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凡豪の鐘 #4
美月:ふんふーん。今日は親子丼とお吸い物にしよ。
家の中で一人夕ご飯を作る。外はもう暗くなっていた。
美月:あ、エサあげないと。
夕飯作りを一旦中断し、小皿に猫の餌を出す。
美月:はーい。ライ君、ご飯ですよー。
そう呼びかけると、ライは、一心不乱に餌を貪る。その様子を美月はずっと見ていた。
美月:はぁ...可愛いぃ。
頭を撫でる。少し嫌な表情を見せるが気にせず、また食べ始めた。
一日にあった事を、美月は必ずライに人と接するように話しかける。
美月:ライくーん...この前家に侵入してきた男の子覚えてる?
ライは意に介せずといった様子で食べる。
美月:〇〇君って言うんだけどね? なんか変な人なんだ。なんか....私みたい。嫌いだけどね。
美月はそう言ってライの頭を撫でると、急に餌を食べるのをやめた。そして、いきなり玄関の方へ走り出した。
美月:え? ちょ、どうしたの!?
ライは玄関をしきりに引っ掻いている。
美月:外行きたいの? ちょっと待ってね。
美月はライを抱き抱え、玄関を開けた。その時だった。
美月:うわっ! ちょっと! 待って!ライ!
外に出た瞬間、ライは暴れ出し美月の腕の中からこぼれた。地面についた拍子に、すごいスピードで走り出して行った。
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??:なんで皆んな僕を....僕を見てくれないんだ...
??:こんな思いをするなら...小説なんて書かなきゃ良かった...
〜〜
またそんな夢を見た。意識が途絶えた上で寝ているような。どんどん意識が落ちていく感覚。底に着いた時、目が覚めた。
〇〇:......んぁ....あ?
辺りを見渡す。以前までは見慣れていた光景だ。
〇〇:.....なんだ...俺の部屋か....
再び目を閉じる。2秒後すぐに異変に気づく。
〇〇:.....俺の部屋?
自室な訳がない。追い出されて神社生活をしていた筈だ。
ゆっくりと体を起こし、辺りを見渡す。間違いなく自室だ。なぜ自分がここにいるかまったくわからなかった。
無理矢理足を動かし、自室から出る。外はもう明るかった。
ガチャ
〇〇:.....え?
美月:あ、起きた。
眼前には、綺麗な女性が料理を作っている光景が広がっていた。
美味しそうな匂い。今まで倒れていて潜在的に隠していた本能が明らかになる。
ぎゅるるるるる ぐごごご
〇〇:うぁ.....腹減った。
美月:ほら、早く座って?
美月はそう言って、テーブルに、たまご雑炊とお吸い物を置いた。
〇〇:く、食って良いのか!?
美月:...冷める前に食べちゃって。
〇〇:い、いただきます!
状況の整理は二の次。〇〇の目にはもうテーブルに置かれている食事しか目に入らなかった。
〜〜
〇〇:モグ....うめぇ....モグモグガツガツ
〇〇:ズズズ...はぁ...生き返る..
気がついたら、もう食器の中には何も残っていなかった。
〇〇:.....ごちそうさまでした。
美月:いいえ、どういたしまして。
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そして、やっと状況を整理する。
〇〇:......俺なんでここにいんの?
美月:はぁ......何も覚えてないの?
〜〜
数時間前
美月:はぁ...はぁ..もうー、ライ君どこ行ったんだろ..
美月は突然家を飛び出したライを追って、行きそうな所を手当たり次第に探していた。
探していると、遠くの方にライの姿が見えた。
美月:あ!いた!
小走りでライがいた所へ向かう。
美月:ん?ここは...神社?
いかにも田舎にあるという小さい神社。通学路で毎日通るが、気に止めていなかった。
美月:ライくーん....出ておいでー。
街灯もない暗がりの中、神社の奥へと歩いていく。だんだんと近づくにつれ輪郭が明らかになっていくと、人影が見えた。
美月:.....誰か寝てるボソッ
恐らく男性。近くには大きなスーツケースがある。もっと近くまでよると、ライがその男性の頭をポンポン叩いていた。
美月:あーあー...ダメだよライ君。
こういう時に話しかけるのは危険なのだが、田舎という事もあり、そんな危機感は消え去っていた。
美月:あのー....大丈夫ですか?
反応はない。もしかしたら倒れているのではないかという予感がよぎる。
もっと近づいて顔を確認してみる。
美月:あのー....大丈....って!〇〇君!?
