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2023年4月の記事一覧
【spin a yarn】
研磨した春の星を湖の妖精に渡す。水の中ではカッティングされた星は貨幣や装飾、祈りの道具として使われる。薬効もあるが、湖の中でどのように使われているかは分からない。湖に沈んだ星と交換になる。湖の星も用途は多岐に渡り、無駄になるところは一つもない。
【spin a yarn】
小さな足音がする。遊んでいるのだと分かる。仕事を離れた妖精は、驚くほど無警戒になる。ただそれは虫の遊びで、人に気にされることは少ないだろう。よほど目についたとしても、霊の瞳でなくては見ることはできない。妖精の遊びの輪に入る赤子は、よく見かける。
【spin a yarn】
散歩に出る。体調がよい時よりも優れない時の方が妖精をよく見かけるような気がする。妖精の存在はそうあって欲しいという願望かもしれない。それでも小さき者を見かけると心に喜びの火が灯る。その喜びだけでいいのだと、その度思うのに、また心は彷徨うだろう。
【spin a yarn】
伏せっていると、妖精がやって来て、おしゃべりしましょう、と言う。私のことなど構わず、一歩的に好きな食べ物のことを話して去ってゆく。薬でもくれるのかと思ったのに。呟くと、またさっきの妖精が来て、何かしゃべっている。私の回復はないが、孤独でもない。
【spin a yarn】
全てから取り残されてしまったので、今日配られた、今日のカードを生きる。それでも何者かになれた自分を夢想してしまう。それが喜びだった。もう何にもないよ。白紙のカードに今日も妖精を視る。はりきって花弁を運んでいる。そういう嬉しいを届けたいのだと。
【spin a yarn】
夢を見ていた。
妖精になった自分は軽く、悩みがなかった。
目が覚めて、体は重く、それは肉の体だからと思うけれど、瑣末な悩みの積み重ねだとも思った。重い体でゆっくりと思考する。遅い思考は人間の特権、かえって大事なものだと。
【spin a yarn】
まどろむと羽ばたく
昼間、うつらうつらしている時に妖精の羽ばたきが耳に届く。目を開いても姿は見えない。目を閉じると羽音だ。からかわれているように思う。眠ってしまう。日が傾きかけたころ、はっとして目を覚ます。書き物を終えている。いつ手を動かした?
【spin a yarn】
きのこを狩り、運ぶ。多くは粉末にされ、薬になる。そういえば、と私は妖精に尋ねる。きのこを食べるのは好きなの? 妖精は力強く頷く。甘いものが好みで人からくすねるのは見たことがあるけれど、食事する姿はあまり見ない。食べなくても平気ではあるのだろう。
【spin a yarn】
妖精が滑空するのを見たことがない。飛ぶことを厭うわけではないが、楽しみというわけでもないようだ。泳ぐのと似ていると聞いた。飛ぶことは疲れるのかもしれない。それでも、それを補う喜びはあるだろうと想像する。湖の上でホバリングして楽しむ姿を見かけた。
【spin a yarn】
確かに妖精なのだけれど、その体は安定していなくて、時折変化する。翅の筋は葉脈のようにも見え、しかしそこにはやがて透明の膜が張られる。星を戴いて遊んでいる時に妖精の姿は変わる。その最中に目を合わすと慌ててその姿を消す。夢中の遊びなのだろうと思う。
【spin a yarn】
絵画を見ている
それは動く
いつの間にか絵画の中に連れ込まれたのかもしれない
夢を見ていた
すべてが描写される世界は物語だと気づく
描かれることを妖精も私も知って、振り向いてその視線を探す