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【小説】五平餅【ついなちゃん二次創作】

神奈川県・厚柿市あつがきしの一角にある、一見普通の雑居ビル様の建物。

その建物内では、謎の秘密結社【狐面党こめんとう】が日々の野望の為に密かに活動している…と思われるのだが、とてもそうは見えない長閑な空気がその一角には漂っていた。

「戻ったよ、ただいま」

まるで白い狐を思わせる銀髪金晴の美女…狐面党三幹部筆頭・八蜂鞠やちまりククリが、両手に沢山のエコバッグを抱えて建物内に至る。

「クーちゃん、おかえり」
買い物帰りのククリを出迎えたのは、狐耳付きのパーカーと狐を模した手袋を身に着けたオッドアイの少女だった。狐面党三幹部のひとり・涙目なみだめコロンである。

「うわ、クーちゃん。今日のおゆはんの買い出しの筈が、何でそんなに大荷物になってるんだコン」
大袈裟に驚くコロンに対し、ククリは肩を竦めて見せた。

「商店街の福引きでエラいものを当てちまってねぇ」

そう言ってククリはエコバッグを床に降ろす。中には、堅焼き煎餅の袋が大量に詰められていた。

「うわ、こんなに沢山のお煎餅、食べきれないんだコン」
コロンが呆気にとられる。
「それに食べきれないからと長く保存して置いたら、湿気しけって美味しくなくなるコン。いや、カビとか生えたら一大事だコン」
「慌てるんじゃないよ、らしくもない。片づける手筈は道すがら考えた。心配は要らないよ」
そう言ってから、ククリはエコバッグの内、煎餅以外の食材が入ったものをコロンに差し出した。
「手間だけどこいつを冷蔵庫にブチ込んでくれるかい」
「判ったコン」

コロンがエコバッグをえっちらおっちら運ぶのを見届けてから、ククリは台所に煎餅の袋を残らず持ち込み、戸棚の中から大きな擂り鉢を取り出した。
それも、大きなお寺で使うような特大サイズの擂り鉢だ。
ククリはそれを台所の床に置き、正座した自身の足でしっかり固定すると、煎餅の袋を開封して中身をザァーッと流し込み、擂粉木を取り出して煎餅をガツガツと砕き始めた。

「何してるコン?」
食材を冷蔵庫にしまったコロンが、怪訝な顔をしてククリの手元を見る。
「まぁ、見ておいで」

砕かれた煎餅は、ククリの鮮やかな手つきで瞬く間に粉にされた。
ククリはあるだけの煎餅を砕いてすり潰し、粉にしてしまうと、今度は蕎麦打ちに使う大きな捏ね鉢を準備して、砕いた煎餅の粉を流し込んだ。
その粉に適量の水を加えて固く練って、練った生地を平たい串に小判状にまとめる。

「後はこいつを焼いて田楽味噌でもつけりゃ、ジェネリック五平餅の完成さ」
「クーちゃん凄いコン!」

コロンが万歳三唱する。ククリはニヤリと笑い、それからコロンに声をかけた。

「焼き上がったら合図するから、それまでにカリンの奴に声をかけておいてくれるかい?あの子は放って置くといつまでも研究室から出て来ないからね。ジェネリックとは言え、矢張りあの子にも焼きたてを食べさせてやりたいんだよ」
「判ったコン!」

狐面党三幹部のひとり…発明家・谷崎たにざきカリンを呼びに、コロンがとことこと歩いていく後ろ姿を見送りながら、ククリは煎餅から再錬成した【ジェネリック五平餅】を焼く為に焼き網の準備を始めた。

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こちらの作品は、過去についなちゃん二次創作企画【ついなちゃんフライデークリエイト】にて書いた参加作品【煎餅三題】の一編を加筆修正したものになります。
秘密結社【狐面党】は【鬼っ子ハンターついなちゃん】内では泣く子も黙る凶悪なヴィランですが、ワタクシはどうしても狐面党の皆様に【悪党としての矜持がある悪党】そして【仲間内の結束が固い】と言うイメージを抱いてしまうのです(これは合成音声を用いた動画作品の影響もあるのかも知れませんね)。
因みに以前にも【おかん】なククリさんを書いた事があって、その作品も割と好評だった事を申し添えます。

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