サムライ 第23話
【前回の話】
第22話https://note.com/teepei/n/n7eb2350b68ba
「全員半殺しどまりだってな。あの人数相手に、まだセーブする余裕があるとはね。相変わらず計り知れねえな、あんたは」
草間がアクリル板越しに佇む徳本を見ながら、攻撃的な笑みを見せる。
徳本は深く、どっしりとしたまま動かない。
「だけど会長は、そんなあんたの戦闘力よりも、その精神性を買ってた」
徳本が深いため息をつく。
「おっと、話を蒸し返すなって?何度でも蒸し返すぜ。だいたい今の混乱は、あんたが生んだようなものなんだ。だってそうだろ、本当に遺産を継がせたかったのはあんただったんだから」
それから草間は、財産の継承を丁重に断った時の徳本を思い出す。
今、目の前にいる徳本の重厚な雰囲気と似ている。
つまり、頑として動かない。
そして、行方をくらましたのだった。
「会長はよ、だからあんなサムライにこだわるような悪ふざけをしやがった。そんで俺が代表だ。この俺が、だぜ。分かるか、俺にはあんたに意見する権利があんだよ」
と、草間は口の片端を歪ませる。
「とにかくだ、あんたをここから出す。話はそれからだ。幸い、今回挙げられた組織ってのは相当汚れてたからな。どう天秤に掛けようとも、あんたに罪の比重がかかることはないだろう」
徳本はいっさい動かない。まるで岩のようだった。
「万が一あんたに傾くことがあったとしても、あらゆる手段でその天秤ごとぶっ壊すけどな。生憎、俺はサムライとは程遠いんでね」
目を閉じたまま、やはり動かない。
自らが受け入れる罪について、何ひとつ手を加えるべきではないと、無言のうちに主張しているのかもしれない。
「やれやれダンマリかい。まあいい、好きなようにやるさ。それと奥さんのことだけど」
その時ようやく徳本の瞼が開く。
「いつまでもご近所さんの世話に頼っている訳にもいかねえだろ。うちの看護系事業からスタッフ派遣しておくから、安心してくれ。もし望むなら、最高の医療設備と人員で迎え入れる用意もある」
わずかに徳本の口が引き締まる。
「それじゃあ徳さん、俺は行くぜ」
と、徳本より先に立ち上がり、扉を開けようとした時だった。
「家内を、頼む」
たった一言だった。ようやく口にしたその台詞には、痛いくらいの切なさがあった。まったく、あんたって人は、と心の中で呟きながら、草間が答える。
「任せときなよ」
最大の敬意と締め付けられる思いを後に残し、草間は面会室を出て行ったのだった。
(続く)