見出し画像

紅くらげに告ぐ #7



ガチャ


和:ただいまー....


シャワーも浴びずにベッドへと倒れ込む。寒さのせいもあってか、体がどっと疲れている。


和:ふぅ......


目を瞑っても、頭を巡るのは先刻の出来事。鬼木が悪い人では無いのはわかった。むしろ良い人。

気がかりだったのは、鬼木から聞いた〇〇の話。


和:(全然わかんない....どんな人か...)


鬼木含め、様々な人を救っているのは話を聞いてわかった。何でも屋がどんな組織なのかも何となく分かったけど....

〇〇についてだけは、よく分からなかった。人柄が、まったく見えてこない。


初めて会った時のことを思い出しながら、気づけば眠りについていた。

====================================

カーテンの隙間から、差し込む光で目を覚ます。枕元においてあるスマホを見ると、いつも通りの時間。

どうやら寝落ちしても、決まった時間に起きれる様に体が慣れたみたいだ。


和:んん......ん?


背中に違和感を感じる。


和:.......キャーーー!!!

??:げふっ!....いってぇ...

和:はぁはぁ.....な、なに!?


違和感があった背中の方を振り向くと、人影があった為、思わず蹴飛ばしてしまった。

違和感はベッドから転げ落ち、足が当たったであろう場所をさすりながらこちらを向く。


〇〇:げほっ....なにすんだお前。

和:あ...ああ、貴方!なんで私のベッドの中入って来てるのよ!


ベッドに潜り込んできていたのは〇〇だった。


〇〇:あぁ?俺んちなんだから俺のベッドだろ。


確かに。


和:じ、じゃなくて!何で同じベッド入って来てるのよ!

〇〇:はぁ....こまけぇなぁ...減るもんじゃあるめぇし....ま、いいや。


そう言って〇〇は立ち上がり、部屋を出て行った。


和:な、何!? なんなの!?

====================================

和:おはようございます.....

鬼木:おう!お早う。

和:あ、鬼木さん。おはようございます。

鬼木:そんなかしこまんなよ笑 同じ仕事した仲じゃねぇか。今日は俺が朝飯作っといたからよ。

和:え、あ、ありがとうございます!


よく見ると、鬼木はエプロンをつけていた。


〇〇:あ?何だ、メシ作りはそいつ仕事だろ。給料渡した意味がない。

和:あっ!


鬼木の後ろのから顔を出したのは〇〇だった。


鬼木:別にいいじゃねぇか。俺の飯も美味いぞ。

〇〇:はぁ...朝からガタガタくだらねぇこと言ってるからだぞ、次から気をつけろ。


〇〇は私の頭を小突き、奥の部屋へと消えて行った。


和:それは貴方が私のベッドに勝手に入って来たからでしょ!


扉に向かって言ってやった。


鬼木:え?

和:え?

鬼木:なに、〇〇と一緒のベッドで寝てたのか?笑

和:あ...いや//

鬼木:あっははは笑 そりゃ傑作だ笑 後で林檎に言うてやらんと笑

和:あの人が勝手に入って来たんです!!

〜〜

〜〜

鬼木:ほれガキ共、飯だ。食え。

「えー、和ちゃんの料理が良いー」

鬼木:うっせぇ!ほら早く食え!


