幸せを届けるスペシャリストに
「キレイになりたい!」
それはとても自然な欲求の一つだ。
きっかけはいろいろある。
憧れるモデルさんを見つけたり、女友達の服やメイクを真似してみたくなったり、好きな人の「好きなタイプ」に近づけたくなったり。
でもそれは、男の人にモテたいため?
女友達にマウント取りたいため?
いやいや。
違うのだ。
キレイになりたい人の行き着く先は、
すべて、"自分のため"なのだ。
きっかけはどうであれ。
やり方がよくわからない病
私は昔から、オシャレっぽいこと、女の子っぽいことが苦手だった。
女の子が読む雑誌はほぼ読んできてないから、当時流行ったモデルの名前なんてまったくピンとこない。
この間同年代の女性4人でカフェディナーをした時も、当時のモデルの話で盛り上がる最中、私ひとり黙って愛想笑いしていた。
服のブランドもこだわりがない。
デパコスなんて買ったこともない。
部屋をオシャレにするぞと意気込んで、やり方がよく分からなくて、早2年が経過している。
「苦手」と書いたのは、「嫌い」ではないからだ。
人並みに、興味はある。
けれどもほとんど「やり方がよくわからない」という理由で、はじめの一歩が踏み出せないできた。
姉はファッション系の専門に通ってて、服もコスメもこだわりがあってカッコいい。
なぜ妹の私にそれが伝播しなかったのだろうとよく思う。
そんな話を友達にしていたら、
「さりーにはもっと映えるメイクがあると思う!!」
と熱弁してくれ、今度メイク講座をしようと提案された。
マンツーメイクアップレッスン!
夏休みも終盤の頃。
私の友達Hが連れてきてくれた友達Aが、化粧品メーカーの美容部員ということで、私の自宅に来てもらい、メイクアップレッスンをしてもらうことが決まった。
そんな経験は初めてだった。
友達Hと、その友達Aを自宅に招き、ひとしきり雑談。
浅田真央似のAは、明るくサバサバしていていい人だった。
「じゃ、メイク落としてきてね」とAに言い放たれた。
その瞬間、ドキドキした。
お泊まりでもないのに、自分ひとりだけメイクを落としに行く。
今までまったく自信のない〈自分なりのメイク〉も、素顔も、同時に露わにさせられる。
なんだか、恥ずかしい。
顔に塗ったクレンジングクリームを水でパシャパシャと洗い流しながら、今さら恥ずかしさが込み上げてきた。
タオルで顔を拭きながら、部屋に戻る。
戻ってきた私に、開口一番、Aが「肌悩みはある?」と聞いてきた。
おお、すでに講座は始まっている…!!
私は化粧水を手に取りながら、「昔からほうれい線が気になる」と答えた。
ほうれい線とは、ヒトの鼻の両脇から唇の両端に伸びる2本の線のこと。
肌質のせいか、骨格のせいか、昔からマンションの外に響き渡るほどバカ笑いしすぎてきたからか、前からほうれい線が気になっていた。
「なるほどねー」
Aは答えながら、化粧水をつける私をまじまじと見つめていた。
「肌に赤みが出やすいね。多分クレンジングが原因かなー。クレンジングの時に、もう少し細かく円を描くように手を動かすといいよ。肌になじむから」
ぎくり。
クレンジングは、たしかに雑だった。
肌に赤みが出やすいのはそういうものかと思っていたが、ちゃんと原因があるのだ。
Aは私の前に鏡を置いた。
そして私の後ろに立ち、両手を後ろから私の頬に伸ばしてきた。
「ほうれい線が気になるなら、化粧水は、5本指を顔の中心に向けた状態で、頬を引き上げるようにつけるといいよ」
言いながら実践してくれたのだが、これがめっちゃくちゃ気持ちいい。無駄な力が一切入ってない。
安い化粧水が、肌にぴったりなじんでいくのがよく分かる。
乳液も同じようにつけてくれる。
これはもはやエステの領域だ…!!
あとで聞いたらAはフェイシャルエステティシャン経験者だった。本当に気持ちよかった。興味がある方、よろしければ紹介しますよ。
その後は、私が普段使っているメイク用品をベースにしつつ、Aが持参してくれたメイク用品も足しながら、順にアドバイスをくれた。
「まだ若くて肌キレイだし、化粧下地は、少量で大丈夫。え、普段こんなにつけてたの?!いらないいらない! これの5分の1で足りるよ。ほら、これでも余ったでしょ」
「ファンデーションはテカりが気になるTゾーンだけでいいかもね。全体にしっかりつけすぎると、ツヤ感がなくなって老けて見える。ツヤ感は大切!」
「クマも気になるの? 気になる箇所だけコンシーラーつけるのもありだね。けどコンシーラーはテクスチャー硬めなものが多いから、少量にして指でなじませると、そこだけ肌が浮かなくていいよ」
「眉毛が問題だわ…ガタガタだ…
え、太いのが嫌で、やたら切ったり剃ったりしてる? それだ! まず眉毛をちゃんと生やしなさい。眉マスカラでずいぶん印象変わるよ。
……この眉毛整えるのむずいな!!
(眉毛だけで30分ぐらいかかる)」
「アイシャドウは、黄色にチャレンジしてみたいのか。よーし。オレンジ寄りの黄色なら、肌に合うね。黄色のアイライナーでライン引いてみよう。うん可愛い! 私が右目やったみたいに左目は自分でできる?
……うわあ違う!そうじゃない!
(Hから、さりーセンスないなーの野次)
えっと、もっと軽くペンを目から離す感じでいいよ。そう! その感じ」
「チークもオレンジ系にしよう。頰の1番高いところにほんのり。ツヤ感出るタイプのチーク、いいよ。おすすめ」
「黄色リップ持ってるの? それならこの黄色リップ塗ってから、ピンクリップを上に乗せて…オレンジ! うんいいね」
そして私のお顔が完成した。
なんか、イケてる気がする。
満足げに私を覗くAは、その道のスペシャリストの顔をしていた。
私の完成した顔よりも、キラキラ輝いていて、すごくカッコよかった。
毎日のメイクが「楽しい」!
この日から、大げさでなく、私の毎日は変わったと思う。
朝起きて、日々の化粧にワクワクが止まらないのだ。
言いつけ通り眉毛も生やすことにした。
毎日のクレンジングは細かく円を描くようにしっかり落とし、化粧水はピタッと肌になじむまで丁寧に、手のひらと指で引き上げるようにつけた。
ほうれい線が目立たなくなった気がする。
アイシャドウはその日の気分でピンク系とオレンジ系と交互に変えている。
そしてなんといってもツヤ感。
これを忘れないようにしている。
心なしか、前の自分より可愛い気がする。
自信を持てている気がする!
コスメ雑誌を読んでもどれがどれだかわからない。
ブランドコスメにも興味がない。
メイクの技術なんてない。
そんな私でも、一次情報からは、こんなにも強烈な影響を与えられたのだ。
それがなんだかすごい経験のように思えて、友達の存在も誇らしく、嬉しかった。
Aのようなスペシャリストはきっと、本当はぼんやり興味はあるけどそれに手を出せないでいるだけの人や、やってもどうせダメだと思ってる人にも、新しい希望を与えられる存在だと思う。
こういう人がもっと増えたらいいなぁ、と純粋に思った。
幸せをダイレクトに運んでくれる、最高のスペシャリスト。
かっこよくて憧れる。
自分自身もこういう人になりたいなぁ、と強く思った。
専門性を持っていて、それが誰かの為になる。そんな人に。