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紅くらげに告ぐ #11



澪:あ!ちょっとテレビつけて良い?


朝ご飯の洗い物をしていると、澪がテレビをつけ始めた。


"今月のゲストは〜....幕間京くん!1ヶ月宜しくお願いしまーす!"


澪:ひぇ〜!1ヶ月! 忙しいのに凄いなぁ...


テレビに映っていたのは、アイドルの幕間京。テレビで見ない日はないし、今一番売れてる男性アイドルなんじゃないだろうか。


和:ファンなの?

澪:んー...ファンって訳じゃないけど、なんか見ちゃわない?


それは何となくわかる。妙に目を引く存在だった。ワイプに映った時でも存在感が桁違いだった。


澪:しかも同い年だし? 凄いよねー....あ!アイドルになりたいんだったら和のライバルじゃん!

和:ライバルって...まだなってもないし...

澪:え?ならないの?

和:え...いや...


さも当然のような顔で私を見る澪に、少し狼狽えてしまった。


サツエ:........ねぇ、澪ちゃん。申し訳ないんだけど、お家の掃除任せても良いかしら。

澪:え?私?...良いけど..

サツエ:和ちゃんとお散歩に行きたくって。

和:え?

澪:.....ふふっ笑 わかった!ピッカピカにしとく!

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カラカラカラカラ


舗装されている道路を車椅子を引きながら歩く。


サツエ:今日は少し暖かいわね。

和:...そうですねー...


疑問だった。何で私と散歩に行きたいなんて言ったんだろう。澪との方が関係性は深いだろうし...。

サツエ:何で私に誘われたんだろうって思ってるわね?

和:えっ!? いや....あはは...

サツエ:いきなりでごめんなさいね。....私、あなたの事が知りたいの。何か抱えてるあなたの事を。


サツエさんは黒目だけ動かして、私の方を見た。


和:.....ほ、本当にくだらない事なんです。

サツエ:いいわよ。あなたの事が知りたいから。


その言葉を聞いて、私は車椅子を停めて、その隣に座った。

気にかけてくれている事もわかっていた。でも中々口に出せずにいた。

しばらく座った後、私はサツエさんの方を見ずに、口を開いた。


和:.....私、将来の夢が....ア、アイドルで...


横目でサツエさんをチラチラと見ながら話し始める。


和:高校三年生の始めの方に...私、何の進路も決めてなくて...小さい頃から憧れたアイドルになりたいって事だけが決まってたんです。

和:....まぁ...両親にも言えてなくて....オーディションがあるってタイミングで言ってみたんです。

和:良いよって言ってくれるかなー...とか思ってたんですけど、最初は冗談に思われてて...何回か言ってるうちに...本気だと思ったのか...反対され始めて....

和:今まで両親の言いなりで生きてきたんです。...特に父親なんですけど笑

和:あんまり子供に関心がない親なんで。いつも仕事ばかりで、どこかへ連れて行ってもらった記憶も...小さい頃だけ。最近の父なんて...ずっと上の空というか...私の事なんて少しも見てなくて。でも私の進路だけは勝手に決めて...大学とか...行きたくもないのに...

和:だから...私の話なんて話半分で...それで反対してくるから....私、神奈川から家出して来たんです。それで...〇〇さんに拾って貰って...今って感じです....。


サツエさんは、今の話を何も言わずに聞いてくれた。病気のせいで話せないのではない。きっと、病気でなくとも、何も言わずに聞いてくれるんだろう。


サツエ:....犯罪ね。

和:え?

サツエ:家出してきた高校生を匿うなんて、〇〇は犯罪ね。

和:え、えぇ!?

サツエ:冗談よ笑 ....それで?あなたは"今"どう思ってるの?


あぁ、この人はきっと、心が見えてるんだ。


和:....きっかけがないんです。アイドルになりたいきっかけが。ずっと好きで、ずっとなりたいとだけ思ってた。

和:だから最近は...本当になりたいのかって自分で思う様になってて.....ただ親に反対されたから、それが気に食わなくて躍起になってるだけなんじゃないかって....


ずっと言えなかった気持ちが、するすると出てきた。


サツエ:まぁ、そうね。その通りだと思うわ?

和:え.....

サツエ:親に反対されたから、誰かに無理と言われたから。それに反抗してるのね。

和:...........

サツエ:でも、あなたはアイドルになる事を諦めたら後悔するでしょうね。

和:そう....ですかね....

サツエ:えぇ。だって、ずっと"好き"だと思うから。

和:............


私はサツエさんの方を見つめた。

そうだ。たぶん、アイドルはずっと好き。反抗とか、そういうのを抜きにして、ずっと好きなんだ。


サツエ:憧れてしまったものは、しょうがない。もうその気持ちは誰にも止まられないのよ。

サツエ:でも、親御さんの気持ちもわかる。アイドルなんて未知の職業に、即答できる親なんていないと思うわ? あなたはそれもわかっているはず。

和:...........


