お金の話は難しい
夫が自分の仕事のためにゴルフのパターの動きを再現する人形を作ろうとして苦戦している。
以前テキサスに住んでいた頃一台あったのだが、重くて嵩張る物なので引っ越す際に手放してしまった。
どんなものかと言うと鉄パイプを5、6本組み合わせてパターを打つ時の姿勢をした人型を作り、背骨のあたりに胴の回転する動きを模すためのパーツを入れてどうにかパターを繋げ、人間がパターを打つ時と同じ振子運動をさせる装置。
夫の中では簡単に作れるはずだと言う頭があり、鉄パイプを切ったり溶接したりする道具を持っている人を見つければ話は早い筈だと思っていた。
しかし、周りの人たちに聞いて回ってみるとそう簡単にはいかず、挙げ句の果てにある鉄工所に相談したら思いのほか高額な見積もりが返ってきた。夫の中ではそこら辺にうっちゃってある余った鉄パイプを切って曲げて溶接するだけのものなのにそんな大金はかけられない。
溶接工を見つければ話が早いと甘く見ていた夫は頭を抱えた。そこで、私はある知人のことを思い出した。自動車の板金修理工という本業の傍ら廃材を加工して美術品作りをするUさん。ちょっと普通じゃない発想をする人だから夫の求めている普通じゃない鉄パイプ人形を理解してくれるかもと閃いた。
Uさんとは20年近く前に友達を通じて知り合い、しばらくは交流があったのだが、共通の知人であった友達が亡くなり、音信不通となっていた。Uさん自身生きているのかどうかもわからない。ネットでUさんの板金修理工場を検索してみると、とりあえずまだ存続しているようだった。そこにある電話番号に電話をしてみたがなかなか繋がらないので直接現地に行ってみることにした。
日曜日だったので工場には誰もいなかったが、人がそこで日々作業をしている空気は感じられたのでUさん宛に置き手紙を残してその場を離れた。果たして、翌日のお昼頃にUさんから電話がかかってきた。最初は私がどこの誰だかわからない様子だったが、共通の知人の名前を出したら思い出してくれた。とりあえず元気そうな声でホッとした。作ってもらいたい物があると話したらいつでも遊びに来いと言われたのですぐに工場に向かった。
夫を紹介し、作ってもらいたいロボットの説明をしたところすぐに理解してくれた。Uさんのこだわりは廃材を利用するというところなので、まず材料探しから始めると言われた。夫は夫でサイズ感を正確に把握してもらうために木材のモデルを作ると言い出した。モデルがあれば寸法や角度はそれに合わせて作れるから助かるとUさんも同意した。
ようやくロボットを作ってくれる人を見つけて大喜びの夫は帰宅途中にホームセンターに寄りモデル作りに使う木材を購入し、1日でモデルを組み立ててしまった。
早速木製モデルをUさんに届けようと連絡したところその日は市役所に用事があって留守なので翌日にお邪魔するということになった。夫は1日でも早く木製モデルを届けてロボットを手に入れたい一心。それがひしひしと伝わってきて、夫とUさんの間の熱量のズレに少し不安を感じた。
「早いね!」と驚くUさんの目の前で夫は木製ロボットの各部分を説明し、細かい指示を伝え、私はそれを通訳した。Uさんも工場の隅にあった廃材をいくつか引っ張り出してきて、この部分にはこんなのを使ってこうでああでと話は盛り上がってきた。
Uさんがまず土台となる下半身の部分を作るので、それが仕上がったらまた会って相談しようというところまで話が進んだ段階で夫が
"How much will you charge us?"
と値段の確認をした。
Uさんは
「予算はいくらぐらいなの?」
と質問で答えてきた。
夫はこの
"What is your budget?"
という質問が何よりも嫌いなので私はあちゃーと思った。
その質問をされると夫はいつもズボンのポケットを裏返して見せ、お金が無いというポーズをとるのだ。
Uさんが我々に高い値段をふっかけてくるなんて事はあり得ない。が、夫は夫で内心「こんな簡単な仕事、時間かけずにちょちょッと作れるだろう。しかも僕が木製モデルまで作ったのだから。」と思っているのもわかる。
とりあえず私があいだに入ってジリジリと適当な金額を割り出し、追加で材料が必要になった場合は応相談という話になった。
しかし、
「下半身が仕上がったら連絡するよ。」
と言っていたのが、
「材料集めてみて、その金額内でできるかどうか考えて連絡するよ。」
に変わってしまった。
夫にとってみれば「やっつけ仕事」でもUさんにしてみれば引き受ける以上作品なのだ。廃材をどう工夫して加工するか、じっくり時間をかけて考えたい。しかもUさんの時間は無限ではない。他にもやる事はある。それぞれの気持ちは良くわかる。
あぁ、なんでこの頑固爺さん2人を引き合わせてしまったのだろう。
私はこういう場合、
「2人ともそんなつべこべ言うなら金はいくらでも俺が出す!」
と言いたくなってしまうタイプの人間なのだ。
三人三様、お金の話はあまり得意ではないのだ。
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