
一瞬の浅草観光
夫の生まれ故郷である南アフリカの郷土料理にパップというものがある。乾燥したトウモロコシを粉状にして水で炊いたもの。料理好きの夫はステーキの付け合わせにたまに作ってくれる。食感はコーンブレッドに近いがパン状に固まっているわけではなく、もうちょっとさっぱりパサパサしている。
日本に来てからはなかなか原料に使うトウモロコシの粉が見つからない。市販のコーンミールやグリッツで試してはみたが、夫が納得できる味に仕上がらない。
メキシコにいた時は中古で安く手に入れたVitamixを乾燥トウモロコシの粉砕専用に使って自家製粉を作っていた。凄まじい音がしたがパップを作るのにちょうど良い具合の粉が作れた。あいにくそのVitamixはメキシコに置いてきてしまった。果物や野菜のジュース作りに使っている別のVitamixはあるのだが、刃をダメージしてしまうのではと使うのを躊躇していた。それでもパップが食べたくて我慢できなくなった夫はこちらのVitamixでトウモロコシ粉砕を試みたが刃が空回りするばかりで全く話にならない。そこで、乾燥トウモロコシを砕くグラインダーを探しに合羽橋道具街に行こうという事になった。
夫が電車に乗って東京の中心まで出て行きたがる事は滅多にないので、せっかくだから駆け足で浅草を見せようと思い、船上バスに乗り、雷門とその前で写真を撮りまくる観光客の山を見せ、仲見世通りから伝法院通りに曲がり六区を抜けてかっぱ橋に向かった。
"When we have friends visit from overseas, let's send them here.(海外から友達が遊びに来たら、ここに来させよう)"
と言うくらい浅草の雰囲気は気に入ったらしいが、let's bring them here(連れてきてあげよう)と言わないのが彼らしい。一緒に東京観光する気はさらさらないのだ。
渋谷で井の頭線から銀座線に乗り換える途中、駅のコンコースからスクランブル交差点を見下ろすと、マリオカート(任天堂から提訴されて今は別名なのかもしれないが)の隊列が次から次へと通って行った。あれは海外からの観光客に人気がある東京名物みたいだよと夫に説明すると苦い表情を見せた。
東京のはずれに住んでいると日頃目にする外国人は少ないが、都心に出てくると外国人観光客の数の多さに目を見張る。殊に浅草みたいな観光地にいると日本人の方が少ないくらいだ。帰路につき、中央線が段々と終点に近づいた頃、
"I'm beginning to feel better now. Not so many gaijin."(外人の数が減って気持ちが落ち着いてきた。)
なんてこぼす夫。自分も外国人のくせに、日本人に囲まれている方が落ち着くらしい。
肝心のトウモロコシ粉砕機は見つからなかったが、甚平スタイルの割烹着と高性能のTanitaクッキングスケールを購入できてとりあえずご満悦の夫。