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スタートアップのための「最小限人事」のススメ ~GPTW最高評価企業が実践する組織づくりの秘訣~
はじめに:2025年もやります!note経営陣連載
皆さんこんにちは!テックタッチ代表の井無田です。
当社製品が属する「DAP市場」の国内シェアNo.1の4年連続達成+圧倒的なシェア伸長(とあるVCさんからは「全投資先で、2024年の成長No.1」と仰っていただきました)を記念し、今年も、年始のマネジメント陣のnote連載リレーを実施します。週2目標でそれぞれの領域において、他社さんにも参考になりそうな、面白いトピックを投稿していきます。
少しでも皆さんのお役に立ちますことを祈ります!
参考リンク
2024連載:フェーズ毎の社長の仕事について振り返る
2025年の連載第一弾として、私からは組織設計の話をします。
テックタッチは、おかげさまで上記のような素晴らしい売上高成長を遂げているわけですが、同時に、ありがたいことに、「組織としての評価」もとんでもなく高評価を第三者機関からいただいています。例えば、下記です。
- ドクタートラスト社から最高クラスの評価(職場環境指数で偏差値90.0)
- Great Place To Work® Institute Japanから「働きがいのある会社」認定
今回は、「事業の高成長と共に、素晴らしい組織成長を両立できている理由」についてフォーカスを当てていきたいと考えています。
事業は、「ヒト」がいないと絶対に伸ばせません。その、「ヒト」のアウトプット量に大きく影響を与えるのが「組織」なわけで、組織設計のグランドデザインの良し悪しがとてつもなく大きな事業のレバーとなります。
と、言いつつ、いきなり主題を否定するようでなんなのですが、テックタッチでは「組織設計」に多くのスタートアップがするような大きな投資はしていません。HR領域では、採用にかなり大きく投資を振っていますが、組織設計は限定的です。
理由は簡単です。スタートアップでは人員リソースが限られており、特にスケールするまでは、できるだけ事業や課題に向き合ってナンボだからです。パッチ当てのようなイメージで、組織拡大とともに必要な施策を最低限ずつ拡大する形で十分なのではないでしょうか。(現在は、wevoxでフィードバックをもらいながら課題の早期発見に努めています)
テックタッチがやって良かったこと、現在注力していることや、その思考プロセスについて、下記で触れていきます。
これまで取り組んで良かったこと
①:初期フェーズで理想の組織について社内で議論&すり合わせ
創業して最初の2年くらい、メンバー20名くらいまでは、社内で組織の目指す方向について、かなりの時間を議論に費やしました。昨年稿の通り、社員全員が会社の普通株を持っていたことで、メンタル的なオーナーシップも持ってくれ、自分ごととして、かなり熱く議論をかわしました。
具体的には、なりたい自分たちの言語化(=テックタッチのバリューや行動指針の言語化)や、それを支える価値体系のすり合わせ(=隔週で実施した、組織改善のあり方を議論するランチMTG)を通じて、組織の方向性や考え方の骨格を作ることができました。
後から振り返ると、一つ一つのことは、この時間は過大投資だったね、というようなことも多い気がします。が、初めて起業した私にとっては、「理想の組織」というものをイメージ・言語化した経験がなかったため、社内メンバーと議論しながら自分なりの考えを言語化してもらうことのできる、とても貴重な時間、必要な時間だったと考えています。
また、当時のメンバーは会社が大きくなった今でも、めいめいの持ち場の中で僕たちですり合わせた価値観の提唱者として、バリューの浸透をリードしてくれています。僕も彼ら/彼女らがいてくれるおかげでバリューからはみ出る行動をとりそうになった時に襟を正してくれる存在として、心強くそしてありがたく思っています。
(これを全スタートアップにお勧めできるかはわかりません。僕たちの場合は幸いなことに初期からPMFが順調だったために少し余裕が持てた、ということもありましたし、初期メンバーのオーナーシップやパッションの方向性に少なからず助けてもらった側面も強くありますので、仲間次第なのかもしれません)
