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紅くらげに告ぐ 最終話



〇〇:......今日はな...卒コン?...みたいなやつあるらしいから、それに行ってくる。

〇〇......はっ笑 へいへい。ちゃんとお疲れ、卒業おめでとうって言うよ笑 そこまで俺は...もう子供じゃないから笑


墓の前に、花を置いて、その場を立ち去る。この場所へは、もう目を瞑ってでも行けるようになってしまった。毎日来ているから。


「〇〇ー!早く行こうよー!」


子供達が俺に催促をする。


〇〇:まだ開演時間まで少しあるだろ...ったく...笑

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東京ドーム


〇〇:お前ら...ちゃんと大人しく座ってろよ?

「わかってるよ!そこまで子供じゃないし!」

〇〇:.....そっか笑


子供達を席に座らせて、開演を待つ。関係者席を用意してくれたのはありがたい。


林檎:やっ!

〇〇:おぉ、林檎。仕事終わり?

林檎:そうだよー....もう...一般の仕事って疲れちゃうわー...ほんと..

〇〇:ははっ笑

林檎:鬼木も来たよ?

〇〇:ん?おぉ、鬼木。

鬼木:お疲れ。まだ始まってないよな。

〇〇:まだだよ。

鬼木:いや...あまりにも人が多いし...盛り上がってるから始まってんのかと...笑

〇〇:それだけあいつらが人気だってことだよ。

林檎:.......あの、美空と和がねぇ....


今日は、人気アイドル、一ノ瀬美空と井上和の.....卒業コンサートだ。


林檎:.....九条にも見せたかったね。

〇〇:.....見てるよ。あいつなら。



................



九条:あの....死んだことにしないでもらえる?

林檎:....ぷっ笑 あははははは笑 このノリ何回やっても楽しい笑

九条:本当に死ぬ所だったんだからな笑

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あの日、6年前のあの日。


九条は死んだ。いや.....俺が殺した。


筈だった。


和に酒を飲まされて人格が変わった俺は、正気を取り戻した。

その時の俺の頭の中には、九条の事しかなかった。総理の事なんてどうでも良かった。


話によると、総理は浅野さんがすぐさま捕えたらしい。


俺が放った銃弾は、九条の胸を貫き、止め処なく血を吹き出させた。


絶対絶命だった。その後すぐ様病院へ搬送されたが医者には助かる見込みは限りなく低いと....


希望の類から、一番遠い場所で俺は生まれたんだと思う。


でも、この時ばかりは.....何でもいいから九条を救って欲しいと...天に願った。



結果から言えば、九条は助かった。医者は奇跡が起きたとしか言いようがないと....


........だけど、お婆ちゃんが死んだ。


最初は訳が分からなかった。あまりに急な出来事すぎて。だけど...あの日のあの時間、婆ちゃんの容態は急変して、そのまま息を引き取ったらしい。

澪から、そう連絡があった。

サツエ婆ちゃんの最期は、笑顔だったらしい。


ただのこじつけかも知れないけど.....もしかしたら..俺が必死こいて作った"人"の関係を崩さない為に、九条の身代わりになったんじゃないかって...

そう思ったんだ。

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俺は掌を見るのが癖になった。


何となく生が実感できるから。


あの日以降、政信さんが総理のやろうとしていた事を告発し、当然総理は辞職。

史上最悪の総理として、一際話題になった。


人格が変わって、父親に変えられた記憶が戻った。

.......俺がやってきた復讐は間違いだった。


政信さんが、実名報道もせず、その後のケアもしてくれたから、俺達の名前がメディアに出る事は無かった。


でも、"何でも屋"は解体した。もう...必要無くなったから。


林檎:寂しくなるねぇ。

〇〇:どうせくるだろ、お前ら笑

林檎:まぁね。

鬼木:俺達の家はここだから。


最後に屋上でこんな会話をしたのを覚えてる。

林檎と鬼木は、政信さんの手配で、一般企業に就職。


俺と九条は、孤児院の経営に従事した。


でも、今度は地下じゃない。大腕を振って経営出来るようになった。新しい土地に、新しい孤児院を建てた。

今や一番受け入れ数の多い孤児院として、少し有名になっている。


会社をやめた事は、蓮加に色々言われたけど、週一回会う事を約束し、それで許してもらえた。

まぁ...ほぼ毎日孤児院に来てるんだけど。


和と美空は、1年後19歳の時、晴れてアイドルになった。二人で同じアイドルグループに入った時は驚いたけど....二人は瞬く間に有名になっていった。


だから...俺達元"何でも屋"は関係を絶った。過去を調べたりする人もいるようだから、俺達との関係が知られたら、何を言われるか分からない。だから、アイドルを卒業するまで、関係を断つと決めたんだ。

まぁ....美空の家はここだから...お正月や大晦日には帰ってきたんだけど。

和には、一度も会っていない。

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〇〇:.............

