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インスピレーション

我が家のリビングからは
目の前を流れる川に架けられた
歩行者用の橋がよく見える。
橋を渡る人々もよく見える。

こちらからあちらへ渡っていく人々、
あちらからこちらへ渡ってくる人々、

犬を連れた飼い主たち、
学校の行き帰りの小学生たち、
バス停に向かう通勤通学途中の男女、
スーパーに買い物に行く主婦、
川に生息する鳥たちを撮影する写真家、
特に用事もなく散歩を楽しむ老夫婦、
朝から晩まで眺めていて飽きない。

橋を渡るレギュラーメンバーの中に
夫が勝手にインスピレーションと
あだ名をつけたお婆ちゃんがいる。
彼女は毎日身だしなみ正しく
確実な歩調で橋を行き来する。
背丈は橋の欄干とほぼ変わらず、
帽子を被った頭が見え隠れする。
自転車で往来することもある。
なぜインスピレーションかというと
あんなに小さくてご高齢なのに
いつ見てもシャンとしているから。

ある日夫と庭の植物に水やりをしていたら
インスピレーションが声をかけてきた。
「何を育てているの?」と興味津々。
「私も野菜を育てているけど見にくる?」と。

彼女の家は思いのほかすぐ近くにあった。
我が家の倍の広さはある庭いっぱいに
じゃがいも、きゅうり、トマト、なす
あらゆる野菜がすくすくと育っていた。
お土産にいんげんの種をいただいた。

昨日の午後、玄関に来客のピンポーン。
誰だろうと出てみるとインスピレーション。
「たくさん獲れて家では食べきれないから。
お返しとか心配しないでちょうだいね。」
採れたてのきゅうりをいただいた。






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