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【spin a yarn】
妖精との出会いはギフトだ。少しでも記録しようと試みているけれど、文字はほつれ記憶は曖昧になる。一緒にいれば確かなのに、記そうと思うと言葉は結ばれてしまう。ほとんど霊の妖精の様子を伝えるために必要なものを探している。それは詩よ、と歌う声がする。
【spin a yarn】
その小径を歩いていったら、また私たちに会えるわよ。会えなくなるの? あなたの体が大きくなるから。あたしスコーンをがまんするわ! たくさん食べて大きくなって、そうしていつかまた私たちに出会って。やだ、ここにいる。でもほら、もう私たちが見えなくなる。
【spin a yarn】
夜が明ける前、虫たちの声が聞こえた。季節は絶え間なく歩を進める。妖精も翅を鳴らすのか尋ねる。できるよ、と手を挙げた妖精は背中の翅を器用に鳴らす。りーんりーん。星のかけらが震えるんだ、と言う。仄かに青む。それは秋の星のように冴えていて美しかった。
【spin a yarn】
くるまった花弁が開かれて、眠っていた妖精が起きる。何を告げることもなく、佇む。それは世界が開かれているということをあかしするようで、私はそっと手を組む。妖精は御使いではないので、言葉を持ってはこないけれども、創造の一部として瞬きながら飛んでいる。
【spin a yarn】
暑さの中に寂しい嬉しさを見つける時、私の中で季節が進む。気温に変化はなくとも日の差し方が違うことに気づく。妖精はいつでも涼しげに飛ぶ。自然の申し子のようなのに季節に頓着しない。そこが人の子でもあるように見える理由か。洋服の裾のリボンを結えている。
【spin a yarn】
背中に誘われて野原を歩いていたのに、辺りは鬱蒼とした森になる。妖精は迷いなく歩み続ける。空がどんどん遠くなる。見たことのない樹木が次々に現れる。陽だまりが見えたので、私は妖精を追い越し明るみに出る、とそこは家の庭だった。背中に羽ばたきを感じる。
【spin a yarn】
朝起きた時、少し夜の気配が残るようになった。それを私は秋のつま先だと思っている。微かなそれはたちまち雲散してしまうけれど、立ち止まらない季節を感じる出来事だ。散歩をする。妖精たちが朝日を浴びようとしている。意志ではなく本能の動きのように見える。
【spin a yarn】
妖精たちが本の中へと帰って行く。それを止めることができずにただ立ち尽くしていた。頭を振る。私のデスクの上には星のかけらがあり、妖精も、いた。今のは白日夢、なぜそんな幻を見ただろう。列をなして去ってゆく。ずっとここにいてよいの。妖精は小首を傾げる。
【spin a yarn】
星降る夜を待つ。妖精が空を仰ぐ。私も長い夕暮れの中に佇んでいる。風が吹いているので、いくらか過ごしやすい。でも暑い日が続いていつも目眩をしているような気持ちでいる。その時、星のかけらの味が口に広がる。目が開け、妖精の数が増える。すっと鼻が通る。
【spin a yarn】
その羽音の涼しい。妖精は涼を運ぶ。今日も暑くなりそうだ。手であおいであげると心地よさそうにし、そのまま姿を消してしまう。透明になれば、暑さをしのげるの。答えはなく、また暑さがじりじりと迫ってくる。窓を開けると涼しい羽音がいくつも流れ込んでくる。
【spin a yarn】
湖の妖精が網にかかることはないけれど、人の子どもの釣り糸を掴むことはある。湖クラゲと呼ばれる現象で、現象というのはクラゲが釣り上がるのだけれど、その姿はたちまち消えてしまうことから。ネオンに輝いていたとか星のようだった、という目撃談が絶えない。
【spin a yarn】
ひとつの瞬きをした後、時計を見ると1時間が経っていた。星のかけらを食べた私に起こった出来事はそれだけだった。ただ、とても不思議な感覚として今も体に残っている。体の中で爆発的に何かが働いたことは分かる。しかしそれはとても静かだった。妖精の姿はない。
【spin a yarn】
星のかけらを口に含むと、目が開け、世界が反転し、翅も生える。そういうことを期待はした。もちろん何も起こらない。おいしかった? と聞かれ、まだ口の中で転がしている、と答えようとした時、体が湖に沈むような深い静けさが体を覆ってきた。呼吸が遅くなる。