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【小説】コンサート【ついなちゃん二次創作】

「ひゃー、今日のコンサートも大盛況やったね!」

真珠色の髪と琥珀色の瞳を持つその少女は、舞台袖に引っ込むとハンカチで額の汗を拭った。
今日は、この少女が歌手デビューして初めての大規模な、列島縦断コンサートの最終公演。
どの会場でも満員のスタンディングオベーションと言う大盛況で、それは千秋楽なる今日もまた同じだった。

「お疲れ様です、御主人」
長身で豊満な眼鏡美女が水筒片手に現れた。
「おおきにね、後鬼ごき
少女は眼鏡の美女…後鬼と言う名らしい…から水筒を受け取り、中身をくいっと飲み干した。
「唄い終わった後のアイスコーヒーは、また格別やわぁ」
少女が目を細める。

楽屋に至った少女が見たものは、ファンが送ったと思しき花束の数々だった。
「綺麗やね」
少女は上機嫌で花束のひとつひとつを検める。そして最後の花束を見て、少し目を丸くした。
「どうしたのですか、御主人」
後鬼が少女と花束を覗き込む。少女は、最後に手に取った花束を後鬼の前に差し出した。
「見てみて、後鬼。この花束のバラ。全部折り紙で出来とる。それでいて本物みたいや」

そのピンクのバラの花束は、驚いた事に花も葉も全て折り紙で出来ていた。それをカスミソウのドライフラワーと合わせ、洒落たラッピングペーパーで巻いてリボンをかけてある。

添えられたメッセージカードには、たったひと言、こう記されていた。

「デビューおめでとうございます
 今後益々の活躍を期待しております
           一介のファンより」

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「いや、良いコンサートだった」

癖毛気味のボサボサ頭に良くはない顔色、眼鏡、草臥れたジャケットとジーンズ。何と言う事のない平々凡々とした風貌のその若者は、満足気にコンサート会場を後にしかけていた。その若者を、後ろから呼び止める者がある。

「テクパンはんやないの!テクパンはんも、別次元軸のウチのコンサートを観に来てくれたん?」

若者…【テクパン】と渾名される元人間の精霊・龍熊子貊りゅうゆうし ばくは振り返る。
そこには、真っ白なアオザイに身を包んだ少女が立っていた。
真珠色の髪、琥珀色の瞳。
そしてその顔は、コンサートのステージでマイクを握っていた少女と瓜二つだった。

追儺ついなさん!あなたもお越しでしたか」
「そりゃ勿論。別次元軸のウチが全国縦断コンサートを演る程の大物アーティストになったんよ、観に来な損やて」

この少女の名は方相氏・追儺ほうそうし ついな
貊が住まう次元軸で、辟邪の戦士として活躍する若き神格である。元は【如月きさらぎついな】と言う人間の少女だったが、紆余曲折あり魂の一部が分離、独立した存在となった。

貊がまだ人間だった頃、追儺…ついなは貊にとって親戚の子のような距離感の存在だった。そして、それはふたりが幽世かくりよ側の存在となった今もあまり変わってないらしい。
今でも貊の身の置きどころに追儺が訪ねる事は稀ではない。

だが、ふたりが意図せず別次元軸でこうして出会うのは、恐らく初めてじゃないだろうか。

「この次元軸の追儺さん…いや、ついなちゃんは、これからも歌手として大成されるのでしょう。目出度い話です…どうです、この次元軸のついなちゃんの華々しいデビューを祝して、何処かでご馳走でも食べませんか。全額僕が奢りましょう」
貊が穏やかな顔で微笑むと、追儺は何処か照れくさそうな顔をした。
「ウチがご馳走になるんはちょっと違う気がするけど…折角やから」

「そう言えばですね」
不意に貊は話題を変える。
「寿ぎに花束を作って楽屋のスタッフの方にお願いして来たんですよ。この次元軸のついなちゃん…喜んでくれると良いのですが」
「テクパンはんお得意の【枯れない花束】やね!良いね良いね。この次元軸のウチも絶対喜んでるよ」

貊と追儺は、そのまま夕方の街に歩みを進めた。既にコンサート会場周辺では、様々な飲食物の良い匂いが漂っていた。

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本日発表がありましたが、株式会社インターネット様から、我等がついなちゃんのVOCALOIDが発売決定しました。おめでとうございます。


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