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【小説?】雨上がりの街角【ついなちゃん二次創作】

秋とは名ばかりの残暑厳しいある日、自称【よろず創作家】TechpanCreateテクパン・クリエイトは、急な夕立にしとど濡れた道路を松葉杖片手に歩いていた。

今日は定期通院の日、しかもその後諸用にて役所に立ち寄って先程やっと開放されたばかり。
税金周りの重い話だった上、窓口の職員に恫喝紛いの説教を喰らい、げんなり歩くTechpanCreateの足取りは重かった。

先程の夕立の影響なのだろう。
歩道のそちこちに水溜りが出来ている。

自ずと、松葉杖を握る手の力が強くなる。

病を得て、松葉杖無しで歩けなくなって一年に手が届く。TechpanCreateにとって、階段と泥濘ぬかるんだ道は鬼門と化していた。特に泥濘んだ道はいけない。余程用心して歩かないと忽ち滑って転倒する事請け合いである。そうなったが最後、望む望まぬを問わず地べたに熱い接吻を強要された上、前歯が全て折れ砕けよう。

TechpanCreateの歩みは遅く、摺り足に近いそれになっていた。

車道を挟んで向かい側に学生達の集団が見える。どの学生も元気で活発そうだ。

(…俺にもあんな頃があったのよな。もう30年以上も前の昔だが)

人知れず溜息をつき、TechpanCreateが一歩踏み出したその時。

足元が覚束なくなり、体がぐらりと前のめりになった。何かに足を取られたらしい。しかも、弾みで左手から松葉杖が離れた。

(…しまった!)

もう駄目だ、地面に顔面が直撃する…と思った刹那。

TechpanCreateの体は、誰かの手によりしっかりと抱えられた。
「!?」
意外な成り行きにTechpanCreateが後ろを振り向く。そこには、TechpanCreateよりも頭ひとつ位背が高い少年が真面目な表情で立っていた。
短めの髪は赤に近い茶色、ボタンが全て外された学ランの下に白のポロシャツを身に着けた、すっきりとした目鼻立ちの整った少年だ。しかも顔つきを見るに、恐らく高校生では無く中学生のようだった。

「大丈夫っすか?」
少年はTechpanCreateと視線が合うなりぶっきらぼうに問いかけた。
その少年の手が、倒れかけたTechpanCreateの体をしっかりと掴んで支えている。

「ハイ、これ。これが無いと不便でしょ」
背の高い少年の影から、今度はTechpanCreateより頭ひとつ低い背丈の黒髪の少年が現れ、落ちていた松葉杖を拾ってTechpanCreateの左手に握らせた。
松葉杖を握る指に力を込め、体勢を立て直す。
「ありがとう。助かりました」
TechpanCreateが短く謝意を示す。背の高い少年は、そこで初めて手を離した。

「この辺は最近道普請があって、歩道の一部が仮舗装なのでデコボコしてて危ないんです。特に今日みたいに夕立…いや、ゲリラ豪雨かな?とにかく急な雨の後は普通に歩ける人でも転ぶ事がありますから、足元には気をつけて」
背の高い少年の後ろから、更にもうひとり少年が現れた。背丈は黒髪の少年とどっこいどっこい、背の高い少年と同じようにボタンを全て外した学ランの下に真っ赤なTシャツを身に着けている。その眼差しには生来のきかん気がありありと伺えた。髪はやや短めのコーヒーブラウン。

「ご親切、痛み入ります」
「いえいえ」
TechpanCreateが改めて謝意を述べ、少年達は笑って手を振る。その笑顔の溌剌さが、病を得た上に年老いたTechpanCreateには何故か眩しかった。

少年達はそのまま、TechpanCreateが目指す方角とは反対側に歩き出す。
数歩歩きかけたTechpanCreateは、その時ハタと思い出す節があり、少年達を振り返った。…が、既に少年達の姿は見えなかった。
その時になって初めて、TechpanCreateは少年のひとりが着ていた、赤いTシャツに墨痕鮮やかに書かれた文字を思い出した。

【たにし】

****************

「あれ?」

神奈川県・厚柿市あつがきしの街角で、学ランに身を包んだその黒髪の少年は後ろを振り返って怪訝な顔をした。

「どうしたんだよ、広葉ヒロ
前を歩いていた、背の高い赤髪の少年が振り返る。【広葉ヒロ】…平安時代最強の陰陽師・安倍晴明あべのせいめいの末裔、安倍広葉あべ ひろはは赤髪の少年…広葉の親友、日折司輝ひおり しきに向かって答えた。
「いや、さっき救けた松葉杖の人。急に姿が見えなくなったから、変だなぁと思ってさ」
「大方、直ぐ先の曲がり角を曲がっただけだろ」
広葉の問いに答えるのは、学ランの下に【たにし】と書かれた真っ赤なTシャツを着た気の強そうな少年。広葉と司輝の親友で厚柿市長の息子、小林小太郎こばやし こたろう
小太郎コタの言う通りだ。多分神隠しとかじゃないだろうよ。そう心配すんな」
司輝は、破顔一笑した。
「それよりもよ、今日の晩メシ、広葉ヒロが作って御馳走してくれるんだろ?早く広葉ヒロの家に行こうぜ。部活でメッチャ動いたから腹ペコなんだよ」
「判った判った。そうくなって。後、こないだみたいに『嫁に来てくれ。広葉の作った味噌汁が飲みたい』とか際どいジョークは無しな?約束しないなら作ってやんないぞ」

司輝と広葉が歩き出したタイミングで、それまでふたりのやり取りを黙って見ていた小太郎は広葉と同じように後ろを見た。が、矢張りそこには誰も居ず、ただ疎らに雲が浮かぶ夕焼け空が広がるばかりだった。

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