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紅くらげに告ぐ #9



サツエ:ありがとう。散歩に連れて行ってくれて。

和:い、いえいえ、こんな事ならいくらでもやります。


寒空の下の散歩。30分ほど歩いて、家路についた。澪が来てからは、サツエさんは殆ど澪とばかり話していた。

.....私が初対面の人と話すのが苦手っていうのもあるんだけど。


澪:ねぇ、お婆ちゃん。和に町を案内して来てもいい?

サツエ:あら、いいわね。私はお留守番してるから楽しんで?緊急の時はモニターから澪ちゃんのスマホに連絡するわね。

澪:ありがとう!じゃあ行こ!

和:わっ!ちょちょ.....


サツエさんをベッドに戻してから、澪は私の手を取って玄関を出た。

〜〜

〜〜

澪:こんにちは〜!

「あら、澪ちゃん。学校は終わったの?」

澪:うん!今日から冬休みだよ〜。

「いいわねぇ、おばちゃんも冬休み欲しいわ〜」

澪:えへへ笑 また遊びに行くから〜!


2人で歩いていると、澪は良く地域の人に声をかけられていた。

人柄から滲み出る人の良さだろう。


澪:今のおばちゃんはね、野菜をよくくれるんだよ。

和:へー、優しい方なんだね。

澪:優しい人ばっかりだよ、この町は。

和:....たぶん澪が優しいからだよ。

澪:...んー? どうして私が優しいってわかるの?

和:周りを見てればわかるよ.....

澪:................

和:な、なに?


澪は何も言わずに、整った顔立ちで、私の顔を覗き込んでいた。


澪:....なぁんか悩んでるね。

和:えっ?

澪:...町を案内しようと思ったけどやーめた!来て?


澪はまた、私の手を取って走り出した。

〜〜

澪:とーちゃく!

和:ここ...神社?


澪に案内されたのは、草が茂るこじんまりとした神社だった。


澪:はい、これ。座って食べよ。

和:え、あ、ありがとう...


途中寄ったお肉屋さんで買ったコロッケを貰い、促される様に屋根の下に座った。


澪:あそこのお肉屋さんのコロッケ最っ高なんだよねぇ....んっ!あつっ!

和:大丈夫?笑

澪:ふぁっ...んぐっ...んん!んまっ! ...へへっ笑やっと笑ったね。

和:え?

澪:会った時からずーっと笑ってなかったよ?

和:...........。

澪:なんか悩んでる事、あるんだよね。


心の扉をいとも簡単に叩いてくるんだな、この子は。でも、嫌な気はしなかった。


和:.....わ、私ね?....家出して来たの。

澪:...どこから?

和:....神奈川県。

澪:へぇー!遠いね。なんで?

和:....親子喧嘩...かな。

澪:.....ふぅん....ご馳走様でした。

和:えっ?笑

澪:え?コロッケ食べたからご馳走様でしたーって。

和:今言う?笑


こんな感覚は初めてだった。この話をすると、大体暗い雰囲気になる。

あ....〇〇も特段変わらなかったか。


澪:でも家出かぁ...ねぇねぇ何て言って家出して来たの?笑

和:えぇ?笑 んー....何だっけ。大っ嫌い....だったかな。

澪:あはは笑 大っ嫌い! こんな感じ?


澪は私が言った事を誇張して真似をした。

和:ねぇー笑 やめてよ笑

澪:あははは笑 そっかぁ....何で喧嘩したの?

和:それは....笑わないでよ?

澪:うん。

和:...私、アイドルになりたくって。

澪:えぇー!アイドル!?

和:う、うん.....


顔を見るのが怖かった。また笑われているんじゃないかと不安だったから。

恐る恐る顔を見ると、澪は口角こそ上げていたが、目をキラキラと輝かせて此方を見ていた。


澪:凄いじゃん!凄い凄い!

和:....凄くないよ...まだ何もしてないし...

澪:目指す事が凄いんだよ!....へぇー...凄いなぁ..。


腕を組んで目を閉じながら1人で頷いている。


和:親から反対されて...それで...喧嘩しちゃってね。

澪:そっかぁ...こんなに可愛いんだからアイドルなれると思うけどなぁ....。

和:ありがとう笑 .....澪だったら、反対とかされなかったのかな。

澪:え?どうして?

和:だ、だって澪は可愛いし...優しいし、人柄も良い。....アイドルって澪みたいな人の事を言うんだと思う。

澪:私がアイドル?....んー...どうだろ笑 無理だと思うけど。

和:どうして?

澪:だって私、自分が笑顔になる事しか考えてないもん。アイドルって皆んなを笑顔にしないといけないんでしょ?


あぁ、そうか。だから澪はいつも笑顔なんだ。だから澪の周りは笑顔で溢れてるんだ。本当のアイドルってこういう人の事を言うんだ。


和:.....澪の親はきっと良い人なんだろうね。

澪:え?

和:...じゃないと、澪みたいな子は育たないよ...


一瞬の沈黙があった後、澪が口を開いた。


澪:私、親いないよ?

和:えっ?

