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Boss

今までありとあらゆる職を転々としてきたので元上司と呼べる人々の数も多い。

しかし、今思い返してみてあの人はbossだったとしみじみ思えるような上司は2人くらいしか頭に浮かばない。

1人目はDeborah。外資系放送局で働いていた時のboss。私が所属していた放送技術部のDirectorというポジションだった。私とDeborahの間にJennyというManagerはいたが、彼女はあくまでもDeborahの指示に従って指令を出している中間管理職であってbossはDeborahだった。

彼女は離婚を機にアメリカの小さな地方放送局でキャリアをスタートさせ、転職を重ねながら少しずつステップアップしてDirectorというポジションに到達していた。私が辞めてから彼女が会社の中でどこまで登りつめることができたのかはわからないが、上を目指していたのは確かだ。

アメリカに本社がある放送会社のアジア支社はシンガポールにあり、私はその支社の社員だったが勤務地は東京だった。Deborahは通常シンガポールにいて大体年に2,3回東京オフィスにやってきた。

そこが彼女をしてこれぞBOSSと私に言わしめる所以なのだが、Deborahは自分の要求をストレートに表現する人だった。彼女が何をどういった理由で部下に求めているのかは常にクリアだった。

仕事とは関係ないくだらない例だが、彼女と食事をするためファミリーレストランに入った時の話をしよう。レストランに入店したのは朝食にしては遅くランチにしては早い、午前中の中途半端な時間で、ちょうどモーニングメニューが終了したばかりというタイミングだった。Deborahはモーニングメニューに載っている料理を注文したいと言った。私はモーニングメニューはもう終わってしまっているからこちらから選んでくれと通常メニューを差し出した。彼女は時計を見て、まだ5分しか経っていないのだからこの料理を調理するための材料や道具はまだ片付けてないはずだと言い張った。いいからウェイトレスにそのように頼めと。オーダーを取りに来たウェイトレスは予想通り
「申し訳ございませんが、モーニングメニューの時間帯は終了しております。」
とマニュアル通りの対応。
「まだ5分しか経っていないのでそこをなんとか特別にお願いできませんか?」
と私はプッシュした。
ウェイトレスは恐らく誰かに確認しに行くために一旦下がった。数分後に戻ってきて渋々Deborahのオーダーを受けてくれた。Deborahはそうなって当たり前だという表情ではあったが、"Thank you"とそのウェイトレスに感謝を述べた。

仕事の上でもDeborahは自分がこうと思ったやり方を貫いた。そんな彼女を煙たがる部下や同僚は多かったが、彼女は責任を持って仕事をしていたし、トップの人たちの信頼は厚かった。
当時アジア支社の代表だったKevinは
"If Deborah says something, you can take it to the bank."(デボラが言っている事なら銀行に預けられるくらい信頼できる)と言っていた。

無理難題をふっかけてくることはあっても誠実でフェアなボスだった。

ブレックファーストからランチタイムに切り替わる時間帯にファミレスに入る時は要注意だったが。

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