あなたのことが好きな、僕が好きでした。
〇〇:いらっしゃいませー.....
真夜中のコンビニで、誰も来ていないのに「いらっしゃいませ」と言ってしまった。
あんなに煩く鳴いていた蝉も、元からいなかったかのように、パタリと鳴き止んでいる。
九月 寝覚月とも言うらしい。
どうやら、夜が長くなり、眠りから覚めることも多くなるからだそうだ。
〇〇:.............
ピロンッ スマホが鳴って、客が来そうにないことを確認してから画面を開いた。
△△:"よー、元気にしてる?"
〇〇:"おー。久しぶり。元気にしてるよ"
△△:"就職決まった?"
〇〇:"まぁ一応な"
△△:"やるぅ。てかさ、お前夏休みこっち帰って来なかったろ"
〇〇:"うん"
△△:"今度さ、皆んな就職決まって離れ離れになる前に飲もうって話になってんの。〇〇も来いよ"
〇〇:"えぇ....めんどくさい.."
△△:"就職も決まって、もう暇なんだろ?な!来いよ!後で日時教えるから!"
〇〇:えぇ......
ウィーン
〇〇:あっ....いらっしゃいませー...
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"次は〜・・ 次は〜・・"
〇〇:ふぅ....結構早いな。
昼過ぎ、地元に帰る。 もう大学もあってないようなもんだし、2日泊まりで帰ることにした。
新幹線を降りて、地元の空気を吸うと懐かしさが込み上げてくる。
駅近辺を歩いて、家に帰る。
あの店に行ったな。 この塾で一緒に勉強してたな。
この神社に毎年一緒にお参りに行ったな。
懐かしいといっても、思い出すのは、高校の時付き合っていた彼女の事ばかりだった。
〜〜
〜〜
出会いは高校一年生の時、一目惚れだった。教室で静かに本を読んでいる彼女を見て、声を掛けずにはいられなかった。
〇〇:あっ...あの!
??:ん?
〇〇:な、名前! なんて言うの?...
??:え、遠藤...さくら...
そこからは、恋愛経験が殆どない僕だったけど毎日声を掛け続けた。
恋が実ったのは、高校2年の夏。僕から告白した。彼女も僕の事が好きだったらしく、付き合うことになった。
嬉しかった。夏の魔法でも何でも良くなるくらい嬉しかった。
さくら:あ!タコさんウィンナー取った!?
〇〇:あ、バレた笑
さくら:じゃあ唐揚げもーらいっ
〇〇:あぁ!最後の一個に残してたやつ!
さくら:へへっ笑
毎日一緒にお弁当を食べて
〇〇:あそこのお店行ってみる?
さくら:うん!美味しそう!
〇〇:外観で美味しそうってわかるの?笑
さくら:なんとなく?笑
学校終わりと休日はデートに行って
さくら:じゃあねー!
〇〇:また学校でなー!
さくら:その....あの...大...好き...//
〇〇:.....俺も//
お互いが見えなくなるくらい小さくなるまで見送って
さくら:うわー....花火綺麗...
〇〇:だな....
さくら:.....ねぇ、〇〇君。
〇〇:ん?
さくら:私は地元で就職だからさ.....〇〇君とは離れ離れになっちゃうね。
〇〇:....不安?
さくら:.....うん。
〇〇:....はい、これ。
さくら:えっ? あ...これって....
〇〇:そう。ペアリング。安物だけどね笑
さくら:...ううん。嬉しい。これで..不安じゃなくなった!
〇〇:良かった笑
ペアリングを薬指につけるもんだから、結婚はまだ早いよと言ってみたり。
彼女といる日々が、どうしようもなく楽しかった。
さくら:"別れよう"
〇〇:"うん。 そうしよっか。"
別れたのは大学1年生の冬。お互い忙しくて、段々連絡も疎遠になって
あぁ、もうこれは、別れるんだろうなと思っていた。ダラダラとした関係に終止符を打ったのはさくらで、僕も予感に呼応するように、返答していた。
それからさくらとは、会っていない。
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〇〇:ただいま。
〇〇母:おかえりーって....〇〇!?
