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ハッカーを読め (7/7) 『銀河ヒッチハイクガイド』

過去に雑誌等に書いた記事を再掲しています。編集前のものなので、出版されたものとは異なるし、掲載にあたり若干修正している場合もあります。これは2007年に発売された、UNIX MAGAZINE Classic に書いたもの。

ダグラス・アダムス『銀河ヒッチハイクガイド』

本当はここでやめようと思ったのだが、やはりどうしても最後に「銀河ヒッチハイクガイド」を挙げておきたい。ハッカーもプログラマも登場はしないが、ハッカーに絶大な人気を博していると思われるからだ。著者はアップルマスターでもあったダグラス・アダムス

今から20年前の1986年、シリコンバレーに長期滞在している最中に Connectathon という NFS の相互接続性テストイベントがあった。当時は UNIX ベースの様々なマシンが登場していた頃。テストしながら問題点を現場で次々に修正していくのだから、集まって来るのはカリカリのカーネルハッカー達である。

受付をすませると資料と一緒に The Hitchhiker's Guide to the Galaxy のペーパーバックと、そのイラストをプリントしたTシャツが渡された。うれしそうにTシャツを来てペーパーバックを片手に楽しそうに語り合う参加者を見ていると、何を言っているのかはほとんどわからなかったが、彼らにとって特別な本だということだけはわかった。

元々はイギリス BBC のラジオドラマとして作られたもので、脚本が書き上がるのはいつも収録直前だったとか。しかも、次回のことを考えずにストーリーを展開するハチャメチャぶりだが、まるで最初から計算していたかのようにまとめていくのは才能だろう。プログラムは書かずともやっぱりハッカーだったと思うのだ。原作はこのラジオドラマの脚本をノベライズしたものである。

ハリウッドで映画化するのが作者の夢だったが、実現することなくアダムスは2001年に亡くなってしまう。皮肉なことに作者の死を機に映画化の話が進み、2005年ついに公開に至る。しかも、それまで3冊しかなく、しかも絶版だった日本語版が、シリーズ5作品を揃えて出版されることになった。これらを普通に書店で買える今の読者はすごくラッキーなのだ。映画のプログラムには、先に挙げたラッカーの翻訳者でもある大森望氏が文章を寄せている。

本作品がコンピュータ業界に与えた影響は大きい。DEC の Babel Fish や、IBM の Deep Blue は作中のキャラクターに基づいているし、Google で「人生、宇宙、すべての答え」を計算すると42という答えがでることも一時期話題になった。そもそも Google の社名のヒントにもなっていると思う (同社の説明によれば違う)。

思い付くままに紹介してきたが、実のところ読書量はあまり多い方ではないので極めて偏った選択になっていると思う。これが入っていない、あれはどうしたという意見は山程あるだろうが、そんな談義をはじめるきっかけにでもなってくれれば幸いである。



今は、ハリウッド版ヒッチハイクガイドは BlueRay で買うこともできるし、オンライン配信にもあるので、まだの人は是非観てほしい。酷評する人もいるが、僕はとても好きな映画だ。ズーイー・デシャネルのトリリアンは可愛い。ただ、ビーブルブロックスの造形はイマイチだと思うのですよね。

1981年に BBC で作られたテレビシリーズも入手可能だ。映画版に比べるとチープなことこの上ないけど、それがなかなか愛せる。うちには VHS ビデオもある。ビーブルブロックスは映画版よりもこっちの方が好きなのだ。映画版は MIB2 に出てくる双頭の宇宙人みたいにして欲しかった。


河出文庫版のヒッチハイクガイドシリーズは現在も入手可能で、Kindle 版もある。でも、風見潤訳の新潮文庫版がおすすめかなあ。

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