vol.62 心の貴族【手紙の助け舟】
こんにちは。
喫茶手紙寺分室の田丸有子です。
ふと空を見上げると雲の峰がもくもくと育っているのを見て、これは夕立が来そうだぞ、と家路を急ぐとき、ちょっとばかりワクワクしている自分に気が付きます。最近は喜んでいられないような大雨になったりもするので困ってしまいますが、夕立や狐の嫁入りは夏の風情が感じられて好きです。
そこらへんにありそうなのになかなか見つけられなくて、でも出会った時にちょっと嬉しい気持ちになるお花と言えば捩花です。
どうして螺旋状に花が連なるのか見るたび不思議な気持ちになります。毎年決まって咲くわけでもなく気まぐれで、あまのじゃくなところにも親しみを感じます。
捩の文字が「涙」に似ていることや、ただの偶然ですが私が捩花を見かける時はなぜか雨に降られることが多く、私の心象風景はいつも捩花と雨がセットになっています。
ところで、最近いただいたおたよりに同封されていた古い新聞記事の写しにこんな言葉が載っていました。
英文学者の外山滋比古さんの言葉だそうです。その意味するところは「心の豊かな人はどんなに忙しくあわただしい生活をしていても、手紙を書く時間を見つけるものだ」。
そして、心の貴族代表として映画『男はつらいよ』の寅さんを挙げ、旅先から寅さんが出す手紙文が引用されていました。短い文章ながらその朴訥とした言葉の端々に、その筆跡に、寅さんの表情が、その心情が、寅さんが見ている風景が、まるで目の前にいるかのようにありありと想像できて、なんだかジンとしてしまいました。
夏休みを使って旅に出る方もいらっしゃるでしょう。心の貴族である寅さんに倣って旅先からぜひおたよりを出してみてください。最後に「〇〇湖畔にて」「〇〇山麓にて」などと書き添えれば、それだけで旅情あふれる手紙となります。読み手はあなたの書いた手書きの文字を通して想像力の翼をどこまでも広げて楽しむことができるでしょう。
その記事には、手紙にあってメールにないものは、ゆっくり流れる贅沢な時間を贈り贈られる喜びだろう、とも書かれていました。
なるほど、本物の貴族にはなれなくても、心の貴族を目指すことはできそうです。
―――――――――――――――