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「野外で授業」実践事例報告会        ② 大日向小学校

はじめに

 2018年にスウェーデンの野外教育教材「野外で算数」を翻訳・出版して以来、子どもたちの学びを野外のフィールドで育んでいく取り組みが、少しずつ日本各地で広まってきました。各地でのワークショップやオンラインセミナーを実施する中で、現地の先生や指導者の方々がアクティビティやその考え方を学び、実際の現場で子どもたちを相手に実践されています。  
 今回は、オンラインでの報告会として、「野外で授業」の取り組みを実践している方々をゲストに3つの事例を紹介していただきました。スウェーデンのアイデアをヒントに、それぞれのフィールドに合わせて自分たちで内容やスタイルを工夫しながら、熱意を持って実践されています。

②大日向小学校での野外を使った授業の試み

発表:原田友美さん(長野県大日向小学校教員)
   佐藤麻里子さん(長野県大日向小学校教員)

原田さん:私たちは大日向小学校という学校で、「イエナプラン」という学校のあり方を実践しています。私たちの学校で「野外で算数」や、野外でどういう活動を実践してきたかについて紹介したいと思います。
 「イエナプランスクール大日向小学校」は2019年4月に開校したばかりの、今年で3年目になる学校です。長野県佐久穂町というところにあり、もともとは廃校になった佐久穂町の町立の小学校をそのまま利用しています。イエナプラン教育を実践する小学校の認可を受けた一条校としては日本で初めての学校です。

 イエナプラン教育とはどういうものかを簡単にお伝えします。元々はドイツで始まったもので、第一次世界大戦後にペーター・ペーターセンという教育学者が、ドイツのイエナ大学の付属小学校で実験的に始めた学校のあり方、仕組み、理念が基になっています。しかし、ドイツでは戦争の影響もあってあまり広がらず、それがオランダに伝わりました。オランダには教育の自由があり、保護者が自分たちのやり方で学校を作ることができるということも手伝って、イエナプランスクールがオランダで一気に広まりました。今はオランダ全土で200校程度のイエナプランスクールがあります。それでも全体の数パーセントです。日本で言うと、1980年代に書籍などでイエナプランが紹介されたほか、リヒテルズ直子さんという方がここ20年くらい日本で紹介をされていて、それでイエナプランを知って実践する方が徐々に増えてきたという状況です。

 イエナプランの特徴は、4つの基本活動を大事にしていることです。「対話をすること」「仕事(学習) をすること」「遊ぶこと」「催しをすること」です。この4つが学校のメインの活動になっています。それから、異年齢であることです。私たちの学校では、3学年が1クラスに入っています。

 カリキュラムとしては、国語や算数の授業というものはありません。「個別学習の時間」と「共同学習の時間」という大きな2つの枠組みの中で学習指導要領の内容をこなしています。個別学習の時間を「ブロックアワー」と呼んで、その中で自分で1週間の計画を立てて学習することと、「ワールドオリエンテーション」という探究的な学びのテーマに基づいて自分たちで調べながら学んでいくという2本の柱で学んでいます。これらを手段・方法としていますが、イエナプランでは「ビジョン」をすごく大事にしています。「こういう子どもたちになってほしい」とか、「こういう社会になってほしい」、「こういう世界になってほしい」という願いが元にあり、そのためにこうした活動を行なっているという理念がはっきりと示されています。私たちもそうした理念に基づいて日々の活動を行なっています。

 「ブロックアワー」と「ワールドオリエンテーション」という、自立学習と共同学習の関係としては、ブロックアワーでは読み書きなどを行い、ワールドオリエンテーションでそれを応用していくというように、この2つを行ったり来たりしながら学びを進めています。ここにあるように、世界につながる木をイメージしながら、それを自分で登っていくのではなくて、そうした世界に出ていくためにはそこにハシゴをかけるように、もっと高く登れるようにすることが基礎学習なんだという考え方です。

 こうした学びを進めていく上で、私たちは学習指導要領をどう実践して、その中身をどう学んでいくのかということを考えなくてはいけなくて、カリキュラムを柔軟に設計していくことが非常に求められます。先ほども、森の中で学習指導要領の内容をこなしていけるという話がありましたが、私たちもそれを教科書ではなくて、どう子どもたちの生活の中で実際の生きた学びとして学んでいくのかを考えることがとても大事になってきます。その中で、外で活動することや体験的に学ぶことは、すごく重要で有効なことだと感じています。岐阜のようにはどんどん外に出て行けていませんが、そうした活動を取り入れ始めているところです。
 ありがとうございました。続きは佐藤さんから説明していただきます。