蓮加:何手のひら見てるの?

〇〇:え?

蓮加:ほら....始まるよ。


蓮加がそう言うと、会場は暗転し歓声が湧き起こる。


〇〇:....ははっ...すげぇ...


凄いな...和と美空は...こんなにも...愛されてるんだ。

愛されるということは、愛さないといけない訳で、愛する為には、愛されないといけない訳で


つまり無償の愛なんかないってこと。


以前、喉が渇き切れるほど愛を欲した俺だから...わかる。

二人は、愛を与えたから、こんなにも愛されているんだ。

〜〜

〜〜

京:はぁー!すんげーライブだった笑

〇〇:.......だな。

京:俺のライブとどっちが凄かった!?

〇〇:こっち。

京:あー!! なんでぇー!


京はまだアイドルを続けるらしい。自分で天職と言っていたし、俺もそう思う。


卒業コンサートは終わり、観客は順次帰っていく。

関係者席に座る、澪や林檎や美波は、ずっと泣いていた。蓮加は、泣くのを我慢しているようだった。


....色々...思い出しているんだろうか。


〇〇:.........よし。

九条:....〇〇?どっか行くのか?

〇〇:帰る。

蓮加:え?....会って行かないの?和と美空に。

〇〇:.....いや...いいよ。


そう言って俺は、会場を後にした。

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今まで夜の星なんて気にしたことがなかった。

どうやら、以前の俺は目も発達していたらしい。....でも、今の方が星がよく見える。

卒業コンサートの帰り道、そんな事を考えて歩いていた。


俺は、父さんとかつての研究室を訪れた。手術の為だ。

父さんは中々に凄い研究者だったらしい。まぁ....俺を作ったんだから..そりゃそうか。

手術をする時に、問われた。

どうやら父は俺を人間に戻す研究の途中で、不老不死の人間を作る事も可能にしていた。


秀一:〇〇が選んでいい。"人間"になるか。"不老不死"になるか。どっちが良い?

〇〇:................



俺は


"人間"になる事を望んだ。


正直に言えば、死にたかった。

九条を撃った時に、俺はいるべきではないと、この世に存在してはいけないんだと、そう思った。


でも、父さんから"不老不死"になれるという事を聞いた時、俺はそっちの方がいいんじゃないかと思った。


だって、そうすればずっと子供達を救い続けられるから。



.........でも....俺は何故か"人間"になる事を選んでいた。


〇〇:...............


また、手のひらを見て考えてしまう。あの時の選択は、正しかったのだろうか。


20と少しだった寿命は、人並みになったけど、


腹は減るし


1日でも寝なけりゃしんどいし


傷は全然治らない。


普通になってしまった。自分の中から、何か大事なものが抜け落ちた、そんな感覚。


普通になってしまった俺に、何か価値はあるんだろうか。


そう思えば思う程、和に会う気が薄れていった。


あてのない答えを....探している。

何故俺は、人間になりたかったんだろう。

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〇〇:ん......んん...


小鳥がさえずる声で目を覚ます....なんて綺麗な目覚めができればいいけど.....俺ももう27歳。

生まれた時から三歳児程度だったから、この世界に生まれてからの年数は24らしい。


目を擦って、脳を覚醒させる。人間って不便だ。毎日体がきつい。


トントントントンッ


〇〇:んぁ?


音が聞こえた。台所の方からだ。俺、一人暮らしだよな。


ガチャ 訝しげに思い、扉を開けた。


〇〇:あ.......

和:あー!やっと起きた!

〇〇:なんで.....ここに....

和:九条さんからどこに住んでるか聞いたの。


台所に立って、朝ご飯を作っていたのは和だった。

あの頃と変わらない和だった。

〜〜

〜〜

和:いただきます!

〇〇:い、いただきます...


ご飯を一口運ぶ。......いや、その前にやる事があるだろう。


〇〇:.......ごめんなさい。

和:へ?

〇〇:謝れてなかった。あの日の事。


まだ謝れていなかった。父親への復讐の為に、和まで巻き込んでしまった事を。


和:......なんか...可愛かったとか...言われると思ったのに...

〇〇:へ?

和:...来たんでしょ?昨日の卒コン。

〇〇:え、あ....まぁ..。

和:感想は?

