女に去られる男たち
バンクーバーという街とは全く関係ないのだが、私が過去2回バンクーバーを訪れたそれぞれのタイミングと重なって二人の男性が女に去られた。1人は私の父親。もう1人は元上司。
32年前、ワーキングホリデーでバンクーバーを初めて訪れた。現地での滞在先やバイト先も決まってとりあえずホッとしていたある朝、「日本のお父様からお電話よ!」とホームステイ先の奥さんに呼ばれた。
「もしもし、私です。どうしたの?」
とりあえず、呑気な調子で受話器に話しかけた。
「お母さんが家を出て行った。置き手紙だけ残して。」
努めて冷静に父が切り出した。
あぁ、いよいよ実行したんだなと思いながら、そのまま無言で父の次の言葉を待った。
「お母さんから何か聞いていたのか?」
と尋ねる父の声はヒステリックなトーンを帯びて来ていた。
「いつかは出て行くかもなとは思っていたよ。」
と中途半端な嘘をついた。
父は私に直ちに日本に帰国するよう命令したが、私はのらりくらりとそれを拒んでどうにかその電話を終わらせた。
数ヶ月後に私が日本に帰国して父一人になった実家に戻った頃には両親の離婚が成立していた。
その12年後、当時勤めていた会社の上司とバンクーバーに行くことになった。この出張に出発する直前にその上司は奥さんに逃げられた。
その上司はその頃奥さんの行動に何か不審なものを感じていたのだろう。ある日の昼間、普通なら会社で仕事をしている時間帯に家に戻ってみると奥さんは慌てた様子で彼を迎えた。何か怪しいと思ってクロゼットを開けてみると男が隠れていたそうだ。奥さんはその日のうちに荷物をまとめて出て行った。
そんな事があった直後のバンクーバー出張だった。日頃は威勢の良い上司もこの時ばかりは大人しく自分の傷を舐めるしかなす術がない様子だった。彼の地でやるべき仕事は大した内容ではなかったのでほとんどは自由行動となった。私がワーホリ時代を懐かしんで街中を散策している最中に上司がどう過ごしていたのかはわからないが、出張の最後の方では少し元気を取り戻していた。異国の空気を吸うことで気持ちを切り替える事ができたのだろうか。
そんな訳で、バンクーバーを思う時、どうしてもこの二人の男性の苦難もセットで思い出してしまうのだ。