知った顔だった。体を揺すってみる。
美月:おーい、こんなとこで寝てたら風邪引くよー。お家帰りなユサユサ
反応はない。そして、体が異常に熱い。そこである事に気づく。スーツケースがあるということは、まさか彼はここでずっと暮らしていたのではないか。
美月:.....〇〇君? 大丈夫?
もっと強く揺らしてみる。少し反応があった。
〇〇:.....うぅ....僕を....見て...
美月:え? なに?
〇〇:....み、水.....
美月:ちょっと!ほんとに大丈夫!?
〇〇はその後完全に気を失っている様だった。見かねた美月は〇〇を背負い、家まで運んだ。〇〇の体は美月でも背負えるほど痩せて、衰弱していた。
〜〜
〜〜
美月:・・で、今君はここにいるの。
〇〇:...............。
〇〇はしばらく沈黙してから、椅子から降りて、膝をつき、頭を地面につけた。
〇〇:すいませんでしたぁぁああ!!
美月:はぁ.....今まで何してたの...
〇〇は土下座しながら答える。
〇〇:...神社でずっと暮らしてました。
美月:それだけであんな衰弱する?
〇〇:..金持ってなくて、三日ほとんど何も食べてません...
美月:三日食べないくらいであんな弱る?
〇〇:あぁ....それはたぶん、違う人になったから。
美月:違う人?
〇〇:蓮加の店でやったやつ。あれやると、単純に2倍負担かかる...
美月:えぇ.....あ..そう。
こんな訳のわからない事、普通なら信じないが、美月は一度見ている為、信じざるを得なかった。
〇〇:まぁ....とりあえず、飯食わせてくれてありがとう。美味かった。
美月:え、ちゃんとお礼言えるんだ。
〇〇:うっせぇよ。じゃ、帰る。
〇〇はスーツケースを持って踵を返し家を出ようとする。
その瞬間、視界が歪み、足がもつれた。
〇〇:うぁ....あれ?
美月:もー!ほら、こっち向いて。
美月は〇〇に近寄って、〇〇のおでこに手を当てた。
〇〇:.....近ぇよ//
美月:あれ、照れてる?笑
〇〇:照れてねぇ!
美月:はいはい笑 ほら、まだ熱ある。
美月:寝てていいよ。
〇〇:......いいのか?
美月:いいよ。....あ!でも、お風呂は覗かないでね?
〇〇:あ、あれは偶々だろ!//
美月:ふふっ笑 また照れた。ま、寝てな?
〇〇:.....じゃあ、お言葉に甘えて...
正直、自分でも体の限界を感じていた。
美月:ちゃんと治ったら話したい事あるから......って、もう寝てる...。
〇〇はすでにもうソファで爆睡をかましていた。
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〇〇:んぁ......ん?
目が醒めた時には、もうすでに窓の外は暗かった。朝から夜までぶっ通しで寝ていたんだろう。
時計を見ると、すでに18時。体には毛布がかけられていた。
〇〇:ふぁあ...よく寝た。あれ....
ソファから体を起こすと、目の前のテーブルに伏せて寝ている美月がいた。
〇〇:.......改めて見ると...めちゃくちゃ美人だな..
美月:.....起きてるよ。
〇〇:なっ!? 早く言え!
美月:ふふっ笑 美人って思ってたんだ?覗き込んで見るなんて変態だね笑
〇〇:うっせぇ....
美月:ま、いいや。夕ご飯作ったけど食べる?
〇〇:.......食べる。
正直、腹は減っていた。
〜〜
〜〜
〇〇:モグッ....うまっ...ガツガツ...うんめぇ..
美月:そんな焦って食べたら、詰まっちゃうよ?
〇〇:ん、ングッ! ゴホゴホッ!
美月:ほら。
〇〇:はぁ...死ぬかと思った。ごちそうさん。美味かった。
美月:いーえ。
夕飯も食べ終わり、しばらく沈黙が流れる。介抱したと言っても、二人はまだ出会って4日。話す事もあまり無い。
先に口を開いたのは、美月だった。
美月:ねぇ、〇〇君。
〇〇:ん?
美月:君の事教えてくれない?私まだ君の事全然知らないの。
〇〇:......知る必要ある?
