがう人は自分にとっては風景のようでも、その人にはもちろん何十年分もの人生がある。社会はうんざりすることだらけだけど、それぞれがゆるやかにつながって生きていけたらいいなと思わせてくれます。

6.『いつも異国の空の下』河出文庫
著・文/石井好子,発行/河出書房新社

歌手として旅をしながら世界を何周もして生きていく……なんて、まるで物語のようですが、これは実話のエッセイ。本来はものすごく派手なできごとのはずなのに「笑いあり、涙あり」のドラマ的テイストとは真逆。淡々とした観察眼で、どこにいても日々の生活のような温度感で綴られる文体が心地よい。時間も場所もトリップして浸りたい日の読書におすすめです。

7.『何が私をこうさせたか : 獄中手記』岩波文庫
著・文/金子文子,発行/岩波書店

「なぜ私はこうしたか」ではなく「何が私をこうさせたか」であるところにまず目が留まる。わずか23歳で獄中死を遂げた金子文子が、子ども時代のひどい仕打ちに始まり、不遇な人生から這い上がり自らの信念と哲学をもって生きる姿は壮絶なんて言葉では足りないくらいにすごい。重たく暗い読書になってしまうかもしれませんが、ぜひ読んで打ちのめされてほしい1冊。

8.『'80sガーリーデザインコレクション
著/ゆかしなもん,発行/グラフィック社

まさか平成レトロが流行語になるなんて……なつかしいものを見ると脳が活性化されるような気がするのは私だけでしょうか。というわけでタイムトリップ感覚をどっぷり味わいたいならこんな本。シリーズでいろいろ出ていますが、「なつかし~」「これ持ってた~」と楽しむのはもちろんのこと、1冊をじっくり眺めると、あの時代の《価値》って何だったんだろう、などと考えてしまうのです。

9.『コンピュータ、どうやってつくったんですか? はじめて学ぶ コンピュータの歴史としくみ
著・文/川添 愛,発行/東京書籍

5W1Hの中でも「How」、つまり「どうやって」という質問って、いちばん抽象的で難しいように思います。ところで、コンピュータに詳しい人でもこの質問にすらすらと答えられる人はなかなかいないのではないでしょうか。やさしくかわいいキャラクターの物語に沿ってコンピュータの歴史と仕組みがわかる(理解できるかは別)、理系脳の子どもにもオススメしたい本。

10.『問い続ける力』ちくま新書
著・文/石川善樹,発行/筑摩書房

「なんでなんで?」と質問ばかりしていると、ときにはうっとうしがられることもあるかもしれませんが、「問う」って何かを疑問に思う力がなければ発生しないこと。いつまでも「問い」を持てる大人でいたいです。こちらの新書は文体も柔らかくて面白く、「~ではこうだよ」と今ある知識で満足するのではなく、「そもそも~とは?」と掘り返す力をくれる、大人のための1冊です。

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選者:花田菜々子
流浪の書店員。あちこちの書店を渡り歩き、2018年から2022年2月まで「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で店長をつとめる。2022年9月1日に自身の書店「蟹ブックス」を東京・高円寺にオープン。著書に『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』など。

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