②:スタートアップで取り組みがちな「評価制度」や「ティール組織」の撤廃
評価制度
「評価制度」導入の良し悪しやタイミングはかなり意見が割れるところだと思います。世間の常識的には「評価制度はある方が正しい」と感じられるからです。「給与の決定メカニズムが不透明だと不信を生む」「努力の方向性を指し示す指針」「マネージャーとしてのマネジメントツールとして使いやすい」などはそれを支える主だった考えだと思いますし、これらは全くもって正しいです。
ですが、僕の経験上、評価制度を導入すると、「市場や顧客ではなく、自社のロジックを優先してしまいがち」「全社最適よりは個人最適を考えてしまいがち」という大きな欠点も感じています。失敗したスタートアップからも、経験談として「評価制度を導入するのが早すぎて、事業成長ではないところに時間を割き過ぎた、セクナショリズムが横行した」という話もよく聞きます。
ちなみに社内でも知っている人は僅かですが、テックタッチでは当初「OKRを用いた評価制度」を活用しようとしましたが、OKRについての運用経験があるメンバーが少な過ぎ、運用が回らない(コストが大きすぎる)との判断で一瞬で撤廃しました。笑
現在では、メンバー全員に説明した上で、できる限り運用コストを下げる形での最低限の評価制度のみの運用で耐えるようにしています。
ティール組織
「フラットな組織」への想いは、プロダクトチームや、起業家にはあると思います。そして、「ティール組織」のような前衛的な手法は、常に挑戦したいと思わせる磁力を持っているものです。
当社でも、「ティール」に(プロダクト組織中心に)一時期挑戦しました。が、運用コストが大き過ぎて早期に断念しました。意思決定のプロセスメカニム図の運用が煩雑すぎ、誰も正しい運用ができずに、本格運用にまで辿り着かなかった、と言うのが正解でしょうか。こういう大技は、目的と手段が逆転してしまってゴールを見失いがちといった欠点も感じました。
どちらかというと、伝統的な「Mgrや経営陣がいるピラミッド構造(=役割の明確化)」の上で、どう自分なりに思い描く「フラットな組織」を発信していくか、施策に落とすか、に注力した方が良いかと思います。
現在、大事にしていること:「内発的動機」
上記のような紆余曲折を経て、これまでの自分のビジネス人生を通じて、モチベーションを高くする源泉のようなものを抽象化することができました。それは、これらのことに集約される気がします。
①:仕事上でのチャレンジができること
②:「良い」仲間と一緒に仕事ができること
③:自分の仕事が世の中を良くすることにつながること
①:仕事上でのチャレンジができること
全ての仕事に共通して、ラーニングカーブと熱意の曲線が存在するように思います。最初は先輩あるいは先駆者に新しい仕事を教えてもらうところから始まり、徐々に自分なりの理論体系ができ、圧倒的な成果が出せるようになる。でも、それが一定期間を過ぎてしまうと、「飽き」がきてしまい、より難易度の高いフロンティアを求めるようになる。ハイパフォーマーであればあるほど、そのサイクルは短期化します。
熱意や「ゾーン」に入って仕事ができる状態を保つために、常に新しい役割を持ってもらうことは大切です。例えば、当社取締役の中出はCFOと事業開発の兼務から始まり、事業セグメントの拡張や、CPO兼務、そして新規プロダクト開発へと数年間でその役割を大きく変えてくれています。また、執行役員の垣畑もVP of CSから始まり、昨年末からVP of Opsも兼務するようになっていますし、Head of PRとして入社してくれた中釜も早々にマーケの責任者も兼務してもらうことになりました。もちろん、いずれの動きも、個人のチャレンジを重視したと言うよりは、その時々の会社に必要な役割を担ってもらった結果であることも言い添えておきます。
現在運用中の施策と、誰がいつから始めることを推奨するか
- 採用時に必ず採用候補者のやりたいことやチャレンジについて整理し、機会提供できるか考える(CEO/採用責任者、初期〜)
- 株式を持ってもらうことで、個人のチャレンジをただ応援するだけではなく、個人の挑戦と会社の利益をアラインさせること(CEO、初期〜)
