紅くらげに告ぐ #5
「鬼ー! やっと帰って来た!」
「あっちで遊ぼー」
鬼木:うっせぇ!今取り込み中だっての。
パァン!
「ぎゃー!笑 皆んなー!鬼に撃たれるぞー」
「逃げろーー!笑」
和:な...なんなのこの状況...
子ども達に銃を撃ち、それを子ども達は笑いながら逃げている。
私に向けて撃たれた銃声を聴いて、みんな起きて来たみたいだ。
鬼木:んで、こいつ誰。
カチッ
鬼木:ありゃ...弾切れか。
和:ひっ.....
九条:だから撃つなっての笑 和ちゃん怖がってるでしょー。
九条:ごめんね、和ちゃん。こいつは鬼木燈。前に話した"何でも屋"のメンバーの1人だよ。
和:あっ....
鬼木燈。屋上で見た名前だ。
鬼木:なんだ、お前新入りなのか?
九条:うん。新しく入った子だよ。〇〇も良いってさ。
鬼木:そうか。
弾の切れた銃をしまい、男は私に近づいてくる。
床にへたり込んでしまった私に、しゃがんで目線を合わせてきた。
鬼木:よう、名前はなんてんだ。
和:いいい、井上...和です....
ガタイがいい。体からは、少し血の匂いがした。
鬼木:和か。良い名前じゃねぇか。 なんだ?親に捨てられたか?虐待か?それとも・・
和:い、家出です....
鬼木:家出?....そりゃここじゃ珍しいな。まぁ良い。〇〇が認めたんならお前はもう
家族だ
和:か、家族?
鬼木:おう。よろしく頼むぜー。
そう言い残して、鬼木は足に群がる子ども達を軽くあしらいながら、シャワーを浴びに行った。
九条:まぁ、悪い奴じゃないから笑 そんな怖がらないでね?
和:...........
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夜
美空:ただいまー。
「「おかえりー!」」
高校から美空が帰ってくる。丁度皆んなの夕食の時間だった。
美空:おー!和は料理上手いねぇ....ねぇ、私の分ある?
和:あるよー。
美空:お腹減った!すぐ着替えて食べる!
和:あ!ちょっとダメ!
美空が奥の部屋に行こうとしたから、立ち塞がって止めた。
美空:ん?どうしたの?
和:お、鬼木さんっていう怖い人がいるから....
美空:え!?鬼木さん帰ってきてるの!?
和:え、う、うん...
美空:会いたい会いたい! 何で止めるの?
和:だ、だって...銃とか持ってるんだよ?子ども達も怖がって・・
美空:怖がってた?
美空は少し笑いながら聞いてくる。
和:怖がっては....なかったけど....
美空:ふふ笑 和はまだ知らないかもだけど、鬼木さんはとっても優しい人だよ?
和:え?
美空:家族にはね? おりゃ!
和:あっ!
美空は私の横をするりと抜けて、部屋の扉を開けた。
美空:鬼木さーん!
鬼木:ん?...おぉ!! 美空!久しぶりだなぁ!
美空:ほんとだよ〜。3ヶ月ぶりくらい?
部屋のテーブルには、つまみと缶ビール。鬼木と九条で晩酌をしていたみたいだ。
美空:てゆーか! また銃撃ったの?和怖がってたよ? ね?
和:あ...いや....
鬼木:ん? そうか。怖かったら怖いって言ってくれりゃ撃たねぇのに。
和:(いや...開口一番撃ってたじゃん!)
九条:あはは笑 明らかに怖がってたけどねぇ笑
プルルルル プルルルル 電話が鳴った。
九条:"はい、こちら何でも屋。用件は?"
九条:".....ほう...なるほど...はい......報酬は?"
九条:"...いくらでも....はい、承りましたー"
ガチャン
鬼木:急用か?
九条:あぁ。息子が麻薬の密売に関わってるらしいから止めてくれって、母親から。....どっからここの情報仕入れたんだか....有名になるのも難儀だな。
鬼木:....ま、サツに相談したら息子捕まっちまうからな。 俺が行くか?
九条:長丁場の仕事終えたばっかで疲れてるだろ?
