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かえるくん

 かえるくんは海へ行った時のことを思い出していた。
 あの子にかっこいいとこを見せて、大きくなって帰ってくるつもりだったんだけどな。心がぽっきりしちゃった。
 かえるくんはうつむいていたけれど、どうしたもんかなと考え始めて顔を上げた。外では車にひかれた傘が霧雨に濡れていた。


 かえるくんは傘を拾ってきた。壊れた傘がなぜだか宝物のように見えた。傘を持ち上げて、上から下から横からとっくりと眺めると、かえるくんは、僕はこれがなんだか知ってる、と言った。
 夜明け前、ゴーグルと傘からできたハンググライダーを持ったかえるくんは、こっそり丘へ向かった。
 


 かえるくんは、ハンググライダーを背負って助走を始めた。その時突風が吹いて、かえるくんの小さなグライダーは一気に空へ舞い上がった。グライダーの飛行が安定すると、かえるくんは大きく舵をきって右へ左へ旋回して遊んだ。
 


 練習のつもりでグライダーに乗ったかえるくんは、行き先を考えていなかったので、気がつくと知らないところにいた。お腹減ったなあと言って、かえるくんは高度を下げはじめた。
 



 かえるくんは公園に着地した。ハンググライダーはきちんと畳んで脇に抱えた。お腹がぐうぐう鳴った。かえるくんは街ケロだったから、ホットケーキが食べたかった。お金がなかったかえるくんはもう一度ゴーグルをつけて、水鏡で格好を確かめると、意気揚々と街へくり出した。
 


 かえるくんは街へ出ると、相棒のハンググライダーを広げた。そしてさっとゴーグルをあげてあいさつした。「僕は旅ケロのかえる!グライダーでケロリ町から来たんだ!」すると「遠くから来たんだなあ」「それどうなってるんだい?」と人が集まってきた。



 かえるくんは街の人にグライダーを見せて「一緒に乗ってみたい人はいる?」と聞いた。街の人は手を振って「小さくて乗れないよ」と言った。かえるくんのグライダーはカエルサイズだったのだ。腹ペコのかえるくんはがっかりした。かえるくんはホットケーキと交換にグライダーに乗せてあげるって言おうと思っていたから。
 

 
 かえるくんはハンググライダーを持ったまま、途方に暮れてしまった。グライダーを見に集まっていた街の大人たちは帰ってしまった。かえるくんのお腹はぐうぐう鳴っていた。すると今度は子供たちがかえるくんをとり囲み始めた。
 

 
 かえるくんは子供たちにせがまれてグライダーごっこを始めた。本物のハンググライダーは畳んでおいて、手を広げて子供たちとスイスイ走りまわって遊んだ。夢中になって遊んでいると、突然大風が吹いた。ハッとして振り返ると、子供の1人がグライダーを広げて今にも飛びたとうとしていた。
 

 
 かえるくんは「危ないっ」と叫んで大きくジャンプした。街ケロのかえるくんは、自分の激しい動きと素早さに自分でびっくりした。そして着地するや否やハンググライダーのフレームをつかんだ。そのままグライダーで遊んでいた子供と一緒に空に舞い上げられた。
 

 
 かえるくんは子供がハンググライダーから手を離さないように、片手で抱きかかえて言った。
「僕が一緒だから大丈夫」
泣き出しそうだった子供が落ち着くと、2人はぶら下がったかっこうから苦労して操縦できる姿勢になった。かえるくんが先に登って、ククというその子を支えた。
 

 
 かえるくんがハンググライダーを操縦できるようになったら、2人は途端に楽しくなった。かえるくんはちょっと寄り道しようと言って進路を西に向けた。お腹がふわっとして左に大きく旋回したかと思うと、そこには沈みかけた太陽とオレンジ色に染まった街が見えた。
 

 
 かえるくんとククは夕日を見ながらグライダーの高度を落としていった。ククは楽しんでいたけれど、いたずらしたことを思い出してだんだん胸が苦しくなってきた。かえるくんはとても楽しそうで、ククは自分がしばらく苦しいままでいたほうがいいと思った。

 
 かえるくんはゴーグルの影からククの様子を見ていた。かえるくんはカエルだけど一応大人だったので、大人はどうすればいいのやらと大人らしく考えてみた。けれど良い考えは浮かばなかった。かえるくんが考えているのがわかったのかククがもっと悲しそうになった。
 

 
 かえるくんの操縦が疎かになった。ハンググライダーがかくんとバランスを崩した。2人は肝を冷やして、特にかえるくんは慌てることもできないので大粒の冷や汗をかいて操縦に集中した。グライダーは幸い安定を取り戻した。かえるくんがふうっと息をつくと、ククはポロポロ涙を流して謝った。かえるくんは何も言えないで、ただククが今日を楽しい日だと思えたらいいと思っていた。少し落ち着いたククが顔を上げてかえるくんを見ると、ちょっとずつ元気が出てくる気がした。
 

 
 かえるくんを見ていてククは気づかなかったけれど、街並みが近づいていた。「そろそろ足がつくからね」とかえるくんが言って、2人は町外れの空き地に着地した。グライダーを目印に追いかけてきていた人たちが、わっと走り寄って2人の無事を確かめた。  
 

 
 かえるくんは無事に帰ってこられて心底ホッとした。ホッとしたらクラクラするほどお腹が空いていることに気がついた。大人たちはかえるくんを飲み屋さんに誘った。かえるくんはお酒が飲めないので困っていると、ククが走ってきて言った。「うちに来て!」
 

 
 かえるくんはククの家でシチューを何杯もお代わりして、すぐに眠ってしまった。かえるくんはこの前一緒に海まで来てくれたあの子の夢を見た。ククは叱られてまたちょっと泣いたけど、かえるくんとの冒険は楽しかったな、なんてケロッとして思った。
 


終わり






お話.イラスト

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