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ビエネッタが消える日

過日のニュースで、森永乳業の人気商品【ビエネッタ】がライセンスの失効により40年の歴史に幕を閉じる旨が報じられていた。

あのアイスケーキが40年もの間日本に存在していた事も驚きだったし、そもそもビエネッタが海外(イギリスとオランダの合弁企業だそうである)からライセンスを取得して販売されている商品だと言うのも初めて知った。発売当時からかなり高級な品で、子供の頃親にビエネッタを食べたいと懇願した時は尽く却下されている。そしてワタクシはそのまま、今日に至るまでとうとう一度もビエネッタを口に入れる事が無かった。

ビエネッタが日本の市場から消えると言うニュースが日本を駆け巡ったその日、ワタクシは高校卒業後初めて就職した職場の事をぼんやりと思い出していた。
何を隠そう、ワタクシが一番最初に入社した企業は森永乳業の子会社の某工場である。北海道函館市を離れ本州に移り、アウェイな中での社会人スタートだった。
その工場では、森永乳業が世に送り出している様々なアイスクリームを作っていた。

今だからカムアウト出来る事だが、この工場と言うのが矢鱈残業が多く、その上とんでもない体育会系の職場だった。元来不器用で立ち回りの悪いワタクシは良く先輩に怒鳴られたり殴られたり蹴られたりしたものだ。ヘルメット装着時とは言え馬鹿デカいスパナでガツン!とやられた事さえある。
先輩からの暴力は仕事の間だけに留まらず、週末ともなれば当然のように酒盛りにつき合わされ、無理矢理大量の酒を飲まされてしばしば二日酔いになった。或いは寮で休んでいると泥酔した先輩が雪崩込んで来て「何か酒のアテを作れ!」と無理難題を吹っかけたり、先輩の誰かが引っ越しをするとなれば問答無用で拉致されて人足としてこき使われたり…と、理不尽な逸話には事欠かない。
ワタクシは度を過ぎたパワハラ・モラハラに耐えかねて僅か9ヶ月でその工場を退職したが、後で噂に聞いた話ではその後も先輩による後輩潰しは後を絶たず、遂には新規採用を一時的に止めてしまうに至ったらしい。ワタクシの同期も皆短期間でかの工場を去り、残っている者はひとりも居ない。あれだけパワハラ・モラハラが横行していたら若手が居着かないのは当然の帰結である。
ワタクシを潰そうとしていた先輩は、だいたいワタクシより10歳程年齢が離れた世代だった。存命ならばぼちぼち還暦を迎える頃だろう。老いた今も彼等は性狷介で粗暴なままなのだろうか。それとも深酒が祟って既に墓の土だったりするのだろうか。

この時のパワハラ・モラハラがトラウマになり、ワタクシは退職後数年程アイスクリームが食べられなかった時期がある。今は流石に食べられるようにはなったが、糖質制限を自らに課しているので進んでアイスクリームを食べる機会は少ない。

その工場での主力商品が、ビエネッタとジャンボモナカだった。
両者とも機械のメンテナンスが極めて面倒だった記憶がある。洗浄作業だけで軽く一時間以上はかかっていたのでは無かろうか。

かの工場内では、社員食堂に食べ放題のアイスクリームバーが存在したが、そのアイスクリームバーにビエネッタが並んでいた記憶は無い。売れ筋な上に高価な品だった為、流石にアイスクリームバーに並ばなかったのだろうと見ている。

今後ビエネッタ製造を止めるとあらば、ビエネッタを製造する為の機械の扱いはどうなるのだろう。搬出されて廃棄されるのか、それともアタッチメントを変えて別な商品を生み出す事になるのか。はたまた商品名が異なるだけで製造工程が似通った類似品を製造するのか。
最早外部の人間となったワタクシには知るすべが無いが、気になるところである。

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