紅くらげに告ぐ #7
ガチャ
和:ただいまー....
シャワーも浴びずにベッドへと倒れ込む。寒さのせいもあってか、体がどっと疲れている。
和:ふぅ......
目を瞑っても、頭を巡るのは先刻の出来事。鬼木が悪い人では無いのはわかった。むしろ良い人。
気がかりだったのは、鬼木から聞いた〇〇の話。
和:(全然わかんない....どんな人か...)
鬼木含め、様々な人を救っているのは話を聞いてわかった。何でも屋がどんな組織なのかも何となく分かったけど....
〇〇についてだけは、よく分からなかった。人柄が、まったく見えてこない。
初めて会った時のことを思い出しながら、気づけば眠りについていた。
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カーテンの隙間から、差し込む光で目を覚ます。枕元においてあるスマホを見ると、いつも通りの時間。
どうやら寝落ちしても、決まった時間に起きれる様に体が慣れたみたいだ。
和:んん......ん?
背中に違和感を感じる。
和:.......キャーーー!!!
??:げふっ!....いってぇ...
和:はぁはぁ.....な、なに!?
違和感があった背中の方を振り向くと、人影があった為、思わず蹴飛ばしてしまった。
違和感はベッドから転げ落ち、足が当たったであろう場所をさすりながらこちらを向く。
〇〇:げほっ....なにすんだお前。
和:あ...ああ、貴方!なんで私のベッドの中入って来てるのよ!
ベッドに潜り込んできていたのは〇〇だった。
〇〇:あぁ?俺んちなんだから俺のベッドだろ。
確かに。
和:じ、じゃなくて!何で同じベッド入って来てるのよ!
〇〇:はぁ....こまけぇなぁ...減るもんじゃあるめぇし....ま、いいや。
そう言って〇〇は立ち上がり、部屋を出て行った。
和:な、何!? なんなの!?
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和:おはようございます.....
鬼木:おう!お早う。
和:あ、鬼木さん。おはようございます。
鬼木:そんなかしこまんなよ笑 同じ仕事した仲じゃねぇか。今日は俺が朝飯作っといたからよ。
和:え、あ、ありがとうございます!
よく見ると、鬼木はエプロンをつけていた。
〇〇:あ?何だ、メシ作りはそいつ仕事だろ。給料渡した意味がない。
和:あっ!
鬼木の後ろのから顔を出したのは〇〇だった。
鬼木:別にいいじゃねぇか。俺の飯も美味いぞ。
〇〇:はぁ...朝からガタガタくだらねぇこと言ってるからだぞ、次から気をつけろ。
〇〇は私の頭を小突き、奥の部屋へと消えて行った。
和:それは貴方が私のベッドに勝手に入って来たからでしょ!
扉に向かって言ってやった。
鬼木:え?
和:え?
鬼木:なに、〇〇と一緒のベッドで寝てたのか?笑
和:あ...いや//
鬼木:あっははは笑 そりゃ傑作だ笑 後で林檎に言うてやらんと笑
和:あの人が勝手に入って来たんです!!
〜〜
〜〜
鬼木:ほれガキ共、飯だ。食え。
「えー、和ちゃんの料理が良いー」
鬼木:うっせぇ!ほら早く食え!
子供たちは眠い目を擦りながら、いかにも味付けの濃そうな朝食を食べ始める。
ガチャ 奥の部屋が開く音が聞こえた。
〇〇:お、皆んな揃ってんな。ほれ、こいつ新入り。
「「えっ!」」
新入りという言葉を聞くと、子供たちの目は一気に開いた。
〇〇の後ろには、足にしがみつき警戒しながらこちらを覗く男の子がいた。
「新しい子だー!名前なんて言うの!!」
「これからよろしくねー!」
「わっ...わわっ...」
すぐに男の子は揉みくちゃになってしまった。
和:.......チラッ
なんとなく気になって、〇〇の方を見た。
彼はその様子を、まるで父親のような優しい顔で見守っていた。新しく入って来た子も、彼に懐いていた様だったし。
余計、彼の事がわからなくなってしまった。
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カシャカシャ
シャッター音とブルーシートが引かれた部屋。もう見慣れた光景だ。
何度見ても、良い光景ではないが。
「被害者は?何人だ?」
??:2人ですね。死者は4人です。
それくらい頭に入れてから現場に来て欲しいものだ。
「そうか...梅澤、詳しく説明を」
梅澤:はい。犯行時間は・・
警察庁捜査一課 巡査長に昇進してから、殺人事件を取り扱う事も増えた。
「なるほどねぇ....介護に疲れて両親を殺害。その後すぐ借金に追われる苦しみから逃れる為に、夫婦共に自殺ねぇ....」
現場は壮絶だった。
「子供は?確か息子が1人いたはずだろ」
梅澤:はい。事情聴取を行える精神状態ではなかった為、一旦孤児院で保護してもらってます。
「保護ぉ? ....どこの孤児院だ?」
梅澤:ちょ、ちょっと待ってくださいね...確か資料に、、、、
「"イチノセ孤児院"か?」
梅澤:あ!確かそんな様な名前だった筈です。
「そうか....」
警部は頭を掻きながら訝しげな表情を浮かべている。
梅澤:どうかされました?
