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ChatGPTが現役小説家と腕くらべ

8月10日にNew York TimesのOPINIONセクションに掲載されたエッセイ"An Experiment in Lust, Regret and Kissing(熱情、後悔、接吻をめぐる実験)"を読んだ。作者はCurtis Sittenfeldというアメリカ人の小説家。初めて見る名前だが、既に7冊も小説が出版されている売れっ子作家らしい。

Chat GPTと人間のどちらがより優れたbeach read(夏の海辺などで読むのに適した軽めの小説)を書けるかという実験を試みてみないかとNew York Timesから持ちかけられたCurtisはAIが現状どこまでのものを書けるのかを確認してみたいという好奇心から受けてたった。

作品に求める条件を設定するため、beach readに含んで欲しいテーマを読者から募った結果、エッセイのタイトルにもあるlust(熱情)、regret(後悔)、kissing(接吻)がその順番で多く票を獲得した。そこで、CurtisとChatGPTはそれらのテーマを含む1,000ワード以内のbeach readを書き上げるという課題を与えられた。
ChatGPTには更に「Curtis Sittenfeld風に書く」という条件も与えられた。(ChatGPTのトレーニングに使われた数多くの小説家の作品の中にCurtis Sittenfeldのものも含まれているのだ。無断でしかも無償で使われたということで現在ChatGPTを開発したOpenAI相手に著作権侵害の訴訟を起こしている一部の作家もいるらしい。)

エッセイには2つの作品が全文掲載されていて、まずはどちらが人間によるものでどちらがAIによるものかは伏せてある。両作品を読み終えてからどっちがどっちかが明かされる。正直、言われなくてもどっちが人間によって書かれたものかはすぐにわかった。

参考までにそれぞれの作品の冒頭部分を紹介する。

When my flight from La Guardia landed in Minneapolis on that August afternoon, the first text I received was from the executive director of the nonprofit I'd be holding the training for the next day, canceling our dinner because of a family emergency.  The second text was from my friend Jenny asking me to look at the profile of a guy named James on the dating app we both used and to let her know if it was the same asked-not-one-question James I'd gone out with around Christmas.
ある8月の昼下がり、ラガーディア空港発のフライトがミネアポリスに着陸してまず着信したテキストは翌日講師を務めるセミナーの主催者であるNPOのエグゼクティブ・ダイレクターからのもので家庭の事情でその晩のディナーをキャンセルしたいという内容だった。2通目のテキストは友人のJennyからで、お互い最近利用しているマッチングアプリ上でJamesという男性のプロフィールを確認して私が去年のクリスマス頃にデートしたろくに質問を一つもしなかったJamesと同一人物かどうか教えて欲しいというものだった。

An Experiment in Lust, Regret and Kissing  
by  Curtis Sittenfeld    
The New York Times OPINION  

Lydia had always been practical.  It was her hallmark, the trait that kept her life organized in neat rows, like the files on her desk or the cushions on her sofa.  At 48, this practicality had become her armor, protecting her from the reckless impulses that she might have indulged in during her younger years.  And so, when she walked into the coffee shop on that sweltering July afternoon, it was with the same cautious optimism that she had applied to everything else in her life.
リディアは今までずっとプラクティカルに生
きてきていた。それは彼女の特徴で、彼女の人生を、彼女の机の上のファイルやソファの上のクッションの様に、規則正しい状態に保っている習性だった。48歳にもなると、この実際的な性質は彼女の鎧となり、若い頃だったら無防備に身を任せていたであろう無茶な衝動から彼女を守っていた。なので、あのうだるような7月の午後、彼女は彼女の人生全般に向けられているその得意の注意深いオプティミズムと共にカフェに足を踏み入れた。

An Experiment in Lust, Regret and Kissing  
by  Curtis Sittenfeld    
The New York Times OPINION
 

これだけだとわかりづらいかもしれないが、前者がCurtisの書いたもので後者がChatGPTによるものだ。Curtisの作品のほうには冒頭からその物語の世界に引き込まれる何かがある。それに対してChatGPTの作品は説明が多く、使い古された表現が頻発する。

Curtisは仕上がりが雑になるのを避けるため実際にお題のテーマ(熱情、後悔、接吻)が決まる一週間前から作品を書き始め、第一稿は所定の長さの倍以上になってしまったそうだ。大幅に編集を加えて内容をカットしても200ワードはオーバーしてしまうことをエディターに了承してもらったらしい。

一方、ChatGPTはものの17秒で仕上げたそうだ。

短編としての質はまだまだ生身の人間には敵わないレベルだがいずれは完全に見分けがつかなくなるのだろうか。

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