〇〇:...お疲れ..あと、卒業おめでとう。

和:他には?

〇〇:....か、可愛かったです。

和:ふふんっ..よろしい///


和は...気にしていないんだろうか。あの日の事。


和:でも、許してないからね。あの日の事は。

〇〇:あ........

和:だから来たの。文句も言えてないし。....それに忘れてるでしょ。

〇〇:なにを?

和:もう!早く朝ごはん食べて行くよ!

〇〇:どこに.....

和:水族館!

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和:すっごーい!見て見て!

〇〇:あんまはしゃぐなよ笑


マスクと帽子こそ付けているものの、中身は変わっていない。

何だか....アイドルをやっていたのか不思議に思ってしまう程だった。


〇〇:なぁ、和。和はいくつになった?

和:私? 24だよ。


24か.....そうか...。俺が生まれてから、同じ年数を生きてるんだ。


和:次あっち行こ!

〇〇:え、あぁ、うん。


和は、俺が探し求める答えを...知っているのかな。

水族館を無邪気に楽しむ和を見て、そう思った。

〜〜

〜〜

〇〇:あ.......

和:あ!.....綺麗だね。

水族館も終わりに差し掛かった頃、小さな水槽に展示されていた生物を見る。


それは、ベニクラゲだった。


美しかった。


和:いいなぁ。〇〇はこの子達の気持ちもわかるんだもんね。

〇〇:え?

和:ん?何か変なこと言った?


.......そうか...。俺は....こんな美しいものになれる可能性もあったんだ。


なら.....尚更何故....俺は人間になる事を選んだんだろう。

なぁ....お前達は...辛いのか?幸せなのか?


和:でも〇〇は人間でもあったんだから...んー.....漢字の"紅"とくらげって感じだね。ハーフだ。

〇〇:..........


気持ちがわかるなんて言っちゃいけないな。.....俺はどっちにもなりきれなかった存在なんだから。

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和:あー!楽しかった!


水族館を見終え、家路に着く。


〇〇:なぁ.....和....

和:ん?

〇〇:人間って.....何なんだろうな。

和:.............

〇〇:いや....いい。忘れてくれ。


思わず口をついて出てしまった。


和:....面白くもない事で笑ってみたり...

〇〇:え?

和:大切な人を幸せにしたり、程よくテキトーに生きて、程よく真面目に働いて。

和:その癖、全然大丈夫なフリをする。手に入れた幸せは忘れるし、自分のことばかり棚にあげる。

和:怒らせて、苛つかせて、悲しませて、楽しませて、笑わせて、幸せにする。


これが人間じゃないのかな



あぁ.....わかった。


和:ふふっ笑 なんか〇〇みたいだね人間って笑

和:今言った事が一つでも出来てれば人間だし、出来てなくても人間だと思うよ。きっと。

和:今日は....楽しかった?

〇〇:..........うん。

和:ふふっ笑 じゃあ



人間だね


全部わかってしまった。何だ、簡単な事だったんじゃないか。


俺の周りには、人間がいた。そいつらの命には全員限りがあった。でも、生き生きとしていた。

この社会は、真面目にやっている奴が損をするし、狡猾な奴が得をするクソみたいな場所。


でも、俺の周りの人間は、全員笑顔だった。そいつらは俺のおかげだという。


でも、俺はそれを見て何故か羨ましく思っていた。


幸せそうな笑顔を浮かべて

苦しくなる程大きな夢を抱えて

叶わない恋追いかけて

叶うはずの恋を手放して

無駄な程考えて

限りある命を思う通りに使う


そんな生物にいつしか

憧れを抱いていたんだ。


だから俺は、人間になりたかったんだ。


〇〇:あぁ.....グスッ そうか...

和:何.....泣いてるの?

〇〇:いや.......ありがとうグスッ......普通になってしまった俺に.....人間を教えてくれて...ありがとう。

和:................



和:〇〇。こっち向いて。




紅くらげに告ぐ。


俺は、人間として生きてみようと思う。紛い物で、バッタもんの俺だけど、生きてみようと思う。

人間として初歩中の初歩を何一つとして出来ないままだけど、この限りある命を精一杯使ってみようと思う。


そしていつか、お前達に報告しに来るから。


限りない命も美しいけど


限りある命も悪くないもんだって


人間になれたから、こんなに可愛い子が俺の隣にいるんだって


言いにくるから。


見ててくれ、紅くらげ。

俺の生き方を、不器用さを。


その悠久の命で、見守っていてくれ。


紅くらげに告ぐ


俺は、人間になれて...良かった。

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                  Finish

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