鬼木:大丈夫だ。俺が行く。場所教えてくれ。
そう言って、鬼木と九条は計画を立て始めた。
美空:ねぇねぇ、和。仕事ついていったら?
和:え!?
美空:だって....まだ全然知らないでしょ?この孤児院の事も、何でも屋の事も....それと・・
和:?
美空:.....〇〇の事も、何も知らないでしょ?
和:え?
美空:....や、やっぱ今の無し笑 ずっとここにいるんだったら、鬼木さんにも慣れないと!ついて行きなよ!
美空:ねぇ、九条さーん!
九条:ん?
美空:和が仕事について行きたいって言ってるんだけど、いいー?
和:え、あ、ちょ・・
九条:あー....まぁ鬼木がいれば危ない仕事じゃないし...いいよな?
鬼木:あぁ、別にいいぞ。
美空:じゃあ決まりー! ほら、和も準備しよー!
和:え、えぇ!!?
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和:うぅ.....寒い....
美空に準備を促され、身を任せた。マスクと帽子を被せられ外で待っている。
鬼木:おぉ、待ったか?
和:あ....い、いや...待ってないです....
鬼木:そか。じゃあ車で行くから、助手席乗ってくれ。
和:は...はい...
バタンッ 車内は、タバコの匂いがした。
鬼木:よーし、行くかぁ。
和:あ、あの....お酒飲んでたんじゃ...
鬼木:ん?あぁ、ありゃコーラだ笑 俺は酒飲めねぇから。
和:え、あ、そうなんですか...
〜〜
〜〜
車で20分くらいの所が目的地らしい。
その20分が1時間に感じられる程、車内は気まづかった。
たぶんそう思ってるのは私だけなんだろうけど。
鬼木:....お前さぁ
和:はっ、はい...
鬼木:中々根性あるよな。
和:え?
鬼木:九条から聞いたんだけどよ、"何でも屋"の存在を知った日の夜にはもう電話かけて、保護の依頼したんだろ?笑
和:.........まぁ...はい...
鬼木:"何でも屋"なんて初めて聞いたら、俺だったら胡散臭くて笑っちゃうぜ笑
和:....はは...笑
確かに、言われてみればそうだ。なんで私は未だに全容の掴めないものを信じ切っていたんだろう。
家出をして、身寄りがなくて、そこに偶然九条が現れた。それに縋るしか、身を守る術がなかった。
鬼木:.....お前は...なんで家出したんだ?育ちは良さそうだし....
和:....両親と...喧嘩したんです。
鬼木:...家出する程の喧嘩か?
和:...わかりません。でも...初めての喧嘩だったんです。ずっと父の言いなりで生きてきて...やっと夢が出来たのに、それも否定されて....
鬼木:ふーん....俺からしちゃあ羨ましいけどな。
和:....何が羨ましいんですか...
鬼木:俺には親がいねぇ。顔も声もしらねぇし、もちろん喧嘩なんてしたことねぇ。捨てられた後、ずっと孤児院か少年院にいたからな。
和:えっ......
鬼木:万引きや何やらばっかりやってたよ笑 チンピラとかとは良く喧嘩したぜ? .....だから..なんつーか、"親子喧嘩"って響きだけで、ちょっと羨ましいんだよ。
和:そう...なんですか...
触れてこなかった世界の話。家出をしなければ一生関わらない筈だった世界。でも、こんな境遇の人が確かに存在しているんだと、そう感じた。
鬼木:〇〇に拾ってもらって今がある。あいつがいなけりゃ、俺はまだゴロツキやってただろうよ笑
出た。あの男の話だ。普通のサラリーマンじゃないのだろうか。人柄もコロコロ変わるし、彼は一体何なんだろう。
和:...あ、あの....〇〇さんって・・
キキッ
鬼木:よーし、着いた。マスクと帽子ちゃんと付けてろよ?少し離れた場所から見てる事。後は自分の名前も俺の名前も呼ばない事。これ約束な。
和:え、あ、はい....ちょっと待って...
鬼木は特注のマスクの様なものと帽子をつけ、車を降りる。
いきなりの事だったから、シートベルトを外すのに少し手間取ってしまった。
私は後を追う様にして、車を降りた。
ビュゥゥゥ
和:...寒いな。
外には、冷たい風がこだましていた。
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to be continued