佐藤さん:私は1960年代に東京で子ども時代を過ごしたので、本当に自然体験が乏しかったんですね。ただ、母親が自然体験を大事にする人だったので、そういった全然自然に恵まれない地域でも、「こんなのがあるよ」ということを教えてもらって楽しんだ記憶があります。東京で30年教員をやっていましたけど、それをなんとか子どもたちとも出来ないかという思いがありました。
 先ほども話にありましたが、こんなに周りに自然があるのにそれを使っていないということを、長野に来てすごく思うんです。私は東京の中央区で教員をしていたので、本当にコンクリートしかなかったけど、その中でも「こんなのあるじゃん」って引っ張って行くのが楽しかったんです。それが長野の大日向小学校に来ると、一歩校庭に出るだけでもうそのまま学びの場なんですね。そういうふうに、子どもと一緒にワクワクするようなものをどうにか出来ないかと思っています。
 うちは一条校なので学習指導要領の通りに進めないといけない学校なんですが、その中にいかに野外での学びを入れていくかという挑戦をしているところです。先ほども教科書のことが話題に出てましたが、この3年間はいかに教科書から抜けても大丈夫なんだと言えるかという中でやっています。野外で活動することをメインにしている学校ではないので、これからどんどん実践例を学んでいきたいと思っています。

 大日向小学校での実践事例を紹介させていただきます。私たちは1~3年生の低学年を担当しています。特に紹介したいのが「長さ」の単元の活動です。3学年一緒にやるので、学習指導要領のいろんな価値が混ざってくるんですね。でも、それをなんとか一つのラインに並べてやってみようということで、この秋に実践してみました。

 学習指導要領では、1年生、2年生、3年生とそれぞれ目的が違います。活動内容もそれぞれの学年であれば、こんな活動をするかなというものになっています。それを並べ替えて一緒にやってみました。
 
 最初は「長さを比べる」という1年生がメインの活動だったんですが、3年生も一緒になってやってもらいました。ここでは枝などの素材をたくさん使いました。この背の高い男性は教育実習生なんですが、彼は身長が188cmあるんですね。そこで校庭にあるいろんなものを使って、同じ長さのものを探しました。他にも、自分のペンと同じ長さのものがあったとか、動かないものどうしを比べるために同じ長さの枝を使って比べるとか、そういった活動をたくさんしました。

 次に、2年生で初めて「ものさし」を使う単元があるので、外に出ていろいろなものを測る活動をしました。 まず教室でインストラクションをして、1人1本ずつ定規を持って外に出て、いろいろものを測ってワークシートに書いていきました。石を測ったりいろいろとやっていました。
次に、1メートルより長いものを測ってみました。まずは自分の歩幅を測ってみてから、歩幅や巻き尺を使っていろんなものの長さを測りました。

 そして、10メートル選手権という活動をしました。チームを組んで10メートルだと思うところで止まってもらい、巻き尺を使って10メートルが合っているかどうか調べました。合っていたチームは3年生1人、1年生2人というチームでした。
 次に、「1kmを歩こう」ということで、校外に出て行きました。学校からよく探検に行く場所があるので、どこまで行けば1キロになるのかを想像させながら、「自分の歩幅が50センチだから、1kmは何歩だろう?」というのを計算機で計算して、その歩数でここが1kmだというところで止まってもらって、実際の距離を測って「誰が一番1kmに近かったか」というような活動もしました。
 これは3年生の内容なんですが、「距離と道のりの違い」についての活動です。学校の目の前に住んでいる教員がいるんですが、その人の家までグーグルアースの衛星写真を使ってまっすぐ測ると何メートルでしょう。じゃあ、道に沿って歩くと何メートルだろうということで、実際に歩いて一緒に測っていくという学習をしました。写真は教員の家までの距離を測ってみた様子です。やっぱり直線距離よりも道のりの方が長いというのが実感としてわかりました。
 この後で、「1~3年生までの学習を全部してみたけどどうだった?」と子どもたちに聞いてみました。「3年生の勉強が一番簡単だった」と言っていたのがすごく面白かったです。

 おまけとして、これは学習指導要領には載ってないんですが、世界の単位や昔の単位を教えました。最後にようやく教科書とドリルで学習をしてテストをやって、どれくらい出来たかを確認するという流れでした。教室に戻って問題プリントを学年別に配ったんですが、みんな3年生の問題をやりたがって、結局全員が全部チャレンジすることになりました。ただ、難しいところもあったので、2年生が1年生に教え、3年生が1年生に教えてということになりました。