澪:小さい頃に亡くなって、ずっとお兄ちゃんに育てられたんだよ。

和:......ごめんなさい。

澪:謝らなくて良いんだよ笑 この話すると皆んな暗くなるから嫌なんだけどね。....だから、ちょっとだけ羨ましいんだよ。親子喧嘩できるって事。


鬼木も言っていた言葉だ。


澪:親子で過ごした思い出もないし、お父さんに限っては顔も覚えてない。だから皆んなの事が時々羨ましいって思うんだ。


私は......恵まれていたんだろうか。


澪:アイドルになる事を反対されるって事は....心配もあったからじゃないかな。その場にいなかったからわかんないんだけどね。

和:.....親がいるって幸せな事だったのかな...


不意に口から出た言葉だった。

澪:むっ! 


澪は頬を膨らませ、私の前に立った。


澪:それだと、親がいない私が幸せじゃないみたいじゃん!

和:あっ...ごめ・・


私が謝ろうとすると、澪は笑顔になった。


澪:私には親がいないし、親との思い出はないけど、お兄ちゃんに育てられた私は・・


「世界で一番幸せな自信があるよ?」


澪:へへっ笑 そろそろ帰ろっか。

和:.....うん。


そう言って、澪はまた、私の手を取った。

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澪:夕飯何にしよっか。

和:んー....冷蔵庫見る限り、作れるものは多かったけど...

澪:くぅ...師匠!私に料理教えてください!

和:やめてよ笑


どうやら、澪は高校3年生時の1年間、一人暮らしをしていたらしい。お兄さんが転勤で東京に行く事になったから。

来年には、澪も東京の大学に行くんだそうだ。


澪:お婆ちゃん!冷蔵庫の中身使って良いの?

サツエ:いいわよ。全部〇〇が買って来たものだから。


サツエさんは胃ろうと呼ばれるもので、直接胃に栄養を入れるらしい。私が料理する様子を、少し羨ましそうに見ていた。

澪は〇〇とも知り合いらしい。なんでも小学校が同じだったんだとか。


ガラガラッ


〇〇:ただいまー....うぅ...外さっむかった....

和:あっ......

澪:帰ってきた? 〇〇おかえりー!


澪は廊下に顔を出した。


〇〇:ん?澪か。何でここにいんだ?

澪:かくかくしかじかー!

〇〇:それ言葉でいわねぇんだよ笑

澪:〇〇ご飯食べる?

〇〇:あー....いいや、さっき食ってきた。それより、家に帰んなくて良いのか?

澪:泊まってく。家帰ってもどうせ誰もいないし。

〇〇:兄貴は?

澪:今東京。 今頃彼女と仲良く同棲してるんだろうなぁ....遥香さんもお兄ちゃんも羨ましい...

〇〇:お前も東京行くんだろ?

澪:そうだよ.....って全部知ってて聞いてくるな!


〇〇は少し笑みを浮かべながら、私の横を通り過ぎた。体からは、少し磯の匂いがした。


澪:〇〇ってあーいうとこあるよねぁ....恥ずかしいのかな笑

和:あー....それはなんかわかるかも笑

和:ねぇ、〇〇さんってどんな人?


私は包丁で野菜を切りながら聞いた。横にいる澪は手が止まった。


澪:なになにぃ!〇〇の事気になっちゃってる感じぃ?

和:ち、違うよ!// そんなんじゃない!

澪:良いじゃん良いじゃん!21歳と18歳....3歳差なんてどうって事ないって!

和:だから違うの!21歳って事も今知った!

澪:え?そうなの?

和:....あの人の事....名前以外殆ど知らない...苗字も...知らない。

澪:...えぇ?何その関係....あ、ちなみに苗字はねぇ、"結城"っていうんだよ。

和:へぇ....結城...か...

澪:後は〇〇に自分で聞きな?

和:聞けないよ...なんか...怖いし..

澪:怖くないよ笑 優しいよー.....あっ!良い事思いついちゃった笑

和:なっなに!?

澪:教えなーい笑

和:もー!


その後はご飯を食べて、澪と一緒にお風呂に入った。高校での思い出なんかを話しながら。

澪はサツエさんの事が大好きらしい。サツエさんの言葉には重みがあるとか何とか力説していた。

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澪:ふーっ...良い湯だったねぇ....

和:ほとんど遊んでたよね、澪。

澪:和もでしょー....さ、そろそろ寝よっか。

和:だね。

澪:じゃ、また明日の朝ね。

和:うん.....ってちょちょ!


奥の部屋に行こうとする澪を急いで引き留めた。


和:一緒に寝るんじゃないの?

澪:えぇー...わたしぃ...1人じゃないと寝れないの。だからー....私は1人部屋!和は〇〇と一緒の部屋で寝てね?

和:なっ!?


澪はまるで小悪魔の様な顔をして笑っていた。良い事思いついたって、この事だったのか。


和:無理無理!

澪:無理じゃないよー! それに、〇〇も笑顔に出来ないようじゃアイドルになれないんじゃない?

和:むぐぐぐ!!


それを言われると、私は弱い。


澪:じゃ、おやすみー。....明日、感想聞かせてね?


バタンッ


澪は部屋に入ってしまった。

〜〜

〜〜

和:えー....どうしよう....んー....


もう10分くらい、部屋の前で悩んでいる。遅い時間だし、寝たい気持ちもある。


和:んん....えぇい! もうヤケだ!


コンコンコンッ


少し大きめの声を出した後、私は〇〇のいる部屋をノックした。

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             to be continued

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