It's a dog's life
タイトルの表現は人間の状況を説明する時に使われるメタファー。ある人が犬みたいな生活を送っていると言った場合、惨めで単調、飼い主(雇い主或いはその他の権力者)の言いなりで自由が制限された状態にある事を意味する。
ある犬の置かれている状況を見て、ふとこの表現が頭に浮かんだ。その犬と飼い主一家は5ヶ月ほど前に我が家の2軒隣に引っ越して来た。その一家が越して来た直後から夜通し犬の鳴き声がするようになった。吠えているのではなく、キューンキューンと寂しさを訴える鳴き声。夜だけではなく昼も聞こえてくることがあった。
その家には両隣の家の陰になってあまり日が当たらない小さな裏庭があり、そのスペースをほぼ埋め尽くす大きさの金属製の犬用ケージが置かれている。雨風は凌げるだろうが、走り回るスペースもなく陰鬱な雰囲気が漂っている。
この一家が越して来たばかりの頃、犬はまだ仔犬だった。犬種はわからないが座敷犬ではなくイギリスあたりで猟犬として飼われていそうな風貌だ。ケージの中に閉じ込められているわけではなく長い鎖に繋がれ、ケージには出入り自由の状態だ。この家の周りには塀が無く、横から犬を観察することができるのだが、通りがかりに犬と目が合うと悲しそうな(と思われる)表情でこちらを見返してくる。吠えられた事はない。
その犬は最近はすっかり大きくなり、あの切ない鳴き声がすることも無くなった。通りがかりに目が合うと完全に諦め切ったような表情でこちらを見返してくる。たまに飼い主が散歩させている姿を見かけることはあるが、近所の他の犬と比べると回数も少なく時間も短いような気がする。これから何年あの犬はあの生活を続けるのだろう。
その犬が不幸せに見えるのは私の思い過ごしかもしれない。案外あの犬はあの犬で満足しているのかもしれない。
メキシコに移り住んですぐの頃、私はよく夫にこう言ったものだ。
「この国の犬たちはとても幸せそうね。」
それはそれで問題が起きることも多いのかもしれないが、多くの飼い主はリード無しで犬を散歩させていた。更に、飼い猫と同じように自由に家の周りをうろついている飼い犬もよく見かけた。だからと言って犬に吠えられたり危険を感じる事はなかった。
のんびり自由な生き方のメタファーとして
It's a Mexican dog's lifeというのはどうだろうか。
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