 他にも「100を作ろう」という活動を毎年やっています。10の束が10個で100になるということで、石や枝、たんぽぽの綿毛を使って、100を作りました。

 これは教科書の単元ですが、「たんぽぽのちえ」という2年生の国語の教材があります。東京の頃にもやっていたんですが、やっぱり実物のたんぽぽの近くでやるというのが夢でした。大日向小学校は「たんぽぽ広場」という場所があるくらい環境に恵まれています。外でみんなで教科書を読んで、その後、説明文に書かれている通りのたんぽぽを集めて自分たちの成果物を作りました。

 本校には遊具がありません。子どもたちが遊具がほしいと言ったので、保護者が子どもたちの委員会と一緒になってプロジェクトを立ち上げて、ひとつずつ遊具を作ってくれています。そのうちの一つがこの切り株を使ったサークルで、桜の木の下にあるので「桜サークル」と呼んでいます。イチョウの木の下にあるのは「イチョウサークル」。他にも登り棒のようなものや土の山を作ってくれたりしています。
 ここは日当たりも良くて、程よく木陰にもなるので音楽や歌を歌ったりしています。音楽の時間は気候が良い時は屋外でやりました。ちょうど、「こぎつね」という歌なんかは、歌詞の中にたくさん秋の様子が出てくるので、イメージも膨らんだと思います。

 2学期のワールドオリエンテーションは、技術に関するテーマで行いました。低学年はクラスごとに「陸・海・空」というテーマで技術を学びました。私のクラスは「海と水の技術」がテーマで、校庭に池があるのでそこで自分たちで船を作って、動力で動かすという活動をしました。次に、子どもたちが「人が乗れる船を作りたい」と言い出したので、牛乳パックとペットボトルをたくさん集めて、何とか一人が乗れるサイズの船を作ったんですね。実際に体重の軽い子が乗って出来たんですが、「でも、船ってあんなに重たいのにどうして浮いているんだろう?」という問いから、「船がなぜ浮くのか?」、「船はなぜ進むのか?」という動力についても調べて発表するという活動につなげていきました。

 「めぐる1年」というのがワールドオリエンテーションの1年を通したテーマなんですが、四季折々に外に出て遊んでいます。私たちの学校では、近くにプルーン畑を借りているんですが、そこにも季節ごとに出かけていって、春夏秋冬のプルーン畑の様子を観察しています。やっぱり、手を動かして遊べることがすごく良いみたいです。火起こしをして、焼き芋を作るようなこともやっています。
 最後の写真は落ち葉を使って図工でアートをしようということで、一人ずつ絵を作ってパウチにしたりだとか、校庭中に絵を書いたりということもしていました。

 最後に、なぜ「野外で算数」を使ってやろうと思っているかと言うと、1年生の算数の単元って実は詰めてやると内容がかなり早く終わるんですね。今のところ、2月中には全部終わる予定で、残りの1ヶ月ちょっとを復習など他の体験に使えるので、じゃあここでまとめて「野外で算数」の本の中から活動をやってみて、いろいろな活動を組み合わせながら復習をしたいと思っています。シークレットバックや、分類ゲーム、パターン作りを取り入れたり、雪も降るので雪で立体を作ってみたりもしてみたいと思っています。 ありがとうございました。

 参加者からの質問:3学年が一緒のクラスということですが、公立の小学校だと成績をつける関係もあって紙のテストをやったりします。大日向小学校では、どんなふうに知識や理解を確かめるためのテストとそういった学習を組み合わせていますか?

佐藤:テストはあります。教科書ですべて教えるわけではないですが、最後に学習内容が定着しているかどうかを評価しなければ次の手立てを打てないので、紙のテストをしています。

原田:テストはやっているんですが、通知表が数値ではなく文章での評価なので、子どもたちにとっては学んだことが本当に自分でできるかを試すためにテストをしているという感覚があって、他の子と比べるためにやっていないということがすごく定着しています。テストって悪い面もあれば、とても大切なものでもあるので、テストをすることで自分の実力を試すというふうに子どもたちも捉えているんだと実感しています。
 ブロックアワーの時間で言えば、私たちは教えることはしないで、どちらかというと観察する立場になっているんですね。その中で子どもたちがどんどん自律的に学ぶようになっていて、私たちは子どもたちがちゃんとできているかという全体を見ています。そして、この子はできていないとわかったら、その子をサポートするというような役割です。なので、テストをする前から、ブロックアワーの時間内で定着しているかどうかをかなり把握することができています。


 ここで紹介されている野外で算数の活動は2018年に翻訳出版されたスウェーデンの自然学校協会が発行している『遊びながら野外で学ぼう 野外で算数』に紹介されています。詳しくは以下のホームページからご覧いただけます。

主催:北海道 / 企画・運営:NPO法人 当別エコロジカルコミュニティー

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