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前回の「AI Agent超訳」をより簡潔にわかりやすく説明
1. そもそも「AIエージェント」とは?
● エージェントのイメージ
定義:AIエージェントは、大きな目標を設定し、それを達成するために周囲の情報を観察して判断し、必要に応じて外部ツールも使いながら行動を起こすアプリケーション。
人間の比喩:たとえば「シェフ」をイメージするとわかりやすい。シェフは「おいしい料理を作る」という目標に向けて、冷蔵庫の食材(外部情報)を確認し(観察)、どう調理するか考え(推論・計画)て行動し(実行)、状況に応じて柔軟にレシピを変えていく。
● 「モデル単体」と「エージェント」の違い
モデル単体:文章を要約したり翻訳したりできるAI(例:ChatGPTなど)。情報処理がメインで、外部世界へのアクセスや継続的な行動はそこまで得意ではない。
エージェント:モデルの「考える能力」に加えて、「外部ツール(情報源)にアクセスして新しい知識を取り込む」「実際に何かを操作する・行動を提案する」「自律的にタスクを再計画する」などができる存在。
2. エージェントを構成する3つの主要要素
Model(言語モデル)
たとえばChatGPTのように「テキストを理解し、生成する」能力を持つAI。
ReActやChain-of-Thoughtといった“考え方のフレームワーク”に対応したモデルを1つまたは複数使う。
大規模モデルでも小規模モデルでもOK。
Orchestration Layer(オーケストレーション層)
エージェントが「何をどういう順番でやるか」を管理する頭脳部分。
具体的には、モデルの推論結果を受けて「じゃあ次にどのツールを呼び出すか」を決めたり、外部情報を取り込んだ後に改めてモデルに判断をさせたりするループの仕組み。
このループを繰り返しながら、最終目標に到達するまで自律的に行動・再計画する。
Tools(ツール)
モデルが参照できる「外部APIやデータストア」、あるいは「何らかの処理をする機能」のこと。
Google検索APIを使って“リアルタイム情報”を取ってきたり、メール送信APIを呼び出して実際に誰かにメールを送ったり、データベースを検索して在庫チェックをしたりできる。
ツールを使うことで、モデルの知識(学習時点)を超えた“新しい世界”とやりとりできる。
3. エージェントの中で使われる「ツール」の種類
3.1 Extensions
エージェントとAPIをつなぐ“橋渡し”。
たとえば「Google Flights」のAPIを呼び出して、フライト情報を取得するExtensionがあれば、エージェントは自然言語で「来週の金曜にオースティンからチューリッヒへ飛ぶ便は?」と聞かれても、自分でFlight APIの使い方を学んで呼び出す。
Extensionがどういう引数で、どう呼び出せばいいかをあらかじめサンプル例示(Examples)で教えておくと、エージェントは会話中に動的に呼び分けできる。
3.2 Functions
エージェントが“関数呼び出し”という形で要求を出し、クライアント側(ユーザー側のプログラム)が実際のAPIを呼ぶ仕組み。
エージェントは「関数名と引数」を生成するだけで、実際にAPIを叩くのはクライアントの役割。
「データを細かく制御したい」「エージェントにAPIキーを渡したくない」「認証ルールが厳しい」などの場合に便利。
3.3 Data Store
外部データ(文書、テーブル、PDF、画像など)をベクトル検索用データベースに入れておき、エージェントがそこから必要な情報を引き出すしくみ。
RAG(Retrieval Augmented Generation)でよく使われる。「この文書からユーザの聞いている内容に近い部分を探す→モデルに回答の参考情報として与える→正しい内容を含んだ回答を生成」といったパターン。
モデルが古い知識しか持っていなくても、最新の情報や社内の機密情報をデータストア経由で取得すれば、実用的な回答を出せる。
4. エージェントを賢く動かすための推論フレームワーク
エージェントが「次に何をすべきか考える」際の作法(プロンプトエンジニアリングの手法)。
代表的なものが以下の3つ。
ReAct (Reason + Act)
「思考(Thought)」と「行動(Action)」を交互に書いていくスタイル。
例:「次はWeb検索が必要だ→検索結果を観察→さらに別のツールで数値計算」…などを逐一記述していく。
思考過程を自然言語で書かせるため、開発者がどんな流れでツールを呼んでいるか把握しやすい。
Chain-of-Thought (CoT)
途中経過(推論過程)をモデルが文章として考えることで、複雑な問題に答えやすくする手法。
「答えをバッと一気に出す」のではなく、ステップバイステップの考え方を促す。
数学の文章題みたいに「途中計算を書きながら解く」と正確さが上がりやすい。
Tree-of-Thoughts (ToT)
CoTをさらに一般化し、「考え」をツリー構造で展開して探索する方法。
たとえば複数の分岐パターンを検討して、どのルートが最善解に近いかを探り当てる、というイメージ。
5. モデルの「学習・調整」アプローチ
エージェントが複数のツールを使いこなせるようにするには、モデルにある程度の“教え込み”が必要です。
大きく3つの方法があります。
In-context Learning
「その場で数個の例示やツール使用方法を見せる」ことで、モデルが推論途中で学習する。
追加で学習データの再トレーニングをしなくても良いので手軽。
Retrieval-based In-context Learning
In-context Learningの強化版。
外部の「Example Store」から必要な例示や情報を取り出して、その場でモデルに提示することで、モデルの解答をより正確にする。
Fine-tuning(ファインチューニング)
大量の追加データを使ってモデル自体を再学習し、「特定ツールの使い方」や「特定ドメインの知識」を深く叩き込む。
精度は上がりやすいが、コストや時間がかかる。
6. 実際の実装例
6.1 LangChainを使ったエージェント例
LangChainやLangGraphといったオープンソースライブラリを使えば、わりと簡単に「ユーザーの質問→ツール呼び出し→結果をもとに再推論→回答」みたいなフローが書ける。
たとえば「SerpAPIでWeb検索して→Google Places APIで場所調べて…」という一連の動きをチェーンとして定義。
6.2 GoogleのVertex AI Agents
Vertex AIはGoogleが提供するフルマネージドプラットフォーム。
Agent BuilderというUIや管理機能が用意されており、自然言語で「ツールの登録」や「エージェントのゴール設定」「サブエージェントの指示」などが行える。
Extensions、Functions、Data Storeなどがビルトインされていて、セキュリティ管理や推論のモニタリング、評価などもまとめてやりやすい。
**本番運用(プロダクション)**に必要なインフラ部分をまとめて面倒見てくれるので、開発者はエージェントのロジックに集中できる。
7. まとめ
エージェントは「モデル + ツール + オーケストレーション層」の組み合わせであり、単なるチャットボットよりも幅広いタスクを自律的にこなせる。
**ツール(Extensions / Functions / Data Store)**を適切に使うと、外部APIや最新データを取り込み、リアルな行動や情報取得が可能に。
推論のフレームワーク(ReAct、CoT、ToTなど)を用いると、モデルが「どのタイミングで何を行うか」を段階的に考えて処理できる。
Google Vertex AIなどのマネージドプラットフォームを使うと、エージェントの開発~運用がより簡単・安全に行える。
最終的には、「言語モデルが自律的に考え、必要な情報を取りに行き、行動を起こせるシステムをどう設計するか」がポイントになります。人間のシェフが料理の知識とキッチンの道具を使って工夫するように、エージェントもモデルの知識とツールを駆使して最適解を探すわけです
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