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ラブクラフト・スクール

【クトゥルフ神話大系】の語を知らない人は、皆無とは言わないがそんなに居ないのではないか…位には常々思っている。
【神話無きアメリカの新たなる神話】とまで言われる(最もこの語はネイティヴアメリカンの神話の存在を無視している帰来が無くも無いが)この神話大系、元を正すとひとりの怪奇作家が記した一連の小説群にその起源を持つ。
作家の名はハワード・フィリップス・ラブクラフト。
1890年生まれ、1937年歿。享年46歳。
所謂【コズミックホラー】の元祖とも言える存在である。然し、生前はその作品が正当に評価される事は無く(アルゼンチンの文豪ホルヘ・ルイス・ボルヘスに至っては公然と「取るに足らない作品」と切り捨てている)残された作品も実はそれ程多くは無い。
だが、ラブクラフトの死後…ラブクラフトの文通仲間であった作家オーガスト・ダーレスによる尽力に後押しされて急速に評価が高まり、今や怪奇譚を語る上で無視出来ない存在になっている。影響を受けた作家は数知れず(前述のボルヘスでさえ影響を受けた作品を残している)、またラブクラフトが構築した世界観に独自の要素を盛り込み、更に世界観を広げた後続の作家も多い。日本では特撮ドラマ【ウルトラマンティガ】にクトゥルフ神話大系の神格・ガタノゾーアをモデルとした登場人物(?)が登場したり、同じくクトゥルフ神話大系に登場する「無貌の神」ことナイアルラトホテップを題材に据えたラノベで【這いよれ!ニャル子さん】と言う作品が出ていたりする(この作品に対し誰がつけたか【ラブクラフト最大の誤算】なる語があって思わず呵々大笑してしまった)。

さて、今回語りたいのはクトゥルフ神話大系について…ではない。どちらかと言うと今回フォーカスしたいのは【クトゥルフ神話大系】を作り上げた人々の事である。

【ラブクラフト・スクール】と言う言葉がある。
ラブクラフトと、その作品群に惚れて集まった有志によるサークルに対し後世の人々がつけた通称である。
ラブクラフトは生前、無類の手紙好きだったと言われており、同好の士に対する手紙の数は膨大な量(一説には20000通余りとも)に昇ると言われている。そして、同好の士との親密さもまた、伝説的に幾つか伝えられている。一例を以下に記す。

ラブクラフトの同好の士のひとりである作家ロバート・ブロック(1917年生まれ〜1994年歿、享年77歳。怪奇映画愛好家の方には、映画【サイコ】の原作者として認知されているかと思われる)が、1935年に【星からの訪問者】と言う一編を記した。その際、ラブクラフトに作中に登場する『神秘家』のモデルとしたい旨を打ち明け、本人の許可を得た。
その後、ラブクラフトはブロックへの"返礼"として、1936年に前作の続編的な一編【闇をさまようもの】を記し、作中の登場人物として前作の主人公(ブロックの作品では名前がない)を登場させ『怪奇作家ロバート・ブレイク』なる名前を与えたのである。
(ネタバレ回避の為仔細は伏せるが、クトゥルフ神話大系に属する作品の常として、これらの登場人物はいずれも作中で悲惨な最後を遂げる事となる)

こうしたエピソードは、ワタクシが知らないだけで多分他にも沢山あるのだろうと思う。
巧い言葉が見つからないが、作品を通じて交流し、或いはキャラクターのモデルとして採用し、また世界観のアップデートを図ると言う関係性には強い感動を覚える。

何故急にこんな一文を綴ったかと言うと、ワタクシも現在進行系でこうした関係を(意図しない内に)構築してしまっていた事に気がついたからだ。
勿論気がついた時には物凄く感動を覚えた。
お互い、世界観をある程度共有したり、時にはアップデートを図りつつ、作品を生み出して切磋琢磨する。実に良い関係性ではないか。流石に互いのキャラクターの命を奪うまでには至って居ないが。(これは綴る物語のジャンルに依るものであると考えている)

そして、この事に気がついた瞬間、ワタクシの座右の銘【孤高にして孤独に非ず】の語が一際輝きを増すのである。

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