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【小説】続・深窓の令嬢【ついなちゃん二次創作】

此処は、とある次元軸の神奈川県・厚柿市あつがきし

欧州の何処かにあるような広い庭の大邸宅。
バラの花が咲き乱れるその庭で、13歳位の淑やかな少女が、二十代前半位のクラシカルな装束を身に着けたメイドに髪の毛をブラッシングして貰っているのが見える。
少女の、腰まで届くその長髪は真珠色で、瞳は琥珀色、肌は雪のように白い。吹けば飛ぶ程に儚げで華奢な少女だ。他方、そんな少女を優しく慈しむメイドは肩まで切り揃えたコーヒーブラウンの髪が美しい上品な佇まいの淑女である。
白を基調としたドレスに身を包む真珠色の髪の少女と、クラシカルなメイド服に身を包むコーヒーブラウンの髪の淑女。随分と対照的な姿だが、淑女はまるで歳の離れた妹をいたわるように、優しく少女の髪をくしけずる。

「はい、終わりましたよ」
淑女…少女に献身的に仕えるメイド・明日夢志穂あすむ しほは透き通るような美声で少女に呼びかけた。目をとろんとさせていた少女が瞼をぱちくりとしばたかせる。

「…志穂ねぇやんのブラッシング、あんまし気持ち良くて、ついうとうとしてしもた」

少女は関西訛りが混じった口調でそう呟いた。見かけにたがわぬ細くてかわいらしい声だ。儚げな容姿と愛らしい声、それにそぐわぬ関西訛り。そのギャップが、また少女の魅力を引き立てる。

「髪の毛のお手入れが終わりましたから、お茶の時間にしましょう。今日は良い豆が手に入りましたよ」
「ホンマ?志穂ねぇやんが淹れてくれるコーヒー、おいしいから大好き」
「ふふふ」

間も無く志穂は、磁器製のポットと茶具一式を揃えて屋敷の台所から庭に出た。金の縁取りが鮮やかな白いティーカップにネルのフィルターを噛ませたドリッパーを乗せ、先程コーヒーミルで挽いたばかりの豆を投じてポットから湯を注ぐ。間髪入れず芳醇な薫りが庭に満ちた。
七分目ばかりコーヒーが満たされたティーカップを志穂が少女に勧める。
「どうぞ」
「おおきに」
少女は目を細めてコーヒーの薫りを楽しみ、ゆっくりとコーヒーを口に含む。
「おいしい」
少女が笑顔になった。志穂は、コーヒーを楽しむ少女の姿を見ると、まるで我が事のように嬉しそうな様子を見せた。

「私がこのお屋敷にご奉公が決まったばかりの時のお嬢様は、何処か悲しげで…まるで何かに怯えているようにお見えでした。でも、今はそれが払拭され、笑顔を取り戻された様子で何よりです」
「志穂ねぇやんのお陰やよ!」
満面の笑みで少女はそう返答する。志穂は、少し屈んで少女の顔を覗き込むようにした。
「これからも、私をいっぱい頼って下さいませね」
「うん!」
にっこり笑顔で頷いてから、少女はこう続けた。
「ねぇねぇ、折角やから、志穂ねぇやんも一緒にコーヒー飲もう?」

志穂は少しだけ驚いた様子だったが、直ぐに一礼して微笑んだ。
「仰せのままに」
「そんな堅苦しゅうしなくて大丈夫やよ」
「…では、お言葉に甘えて。御相伴に与らせて頂きますね」
志穂は、予備のティーカップにコーヒーを淹れる支度を始めた。

***************

遥か空の上。
鉄色の鱗を持った龍の背中に跨り、そんな地上の様子を観察する者があった。
ひとりは真珠色の髪をツインテールにし、和洋折衷の戦装束を身に着けた琥珀色の瞳の少女。もうひとりは癖毛気味のボサボサ頭に眼鏡、ジャケットとジーンズに身を包んだ冴えない顔色の若い男。その冴えない男の肩には、ジャンガリアンハムスター程の大きさのパンダのぬいぐるみがちょこんと座る。

「どや、テクパンはん。ウチが言うた通りやろ」
真珠色の髪の戦乙女…辟邪の神格、方相氏・追儺ほうそうし ついながにんまり笑う。

「確かに…それにしても、追儺さんの多次元同位体が深窓の令嬢とは、なかなか変わった別次元軸もあったものですな」
顎を擦る冴えない顔色の若者の名は龍熊子貊りゅうゆうし ばく。人間から精霊に転生した変わり種で、今は何処の次元軸にも属さない異世界の楽園【小蓬莱島しょうほうらいとう】に住まい創作三昧の日々を送る。因みに【テクパン】とは、彼が人間だった頃に用いていたハンドルネームである。

「このせかいの ついなおねえちゃん やさしい おねえさんに だいじにされて しあわせそう」
幼児のような辿々しい口調で、パンダのぬいぐるみ…モネが口を開いた。モネは、今追儺と貊が跨る龍・ライコーダと同じく、貊と共に小蓬莱島に住まう言わば貊の扶養家族である。今日はライコーダ共々別次元の追儺の事が気になったと見え、貊の次元渡りに半ば強引について来た。

「フシャアアアム」
ライコーダが吼え、追儺が「どうしたん?」と小首を傾げる。モネはライコーダの頭の上に飛び乗り、何やら頷きながら聞いていた様子だったが、やがて追儺の掌の上にふわふわと舞い降り、こんな事を追儺に告げた。

「ライコーダちゃんね、『若しもこの世界のついなのお嬢に何か良くない事があったら、俺達が力になってやろうじゃないか』だって」
「それは心強いね。おおきにやで、ライコーダはん」
「フシャアアアム」

空の上でそんな会話が交わされているとも知らず、少女…追儺の多次元同位体・如月きさらぎついな嬢と志穂は、コーヒーを楽しみながらにこやかに対話を続けていた。

****************

こちらのお話は、半年前に書いた以下のお話の続編になります。


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