とるにたらないものたりているもの
A peaceful escape in the woods. Autumn brings the crisp fresh air and it's made me realize what is the truth of my life.
いつの間にか季節が秋に変わっていて、あきらかに次の流れへシフトしているのを感じた。自然の中を歩くと無駄に背負っていたものがはらはらはがれ落ち、本来の自分に戻れる気がする。落ち込んだり悩んだりしても毎日はすぐに思い出となるし、やっぱり過ぎ去った日々は苦く甘くせつなくてまぶしいものである。
この世で絶対といえるものが一つだけある。それは、どんな人にも死が訪れること。今この瞬間も1分づつ死に向かっているといえば悲しいけれど、それほど「今」というこの瞬間がどれだけかけがえのないものであるか、ということだ。
広い世界で縁あるかぎられた人と出会い家族と出会った。そして毎日といえば健康に気をつけたりコツコツとご飯を作って家族に食べさせ終わりなきように思える家事に来る日も来る日も追われ(走り回るように家中を片付けてもまたすぐに豚小屋となる虚しさや洗濯してもしても次の日にはすぐにランドリーバッグがパンパンになっているやるせなさ)何かこれといった大きなものを達成できてもいない、いつまでたっても何者でもない自分に落ち込んでみたり、あがったりさがったりの同じようでいて違う朝を迎える日々である。
しかし、俯瞰して自分のドタバタした人生を眺めるとそんなとるにたらない小さな生活こそが奇跡で実のところたりすぎている宝物なのだと思うようになった。
十数年前わたしは思わぬ運命の流れでイギリスに来ることとなり、仕事とか友達とか言語とか(!)それまでに自分が当たり前に纏っていたアイデンティティであったものが一旦すべて強制終了となり解体され、この国で本当にちっぽけなただのわたしになった。異国の地それも電車が1時間に一本しかない田舎町で妊娠出産を経て、当初住む場所に友達いない仕事ない言葉も喋れないの無い無い尽くしのまま赤子を抱え、日本から一緒に連れて来たわたしの人生の激動期にいつも側にいてくれ 9年間連れ添った愛犬を脳腫瘍で亡くした時には弱っていた心にとどめを刺されたような気持ちとなった。
さらには突然の父親の癌宣告すでにステージ4という現実を告げられ遠い日本で病と闘う死にゆく父を思いわたしは生き方についてどうしたって考えて答えを出さなきゃこの先一歩も前に進めないような気持ちになったのである。それまでなんとなく分かったようなつもりで生きていたわたしに人生最大の課題がのしかかってきたのだ。
こうして日々の渦に流され中年にさしかかった頃にいわゆる自分探しの旅というものを始めることになったわけで、その辺りから仏教の教えや宇宙の真理についての様々な本を読み漁ったり坐禅を体験し瞑想や太極拳もやってみた。ぐうたらなわたしが朝の瞑想はもう4年間も毎日続けているのだからこれは我ながら人生で唯一誇れるものであると思っている。とにかくわたしがこの世に生を受け生きているという意味をどこかに見出したかったのである。
そして行き着いたのは自分の人生を他人軸ではなくちゃんと自分の軸で生きるということであった。どうやら人生で起こる出来事や出会う人々すべてに意味があり、自分が主役のこの人生という舞台においてそれらはきっかりすべて必要であったのだなということが分かってきた。他者の軸で生きないこと。人にはそれぞれその人の真実がありそれはわたしのものではない。自分の軸で生きて自立した人生を謳歌しないと勿体無い。
ぐるぐる果てしなくまわりずいぶん遠くまで探しに行ったこともあったけど、幸福とは案外自分のすぐ目の前の足元にあるのだと気がつくことができた。わたしにとってそれは今日頬をかすめた風だったり、飛んでゆく鳥の羽ばたきだったり、流れる雲を見れたことだったり、隣家のおばあさんと静かに会話をすることだったり、名も知らぬ郵便屋さんとワッハッハと明るく笑いあったり、子供のとんでもない方向にはねた前髪だったりする。
それぞれ自我を持った我々が生きていくのは時にずいぶんとややこしいこともあるけれど、本当のところは案外シンプルでやるべきことは自分の中の真実を軸に日々を粛々と生きることなのだろう。
そして、人も道に咲く花も一つ一つが唯一無二の存在であると同時にあらゆるものは繋がっている、つまりみんな一つでもあるということも精神世界や宇宙の真理を追求する上で学んだことだ。この大いなる矛盾と宇宙の真理を理解できた時に人は魂の記憶を思い出し自分を生きることができるのだと思う。
先に死んでしまった犬や父からわたしはなんと大切なことを学んだのだろう。人生とは旅の途中で今ここがいつだって学びなのである。生きて自分の人生に納得しながら毎日コツコツと暮らすことを続けている限り、きっと誰か一人や二人くらいは幸せにすることができるだろう。前を向いて歩いて行こう。
イギリス生活での経験と学びの日々のなかで目に留まった「とるにたらないこと」をそっと大切な気持ちに包んでnoteに記録していけたらと思います。