紅くらげに告ぐ #1
いつかはきっと報われる。
そんな言葉に惑わされて何も無い日々に希望を打ち立てる。
それが、人間。
生まれ変わったら何になりたい?
世界で一番くだらなくて、この世界に辟易している事を暗喩している恐ろしい質問。
俺はこう答えたことがある。
ベニクラゲ
周りの人間はキョトンとしていた。
なんでベニクラゲ?と聞かれたから、こう答えた。
ベニクラゲは不老不死の生き物で、一生海で、何もせず浮かんでいられるから....と。
何とも微妙な反応をされた。
たまたま居酒屋のテレビに、ベニクラゲの特集が映っていたから適当に答えたという事は、
言わないでおいた。
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上司:おーい〇〇ー....後輩の教育がなってないんじゃないのかー?
〇〇:いやー....すんません笑 でもこいつも良くやってくれてますよ。
上司:"良くやってる"と"良く出来てる"は違うんだぞー?
後輩:.....すみません...。
〇〇:まぁまぁ、俺からも言っときますんで。
上司:頼むぞー。繁忙期なんだから。
〜〜
後輩:...すみません....僕のミスなのに先輩まで...
〇〇:いいんだよ。ほら、飯食いに行くぞ!俺が奢ってやるから!元気出せ!
後輩:はい!
〜〜
〜〜
「新発売! 強炭酸ミネラル・・」
空を覆う東京の巨大な広告塔。顔の整ったアイドルが、これでもかという程、模範的な笑顔で宣伝している。
後輩:最近人気ですねぇ....幕間京....僕よりも年下なのに....
幕間京。今をときめくスーパーアイドル。宣伝効果も抜群で、彼を使えば売れに売れる。今やテレビで見ない日はない。
〇〇:そんなんいったら俺もお前より年下だぞ。
後輩:........えぇ!?
〇〇:お前新卒だろ? 俺高卒で入ってっから今21だぞ。
後輩:僕より二つ下.....
〇〇:お?何だ?態度デカくなるか?笑
後輩:そんな事しないっすよ! 僕より何倍も仕事出来るし...社交的だし....だから、とても年下だとは思えないっす...
〇〇:....上手いんだよ...生きるのが。
ビュュュュューーー 風が吹き起こり、灰色の雲が空を隠す。
もうすぐ、雨が降りそうだ。
後輩:....ん?先輩?どこ見てるんすか?
〇〇:あ?...いや...なんでもない。
〇〇:....今日も東京は...
人が多いな
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ドンッ
??:あっ....すみません...
東京の人は、人にぶつかっても会釈すらしないんだ。
??:家出なんて....するんじゃなかったかな...
??:いやいや! いいんだこれで!
意味のない自問自答を繰り返し、大勢の人の中を行く当てもなく掻き分ける。
神奈川から、東京への家出。そんな遠くないかもしれないけど、私にとっては大家出だ。
??:.....あれ?ここどこ?
夢中で歩いていたら、知らない所に来てしまった。
それはもう、いかにもという路地で逃げ出そうにも少し前にスマホの充電が切れてしまって方向がわからない。
??:(どど....どうしよう...)
トントンッ 不意に肩を叩かれた。
??:うわぁ!?
??:おわぁ!? そんなビックリするなよ!こっちもビックリするだろ!
??:誰ですか!あなた!
??:俺?俺か......んー...."ジョー"...とか?笑
??:ジ、ジョー?
ジョー:うん。ジョーって呼んで。そんでお姉ちゃん。こんな危ないとこで何してんの?
??:危ない?
ジョー:うん、普通に麻薬の取引とかやってる場所よ?ここ。
??:えぇ!?
そんなの....本当にあるんだ.....
ジョー:......ふーん...見た所、家出って感じ?
??:え?な、なんで...
ジョー:だって、その制服、神奈川の高校のでしょ?それに荷物少なすぎるし、風呂入ってないのか知らんけど、ちょっと臭いし。
??:うっ、嘘!?
ジョー:後半は嘘笑 君、名前なんて言うの?
こんな場所だからこそなのか...冗談混じりに話す"ジョー"と言う男は何故かとても良い人に見えてしまった。普段ならこんな怪しい人に応答なんてする筈もないのに、答えてしまった。
和:い、井上...和です...
ジョー:.....................
和:?
その男は、私の目の前で固まってしまった。
ジョー:....っあ、ごめんごめん...和ちゃんね。
ジョー:...じゃあこれ、渡しとくよ。
和:え?
彼はすれ違い様に、メモ用紙のようなものをポケットに入れてきた。
ジョー:困ったら、そこに電話すると良い。....きっと助けてくれるよ。
和:..............
彼はそのまま、後ろを向きながら手を振って何処かへ行ってしまった。
和:....は!ここから早く逃げないと....
スマホを取り出そうとするが、充電がないことに気付く。
というより、
和:あれ....私...スマホ落とした?...
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〇〇:ふぃー....食ったなぁ笑
後輩:食べましたね...午後眠くならないかな....
〇〇:ミスすんなよぉ〜?
後輩:次こそは!
〇〇:ははっ笑......ん?
足元に視線を落とすと、そこには一台のスマホがあった。
後輩:どうしたんですか?....あ、これ....スマホっすね。誰かが落としたんですかね。
〇〇: んー...........あ、見つけた。
後輩:え?
