ばーばの思い出
写真の女性が私のばーば。母の母。辰年生まれのタツさん。子供の頃は大のばーばっ子だったくせに今となってはばーばが実際のところどんな女性だったのかあまりよくわかっていない。情けない話だ。
写真の通り和服を粋に着こなす美しい女性だった。我々一家が父の仕事の関係でサンフランシスコに住んでいた頃ばーばが単身遊びに来た事があった。じーじは高所恐怖症で飛行機に長時間乗りたくなかったため、娘と孫の様子を見てこいとばーばを1人で寄越したのだ。当時は日常的に着物で通していたばーばは10時間以上の長いフライトなのに和服で海を渡って来た。さすがに滞在中ずっと着物を着ているのも大変なので、現地で洋服をいくつか揃えて日本に帰国していった。それ以降日本に戻ってからも洋服を着る機会が増えたのは確かだが、ここぞという時は着物でビシッと決めていた。
孫の私にはとても甘いばーばだった。風邪を引いた時や体調を崩した時はとろーり甘い葛湯を作ってくれた。ホクホクの焼き芋もよく蒸かしてくれた。
じーじがなかなかのプレイボーイだったため、若い頃、私がまだ生まれる前、相当それで苦労したそうだが、実際にばーば本人の口から当時のはなしを聞いた事はない。私が登場してからの2人は仲睦まじかった。
大好きだったばーばなのに、彼女と交わした会話で印象に残っているものが記憶にあるかといったら全く思い出せない。
どんなわがままを言っても穏やかな菩薩様の様な微笑みで受け入れてくれたばーば。
彼女がどんなことを考え、何を悲しみ何を嬉しく感じたのか、大事なことを何も確認しないまま、彼女はとっくの昔に病死してしまった。
彼女が残した渋好みの着物の幾つかは私がもらった。
涼しくなって着物を着るのに良い季節がやってきた。久しぶりにばーばの形見の着物を着てみようか。