〇〇:え、うん。〇〇だけど。
〇〇母:何よあんた! 連絡もなしに....
〇〇:あぁ、ちょっと友達と飲むからさ。
〇〇母:泊まってくの?
〇〇:うん。一泊する。荷物置きに来ただけだから、もう行くね。
〇〇母:そう...そういうとこ、むかしっから変わってないわね笑
〇〇:説教なら後で聞くよ。行ってきまーす。
〜〜
〜〜
店は....ここだな。
カランカランッ
△△:お!〇〇ー!!
〇〇:おおぉ....もう出来上がってんな笑
△△:〇〇....お前何も変わってねぇなぁ笑
〇〇:お前もな笑
店を見渡すと結構人が集まっていた。懐かしい顔も、こんな奴いたか?という人も。
一通り見渡して、目についた。
〇〇:ちょ、ちょ....こっち来いボソッ
△△:んー?
〇〇:メンバー集めたのお前か?
△△:そーだけどー?
〇〇:なんでさくらがいるんだよボソッ
△△:え?ダメだった?
〇〇:いやダメっつーか....付き合ってたの知ってんだろ。
△△:は?そんな事? ちっちぇーなぁ、お前。もう普通に友達だろ?
△△:おーい!皆んな!〇〇来たぞー。
〇〇:はあぁ.....
△△:ほれ、お前ここ座れ。
〇〇:えぇ!? あっ......
さくら:ひ、久しぶり。
〇〇:う、うん。久しぶり.....。
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「ギャハハ そんなことあったん?笑」
「まじまじ! 高校の時さー...」
「社会人なりたくねぇー」
〇〇:盛り上がってるなぁ笑
さくら:そうだね笑 なんか懐かしい。
飲み屋の喧騒を尻目に、元カップルは横並びで呑んでいた。
さくら:.....今日ね、△△君に、〇〇君も呼んでほしいって頼んだの。
〇〇:えっ?
さくら:......ちゃんと、話せてなかったから。別れた理由とか...色々。
〇〇:.......それは...僕も思ってた。
さくら:...へへっ笑 一緒だね。
あの時とは違う、精一杯の笑顔という印象だった。
さくら:私ね....〇〇君の事、まだ好きなんだ。
〇〇:........ぼ、僕も・・
さくら:でも、あの時、ちゃんと別れておいて良かったんだと思う。
言葉を遮られてしまった。
〇〇:.....どうして?
さくら:....私...内気だし...人と上手く接する事とか出来ないし....
さくら:....だから多分....きっと....〇〇君と付き合えてる自分が....好きだったんだと思う。
あぁ.....そうか。僕の中にある違和感はそれだった。たぶん....僕も....
〇〇:....僕も...そうだったんだと思う。
さくら:きっと....大好きな〇〇君と、ずっと一緒にいれる事に甘えてたんだよ。会えなくなって....また自分が嫌いになった。
〇〇:............
さくら:だから.......今日でキッパリ終わり。自分勝手だけどね。
〇〇:...............うん。
言葉がスッと出て来なかった。
男の恋はフォルダ保存。女の恋は上書き保存とは、良く言ったものだ。
さくら:私と付き合ってくれてありがとう。.....大好きだったよ。
〇〇:....うん。僕も。大好きだった。
カチンッ
グラスを交わして、呑む。
彼女は、酔いのせいなのか顔を少し赤らめて、目には涙が滲んでいた。
もう、終わりにしよう。この気持ちは。なんとかフォルダを削除しないとな。
ペアリングも捨てよう。
僕は、グラスを持つ彼女の薬指に輝く、見覚えのない指輪を見て、そう思ったんだ。
〇〇:幸せになってね。
さくら:......うん。
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Finish
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