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朗読:眠れない夜の読み聞かせ「倒木」

文・朗読 原野てふ
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◯ショートストーリーとしてお楽しみ頂けます。

腰掛けた窓辺に、月の柔らかい光。カーテンを揺らす夜の風に小さく息を吐いたとき、あなたの時間が緩やかに流れはじめます。

目を閉じると、可愛らしい鳥のさえずりが聞こえます。ここは森でしょうか。柔らかい苔に身をあずけて、眠っていたようです。力が入らず、体がうまく動きません。でもなんだか心地よくて、深く息を吸うと、緑のみずみずしい香りで満たされます。ゆっくり目を動かして見てみると、もたれていたのは倒れた大木でした。朽ちかけた木は柔らかいのに、見た目はゴツゴツしています。

この場所に日の光が入るのは、木が倒れたからなのでしょう。何年生きた木なのでしょうか。抱えきれないほどの立派な幹です。
今は苔むして、朽ちた所に落ち葉がたまり、どんぐりが芽を出しています。小鳥が飛んできて、幹をトントンくちばしで叩くと、光る何かをくわえてまた飛び去って行きました。ところどころにキノコが生えていて、淡い光が木からキノコへと流れていきます。木から栄養が流れ込んでいるようです。耳を押し当てると、小さな生き物たちが、この木を土に還している音まで聞こえてきそうです。
たくさんの生き物を養って、この木はやがて土になるのでしょう。この木から巣立つ生き物は森で新しく命をつなぎ、数えきれないほどになるはずです。

もうこの木はなにも感じないのでしょうか。手を伸ばして木にそっと触れたら、ほのかに暖かい気がしました。

次に目を開けた時、あたりは薄暗くなっていましたが、ぼんやりと何か光っていました。仄かに黄色い優しい光です。木に添えて枕にしていた手が太陽にあてたように暖かいので気づきました。手が光っているのです。木から手を離すと、しばらくぼうっと光った後、光は消えました。手を握ると力が戻っています。
朝が来たら歩けそうです。それまでもう少し、ここにいようと思うのでした。

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