子供たちは眠い目を擦りながら、いかにも味付けの濃そうな朝食を食べ始める。


ガチャ 奥の部屋が開く音が聞こえた。


〇〇:お、皆んな揃ってんな。ほれ、こいつ新入り。


「「えっ!」」


新入りという言葉を聞くと、子供たちの目は一気に開いた。

〇〇の後ろには、足にしがみつき警戒しながらこちらを覗く男の子がいた。


「新しい子だー!名前なんて言うの!!」

「これからよろしくねー!」

「わっ...わわっ...」


すぐに男の子は揉みくちゃになってしまった。


和:.......チラッ


なんとなく気になって、〇〇の方を見た。

彼はその様子を、まるで父親のような優しい顔で見守っていた。新しく入って来た子も、彼に懐いていた様だったし。


余計、彼の事がわからなくなってしまった。

====================================

カシャカシャ


シャッター音とブルーシートが引かれた部屋。もう見慣れた光景だ。

何度見ても、良い光景ではないが。


「被害者は?何人だ?」

??:2人ですね。死者は4人です。


それくらい頭に入れてから現場に来て欲しいものだ。


「そうか...梅澤、詳しく説明を」

梅澤:はい。犯行時間は・・


警察庁捜査一課 巡査長に昇進してから、殺人事件を取り扱う事も増えた。


「なるほどねぇ....介護に疲れて両親を殺害。その後すぐ借金に追われる苦しみから逃れる為に、夫婦共に自殺ねぇ....」


現場は壮絶だった。


「子供は?確か息子が1人いたはずだろ」

梅澤:はい。事情聴取を行える精神状態ではなかった為、一旦孤児院で保護してもらってます。

「保護ぉ? ....どこの孤児院だ?」

梅澤:ちょ、ちょっと待ってくださいね...確か資料に、、、、

「"イチノセ孤児院"か?」

梅澤:あ!確かそんな様な名前だった筈です。

「そうか....」


警部は頭を掻きながら訝しげな表情を浮かべている。


梅澤:どうかされました?

「ん?....いやぁ...最近よく聞くなぁと思って、イチノセ孤児院」

梅澤:そう....なんですか...

「短期間であんなに受け入れするかねぇ...普通..」

「住所わかってるか?」

梅澤:はい。わかってます。

「今度行ってみるか....なぁんか怪しいんだよな」

====================================

孤児院には色んな子がいた。

皆んなと遊ぶ子。

1人で遊ぶ子。

〇〇や九条にばかり構う子。


私が一つ気がかりだったのは、部屋の隅でずっと本を読み、1人でいる女の子。


和:(.....声...かけてみようかな)


今日は休日。学校も無いから、朝食を食べ終えた後は各々に遊び始める。


和:ねぇねぇ、皆んなと遊ばないの?

「..........」


む、無視!?


和:も、もっと本持って来てあげようか?


「.......!!」


和:?


やっと反応したと思ったら、今度は身振り手振りで何かをしている。


〇〇:....しゃあねぇな。

和:え?


側から見ていた〇〇が間に入って来た。


2人で身振り手振りで何かやっている。


〇〇:......声かけてくれてありがとう。私は本を読んでいるのが好きだから、気にしないでって。

和:え?

〇〇:...手話だよ、手話。こいつは耳が聞こえない。

和:え....え...

〇〇:親に捨てられてここで引き取った。ここにいる奴らの殆どが手話を使える。別にこいつをハブっているわけじゃないし、遊びもする。だけど本を読んでいるのが好きだから。

和:そう.....だったんだ。


勘違いしていたみたいだ。しかも、自分の見聞の小ささを知らしめられることになった。


〇〇:ん?


女の子が〇〇の袖を引っ張って、何かを伝えている。何となくわかった。私に何かを伝えようとしている。

手話で〇〇を介して伝言したいのだ。


〇〇:.....ふっ笑 あはは笑

和:な、なに?

〇〇:お前が手話覚えたら直接聞きな。

和:えっ!?


女の子は本を抱きながら、恥ずかしそうにしていた。

〜〜

〜〜

〇〇:よし、そろそろ行ってくる。

鬼木:お?仕事?

〇〇:うん。一週間くらいかな。

鬼木:そか。じゃ、その間は任せろ。


どうやら彼は仕事に行くらしい。....サラリーマンをやってるんじゃないのか?その一週間の間はどうするんだろう....そんな事を考えていた。


〇〇:おい、何ぼーっとしてる。早く準備しろ。

和:え?

〇〇:え?じゃなくて、仕事。一週間分の荷物まとめろ、早く行くぞ。

和:え、え!? 私も行くの!?

〇〇:暇なやつお前くらいだろ。

〜〜

〜〜

車内の空気とは、真逆の音楽が流れる。


〇〇:............

和:................


鬼木とは初対面で車に乗ったのに、彼と車に乗る方が気まづい。

〇〇に急かされ、半ば強引に家を出た。

一週間分の荷物をまとめはしたが、何をするか聞かされていない。

もう1時間近く運転している。

一週間間......え?彼と?

.............泊まり?


和:あっ!?

〇〇:ん?どうした?

和:な、なんでもないです....


思わず声が出てしまった。でも、もしかしたら〇〇の事を知れるチャンスかもしれない。


〇〇:.....あと1時間くらいで着くから。

和:あの....どこ行くんですか?

〇〇:...俺が、育った場所だ。

和:あ...そうなんですか。

〇〇:高校までそこで暮らした。


その話をする〇〇の顔は何故か悲しそうだった。


〇〇:もうちょっと行けば、畦道が見えてくる。コンビニも少なくなって、本格的に田舎になってくる。

〇〇:東京から電車で1時間半。

〇〇:俺が育った・・

夏美町だ。

====================================

             to be continued


いいなと思ったら応援しよう!