訳文検討:文意の理解と日本語のブラッシュアップ(3)
こんにちは、川津です。
シリーズの最終記事です。前回、前々回の記事はこちら。
これまでの記事で、「落とし穴のある英文」の文意を正しく理解し、日本語を見直しました。この記事では、それでも訳文がイマイチなときの対処を1つご紹介します。
例文を再掲します。ある企業が、自社WebサイトでCSRへの取り組みをアピールしているとお考えください。
そしてこちらは、前回の記事で見直した訳文です。どこが主節だったのか、わかりづらくなっていますね。
この訳文を、前後の文脈なしでも一発で主節と付帯状況の見分けが付くようにしてみましょう。
日本語の性質から考える、ひとつの解
日本語は大事なことを最後に言う文章、とよく言われます。しかし一方で、「頭でっかち」な修飾との相性がきわめて悪い言語でもあります。
今回の文章を見てみると、本当に言いたいこと(主節)はきちんと最後に配置してあります。ところが、最初に補足情報を長々と述べてしまった結果、補足情報だけで1つの節が成立してしまいました。その結果、主節の存在感を、言わば「食って」しまったのです。
それでは、対処法を考えていきましょう。
まず、1つの文の中で「本当に言いたいことを最後に置く」ことは大事なので、そのままにしておきます。次に、混乱の元である「補足情報を最初に長々と述べた」点は改善が必要です。
これら双方を両立させると、たとえばこんな訳になります。
文を2つに分けました(図らずも、情報を出す順番が原文と同じになりましたね)。まず、主節だけで言い切ります。これにより、「補足情報を長々と述べずに、言いたいことを最後に置く」ことが実現されます。
次に、2文目にご注目ください。この文には、英語的な感覚で言うところの「主語」がありません。なぜなら、既に前の文で「当社は」が示されているからです。
日本語の「は」で提示される主体は、次の「~は」が登場するまで、複数の文をまたいで効力を発揮します。
ですから、こうしてあえて省いておけば、読者の脳裏には自然に「当社」が行動主体として想起されます。その結果、2文目を「新たな文ではなく、前の文を補完する何らかのサブの情報である」と示すことが可能になるのです。
(※「~は」については下記の記事もご参照ください)
もちろん文脈によっては、1文目と2文目が並列関係であったり、言い換えであったりする場合もありますが、それでも文章が頭から順番に読み取られる以上、前の文のイメージが後ろの文の「土台」となることに変わりはありません。
応用例
翻訳業務をしていると、特に分詞構文を処理する際、1文を2文以上に分ける判断をする場合がけっこうありますが(明確にスタイルガイドで禁止されている場合も無くはないですが……)、念の為に付記しておきますと、今回のようにただ文を並べるだけで済むケースばかりではありません。
たとえば、今回のような付帯状況の分詞構文なら、2文目の冒頭に「また」「同時に」等を追加する場合もあり得ます。
理由を示す分詞構文なら、2文目の冒頭に「なぜなら」を追加したり、末尾を「~という理由があるからです」等で締めくくったりすることもあるでしょう。
結果の分詞構文なら、「その結果」「こうして」「~することとなった」などが候補に上がります。
この処理を行うためには、当然のことながら、分詞構文の種類を正しく判別できている必要があります。今回は1つ目の記事で付帯状況として指定しましたが、実際の翻訳作業ではノーヒントなので、前後の文脈や、パラグラフの冒頭などを手がかりに、じっくりと見極めていきましょう。
以上、3本立てのシリーズ記事をお届けしました。
クライアントの好みによっては、このような変更が不適切となる場合もありますので、そこだけご注意いただきながら、訳文作成時のヒントとしてご覧いただければ幸いです。
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