わかっていた事を、全部口に出されてしまった。


サツエ:あなたの思うがままに生きれば良い。でもね?孤独も寂しさも、誰にも理解されないという事も、その全てが「思うがままに生きる」という事の代償であるということを、覚えておきなさい。


ぐうの音も出ない。どこか軽く考えてる部分もあった。そこに重しをかけられてしまった。


和:私は....どうすればいいんでしょうかグスッ ....もう後戻りはできないし...私は...思ったより弱い人間だったみたいですヒグッ...

サツエ:....強いから良い、弱いからダメ、じゃないのよ。強い部分と弱い部分が少しづつあるから"人間"なのよ。

和:うぅ....グスッ....

サツエ:本当は今すぐ抱きしめてあげたいのだけれど、ごめんなさいね。言葉しかかけられないの。


その言葉が重く温かかった。


サツエ:今回の家出で、あなたは"自分"を見つけなさい。

和:自分?グスッ

サツエ:親に作られた自分じゃなく、自分で自分を作りなさい。

和:ど、どうやって....私...なんの強みもないし...澪みたいに優しくも..明るくも...人を惹きつける何かも...持ってない...グスッ

サツエ:あら、澪も最初は何も出来なかったのよ?お兄ちゃんに甘えてばかりで....でも強かった。折れなかった。親がいない事を言い訳にしなかった。お兄ちゃんが出来ない事を、澪が頑張っていた。

サツエ:誰かになろうとしてはダメ。"あなた"を見つけなさい。

和:うぅ...グスッ...ヒグッ...お婆ち"ゃん...私...見つけられるかなグスッ

サツエ:あなたは多分、賢くて、沢山考えちゃう子。まだ、自分の芯がないだけ。

サツエ:きっと見つけられる。あなたはあなたのままでいいなんて、傲慢で適当な言葉は、私は言わない。


"あなたはあなたのままでいい"と、
思われる様な人になりなさい。

和:グスッ....うぅ....がんばるヒグッ

サツエ:いい? あなたならきっとできるわ。

サツエ:あなたは...小さい頃の〇〇に...そっくりだから。


気づけば、私は自分の事を強く抱きしめていた。

〜〜

ガチャ


和:た、ただいまー...

澪:おかえりー! 見てピッカピカでしょ?

和:そう..だね...

澪:んー?....ありゃ、目腫れちゃってるね笑

和:...バレた..


涙で腫れた目を、冷たい風にあてて何とかしようとしたが、無駄だったみたいだ。


澪:お婆ちゃんの言葉って、心にこう....ズシンとくるよね笑

和:....うん。...温かかった。

澪:ふふっ笑 大丈夫。和なら大丈夫だよ、きっと。

和:ありがとう。澪。

澪:よし!じゃあお昼ご飯つくろー!

和:さっき朝ごはん食べたばっかりじゃん!

澪:あはははは笑

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〇〇:ただいまー。


家の明かりはもうついていなかった。大分遅くなってしまったから、和も澪ももう寝たんだろう。

あまり足音を立てないように、リビングへ進んでいった。


サツエ:随分遅いご帰宅ね。

〇〇:うぉあ!....ビックリした...婆ちゃんかよ..


暗闇の中から声を掛けてきたのは、婆ちゃんだった。


サツエ:遅かったわね。何の仕事?

〇〇:あー.....まぁ、あれだ。復興の手伝いみたいなもんだよ。

サツエ:ま、聞いても本当の事言わないから良いんだけど。

〇〇:....はっ笑 敵わねぇなぁ笑

サツエ:今日、和ちゃんと色々話したわ。

〇〇:おー....ありがとう。

サツエ:やっぱり、あなた、私が声を掛けると思って和ちゃんのこと連れてきたんでしょう?

〇〇:まぁね。俺はそういう柄じゃないから。嫌われてるだろうし。

サツエ:あなたに感謝してたわ。あの子。 拾ったんなら責任持ちなさいよ?

〇〇:....そうか...感謝してたか....


俺は上がろうとする口角を何とか抑えて、婆ちゃんと話した。


サツエ:一つ、聞きたい事があるんだけど。

〇〇:ん?なに?

サツエ:あなた....父親の事はどう思ってるの?

〜〜

自分の期待通りの返答が来ると思っていた。

あの頃の〇〇とは違うと、信じていた。


〇〇:殺すよ。絶対に。


モニターに反応を打つ前に、〇〇は話し始める。


〇〇:その為に生きてるんだから。出来るだけ残酷で惨めな方法で...あいつに関わる全てを壊すよ。


あぁ....この子の原動力は...まだ父親への復讐心なんだ。

もう救ってあげられないのだろうか。

でも、あなたの境遇を知ると、止める事すら烏滸がましいとも思ってしまう。


〇〇:じゃあ...おやすみ、婆ちゃん。

サツエ:......えぇ、おやすみ。〇〇。


止める気持ちを押し殺して、おやすみと言った。

この時だけは、表情が作れなくて良かったと、そう感じた。

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             to be continued


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