「ん?....いやぁ...最近よく聞くなぁと思って、イチノセ孤児院」
梅澤:そう....なんですか...
「短期間であんなに受け入れするかねぇ...普通..」
「住所わかってるか?」
梅澤:はい。わかってます。
「今度行ってみるか....なぁんか怪しいんだよな」
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孤児院には色んな子がいた。
皆んなと遊ぶ子。
1人で遊ぶ子。
〇〇や九条にばかり構う子。
私が一つ気がかりだったのは、部屋の隅でずっと本を読み、1人でいる女の子。
和:(.....声...かけてみようかな)
今日は休日。学校も無いから、朝食を食べ終えた後は各々に遊び始める。
和:ねぇねぇ、皆んなと遊ばないの?
「..........」
む、無視!?
和:も、もっと本持って来てあげようか?
「.......!!」
和:?
やっと反応したと思ったら、今度は身振り手振りで何かをしている。
〇〇:....しゃあねぇな。
和:え?
側から見ていた〇〇が間に入って来た。
2人で身振り手振りで何かやっている。
〇〇:......声かけてくれてありがとう。私は本を読んでいるのが好きだから、気にしないでって。
和:え?
〇〇:...手話だよ、手話。こいつは耳が聞こえない。
和:え....え...
〇〇:親に捨てられてここで引き取った。ここにいる奴らの殆どが手話を使える。別にこいつをハブっているわけじゃないし、遊びもする。だけど本を読んでいるのが好きだから。
和:そう.....だったんだ。
勘違いしていたみたいだ。しかも、自分の見聞の小ささを知らしめられることになった。
〇〇:ん?
女の子が〇〇の袖を引っ張って、何かを伝えている。何となくわかった。私に何かを伝えようとしている。
手話で〇〇を介して伝言したいのだ。
〇〇:.....ふっ笑 あはは笑
和:な、なに?
〇〇:お前が手話覚えたら直接聞きな。
和:えっ!?
女の子は本を抱きながら、恥ずかしそうにしていた。
〜〜
〜〜
〇〇:よし、そろそろ行ってくる。
鬼木:お?仕事?
〇〇:うん。一週間くらいかな。
鬼木:そか。じゃ、その間は任せろ。
どうやら彼は仕事に行くらしい。....サラリーマンをやってるんじゃないのか?その一週間の間はどうするんだろう....そんな事を考えていた。
〇〇:おい、何ぼーっとしてる。早く準備しろ。
和:え?
〇〇:え?じゃなくて、仕事。一週間分の荷物まとめろ、早く行くぞ。
和:え、え!? 私も行くの!?
〇〇:暇なやつお前くらいだろ。
〜〜
〜〜
車内の空気とは、真逆の音楽が流れる。
〇〇:............
和:................
鬼木とは初対面で車に乗ったのに、彼と車に乗る方が気まづい。
〇〇に急かされ、半ば強引に家を出た。
一週間分の荷物をまとめはしたが、何をするか聞かされていない。
もう1時間近く運転している。
一週間間......え?彼と?
.............泊まり?
和:あっ!?
〇〇:ん?どうした?
和:な、なんでもないです....
思わず声が出てしまった。でも、もしかしたら〇〇の事を知れるチャンスかもしれない。
〇〇:.....あと1時間くらいで着くから。
和:あの....どこ行くんですか?
〇〇:...俺が、育った場所だ。
和:あ...そうなんですか。
〇〇:高校までそこで暮らした。
その話をする〇〇の顔は何故か悲しそうだった。
〇〇:もうちょっと行けば、畦道が見えてくる。コンビニも少なくなって、本格的に田舎になってくる。
〇〇:東京から電車で1時間半。
〇〇:俺が育った・・
夏美町だ。
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to be continued