- 数年間の育成シナリオや本人志向にあったキャリアプランを採用時に見せ、採用後にアップデートしていく(部門、いわゆるファーストラインMgrができて以降〜)
- 部署ローテーションを前提とした若手育成プログラム創設(CEO/採用責任者、プレシリーズA〜)
近未来に取り入れたい施策
- 職種間の異動/モビリティのプログラム化
②:「良い」仲間と一緒に仕事ができること
テックタッチの事業資産で最も強いものは何か?という質問に対して、私は間違いなく「人」と答えます。採用候補者にも必ず言ってもらえるのは、「テックタッチで働く人の人の良さが素晴らしい」ということです。
そして、これはそもそも設計して作っています。「良い人」「チームプレイヤー」しか採用しない、しっかり市場と顧客と課題に真っ直ぐに向き合える人しか採用しない。これを起業当初から徹底しています。
私は起業する前までに、何度も組織の問題で失敗した経験があります。もちろん自分の至らなさに起因するものも多いのですが、問題を大きくするのは大抵「組織の(特定の)問題児」です。組織が壊れると、事業の時計の針が長い間止まり、また、悪い場合には巻き戻ったりします。
今日長々と書いている文章の中で一つだけ皆さんに自信を持ってお伝えできることがあるとすれば、「良い人以外は絶対に採用するな」です。これに関しては何度重要性を伝えても伝えきれません。
ダイバーシティ/多様性についても、できるだけ重視したいと考えています。(「カルチャーフィット」という言葉と「ダイバーシティ」は相反しがちな言葉だと思っています。テックタッチでは「カルチャーフィット」はむしろホワイトリスト方式よりはブラックリスト方式というか、仕事にパッションとチャレンジを見出しているか、チームプレイができるかどうか、を足切り要件的に見ているに留まります。)
世間一般に言われる、性別や人種の多様性も大事なのですが、より重視しているのは経験や人生の多様性です。ただでさえ、日本人は同質性が強く、それは平時には強みなのですが、スタートアップ的な動きの速い有事の真っ只中にあるような組織の場合、様々な経験をしている人が多く存在することは会社としての幅に直結すると考えています。
現在運用中の施策と、誰がいつから始めることを推奨するか
- 採用プロセスにこだわり、面接の設計やリファレンス、ビアテストなど、細心の注意を払ってカルチャーフィットを重視して採用する(CEO/採用責任者、初期〜)
- バリューで自分達のありたい姿を定義する(CEO、初期〜)
- ダイバーシティも意識しながら採用面談&選考(CEO/採用責任者、シリーズA〜)
近未来に取り入れたい施策
- オンライン/オフラインコミュニケーションの促進
- オフィス体験の強化
③:自分の仕事が世の中を良くすることにつながること
これも非常に重要なポイントで、やはり自分のやっていることが世のため人のためになることの達成感は素晴らしいものがあります。ただし、こればかりはどんな事業/プロダクトを志向しているかで決められてしまうものなので、あまり施策としてできることはありません。しっかり自分の中で「誰のどんな課題を解決して、どんな未来が作れるのか」を言語化/ストーリー化しておくことくらいかなと思います。
まとめと、テックタッチの現在の状態
トピックがトピックだったので、なかなか図解がしづらく文字ばかりで読みづらかったらすいません。超簡単にまとめると、
- とにかく100名までは人事領域は採用に全集中
- 「チームプレイヤーしか採用しない」を完全徹底
- 採用する人のチャレンジと会社のオポチュニティをマッチングする意識
- 初期に理想の組織についての社内すり合わせをする(余裕あれば・・)
というポイントを押さえていくだけで、「良い会社」の土台ができてくるはずです。
上記の結果として、テックタッチはこのような、戦闘力と採用力を双方備えた組織になったと自負しています。
- 課題にしっかり対峙できる
- オーナーシップを持つ人が多い
- 政治的な動きやセクショナリズムが少ない
- 心理的安全性が高い
- フラットな志向が多い
- 人を助ける、「Giver」が多い
- 人間的に魅力のある人が多い
組織が大きくなったなりの新しい課題も多く出てきていますが、今後も私たちらしい方法で解決を模索していきます!
おまけ
最後に、25年経営陣note連載を置いておきます!