〇〇:ほら、あそこに焦ってる女子高生見えるだろ。
後輩:...すんません、全然見えないっす...
〇〇:飯食う前にすれ違ったじゃんか。その時このスマホ持ってた。きっと落としたんだな。
〇〇:ちょっと届けてくる。
後輩:え、あ...はい。
後輩:........どんな記憶力してんだ...あの人...。
〜〜
〜〜
和:もー....どこに落としたんだ私....
トントンッ
和:は、はい…なんですか...
〇〇:君、これ落とした?
和:え?あ....あぁ!そうです!落としました!
目線を、肩を叩いた男の手に移すと、確かに私のスマホがあった、
〇〇:良かった笑
和:本当にありがとうございます!....あ...でも充電ないんだった...
〇〇:充電?....あぁ、じゃあこのモバイルバッテリーあげるよ。
和:えぇ!?そんな...申し訳ないです。
〇〇:いいのいいの。俺2台持ってるから笑
充電がないと、本格的に困る為、お言葉に甘えることにした。
和:じゃあ....ありがとうございます!
〇〇:はは笑............
和:.......?
眼前の親切な男は、先刻の男のように固まってしまった。
〇〇:.......あぁ...もう仕事の時間だ。じゃ....東京旅行楽しんで。
和:あ、あの!本当にありがとうございました!
和:...東京にも優しい人っているんだな...
〜〜
後輩:あ、先輩。スマホ届けられました?
〇〇:おう。じゃ、オフィス戻るか。
後輩:そうすね.....って!先輩!手が!
〇〇:ん?手?
自分の掌を見ると、血で染まっていた。
後輩:手から血出てるじゃないっすか!どうしたんですか!?
〇〇:あー....ちょっとぶつけた笑 なんて事ない。ほら、戻るぞー。
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夜
〇〇:うっわ.....さむ.....こりゃ早く家戻んないと風邪引くぞ....
〇〇:ふぅー....ふっ笑 ははは笑
11月。雪は降らないまでも、肌を突き刺すような寒さが身を包む。
電車を降りて、歩いて家へ向かう。思わず笑みが溢れた。
段々と家に近づくとマンションのエントランスの前に、座り込む人影が見えた。
暗くて良くわからなかったが、近くによると、何となく見覚えのあるシルエットだ。
和:あ、あの!
〇〇:ん?あぁ....君は...スマホの....
マンションのエントランスの前に座り込んでいたのは、日中にスマホを届けた女子高生だった。
和:あの....貴方の家に泊まらせて貰えませんか!
〇〇:は?な、何言って....
和:私...家出をして来て....泊まる所がないんです...
〇〇:だったらなおさら....家出した女子高生なんて泊めたら...
〇〇:....というより、何で俺の家分かったの?偶然?
和:ここなら、泊まらせて貰えるって聞いて...
〇〇:えぇ...誰に...
和:.....その....."何でも屋"さんに連絡したんです..。
〜〜
〜〜
和:うー....ガチガチ.....寒い.....
寒い。寒すぎる。薄着で家出は無理があった。どっかのカフェにでも入ろうか。
いやでも、お金を無駄には出来ない。
寒さを堪える為にポケットに手を突っ込んだ瞬間、紙の感触があった。
和:....あ、これ.....
紙を取り出すと、そこには電話番号が書いてあった。ジョーから貰った物だ。
和:......これに...頼るか....
充電したてのスマホで、寒さで震える指を押さえながら数字を押した。
プルルルル プルルルル
ガチャ
「はい、こちら"何でも屋"」
電話口から低い声が聞こえた。....何でも屋?
何だそれ。まぁ良い。今は寒さを凌げれば。
「あの....その....た、助けてください...」
「詳細をどうぞ」
詳細?詳細.....家出して寒いとか?いや、
泊まる所が無いにしよう。
ご飯にもありつけるかもしれない。
「家出したんです...でも...泊まるとこがなくて」
「....わかりました。では今からいう住所に.... あ、いや、その前にお名前を」
「井上...和です...」
その後は、指定された住所にふらつきながら足を運ぶ。そこには小さめのマンションが一棟。
私は出来るだけ小さくなりながら、いずれ起こるであろうアクションを待っていた。
〜〜
〜〜
"何でも屋"に連絡した。
私がそう言うと、彼の動きが止まった。
ゆっくりと私の方を向いて、日中とは全然違う声色で、こう言った。
〇〇:........入れ。
和:ビクッ....
雰囲気から何まで"何でも屋"という単語を聞いてから、変わったように見えた。
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〇〇:そこに荷物置いて。
和:は、はい......
彼の部屋に誘導のまま入る。部屋は、入ったことなんてないけど、一般的な一人暮らしの男性の部屋、と言った感じだった。
私は少し安心していた。昼にあった彼の優しさと笑顔を思い出していたから。
何となく、悪い人ではないと、そう思っていたから。
和:あ、そうだ.....
私は昼間に貰ったモバイルバッテリーを返そうと、しゃがみ込んでバッグの中を漁った。
和:.....あ、あった!
カチャ
ん?何の音だろう。金属音のような物が私の後頭部で鳴った。
というより、私の後頭部に何か当たっている。
私は、横に立て掛けてあった鏡を横目でゆっくりと見ながら、自分の後頭部を確認した。
後ろに立っていたのは、あの優しい男性。
和:....はっ!?
そして、私の後頭部に押し当てられていたのは、
銃だった。
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to be continued