美月:あるよ。私まだ君の事信用してないし。まだちょっと嫌いだし。
〇〇:.......はっきり言うなお前。学校とは大違い。
美月:いいから、聞かせてよ。
〇〇:.....俺の事って言ったってなぁ。
〇〇:俺は、このド田舎出身で、中学に上がると同時に東京に転校。高校に上がると同時にまたここに戻ってきた。以上。
美月:それだけ? 茉央ちゃんとか蓮加とどういう関係なの?
〇〇:あー...茉央は幼馴染。律の妹で3人でしょっちゅう遊んでた。蓮加は....んー、まぁ...腐れ縁。
美月:小説書いてるってほんと?
〇〇:やめたって言ったろ。あ!そうだ! 勝負どうなった!? まぁ、俺の勝ちだろうけど。
美月:負けたよ。
〇〇:は?
美月:私と賢治さんが蓮加に票を入れたから。
嘘をついた。私だけ〇〇に票を入れたと思われたくなかったからだ。
〇〇:.......まじか...ケンじぃまで....
美月:負けたって事は、書き続けるって事だよね。
〇〇:...マジで負けたの?俺。
美月:うん。
〇〇:はぁ.....俺また書くのか...
美月:なんでちょっと嬉しそうなの?
言葉とは裏腹に〇〇の表情からは少し嬉しさが滲んでいた。
〇〇:.....嬉しくねぇよ...別に。
美月:ふーん。ま、いいけど。それより!聞きたいのはその後のこと!
美月は急に身を乗り出して〇〇に迫った。
〇〇:その後?
美月:私に...キスしようとしたじゃん!
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〇〇:あぁ...まぁそういうキャラで書いたからな。結構良いストーリー書いたと思ったんだけどなぁ....
美月:いやいや!流さないでよ!あれ、なんなの!?
〇〇:あれって言われても....自分でもよくわかんねぇし。
美月:....もう一回やってって言ったらできる?
〇〇:え? あれ疲れるんだけど。
美月:できるって事だね。ちょっと待ってて!
美月は自分の部屋に走り出し、一冊の小説を持ってきた。
美月:はい!これ読んで!
〇〇:えぇ? だから疲れるって・・
美月:今日昨日とお世話してあげたでしょ!ほら早く早く!
〇〇:ったく.....
そう言って〇〇はテーブルに置かれた小説を手に取り、見始めた。
〜〜
〜〜
〇〇:ふぅ.....
ものの15分程で〇〇は小説を見終えた。
美月:はやっ!
〇〇:んで、読み終わったけど。
美月はキラキラした瞳で、こっちをずっと見ている。
〇〇:.......なんだよ。
美月:あれ?変わってない?
〇〇:まぁ....
美月:えーーー....つまんなーーい!
美月は残念といった表情で背もたれに背を預けた。
〇〇:んなこと言われても....
美月:なにか条件でもあるの?
〇〇:いや....読んだら毎回なってたんだけど....
読んだらいつも、その小説の主人公になっていたのだが、今回はならなかった。こんな事は初めてだった。
美月:んー.....じゃあ次これ!
再び美月は一冊の小説を渡してきた。
〇〇:えー...また?
美月:ほら!早く!
〇〇:チッ....
泣く泣く〇〇はまた、小説を読み始める。
〜〜
パタンッ
〇〇は小説を閉じる。美月は何かを感じとった。今までの〇〇との雰囲気とはまるで違かった。
美月:君は誰?
〇〇:僕?僕は井上〇〇だけど....君の方こそ、誰?
美月:.....私は山下美月だけど...私の事知らない?
〇〇:...ごめん、ちょっとわからないな。
美月:君の友達は誰?
〇〇:友達? 友達は...禅とか、和とか、遥香にさくら、それと美空。
〇〇:今は...友達って言えないのかな笑 僕が答えを決めかねてるせいでね笑
美月:....す、すごい...
口調から、何から何まで小説の中の人だった。情報も全て。
パチンッ!
弾ける様な音が響く
〇〇:痛った! なに!
美月:すごーい!〇〇君すごいよ!
〇〇:ん、入ってたのか。「秘密罪」で良かったよ。何度も読んだから、あんま疲れない。
美月:そういうの関係あるの?
〇〇:あぁ。何度も読んでると慣れてくる。10回くらい読むと想像で入れる。
美月:...ふーん.......よし!決めた!
美月は悩んだような表情をした後、何かを決断し〇〇に迫った。
〇〇:あ?何を。
美月:これから〇〇君は、私と一緒に住んでもらいます!
〇〇:はぁ!?
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To be continued