凡豪の鐘 #7
気がついたら家を飛び出していた。無性に走りたくて
今の自分のままではいたくなくて
いられなくて
どうしようもないこの感情を足にぶつけるしかなかった。
走って走って走って、辿り着いたのは、海だった。
砂浜に足を踏み入れる。一歩一歩足跡を残しながら海へと入る。
膝下まで来る波に足を取られそうになりながらも、泥濘をしかと踏み締め体勢を整える。服が濡れることなど、どうでも良かった。
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茉央:........お兄、ちょっと外散歩してくる。
律:え?外もう暗いぞ?
茉央:大丈夫...すぐ帰るから。
バタンッ
〜〜
何かに悩んだ時、何かに心が打ちつけられた時、私は海を見に行く。それは小さい頃に、ある大切な人からそう教えられたから。
その人はいつでも真っ直ぐで周りなんて気にしていなかった。
だけど、久しぶりにその人に会って少し残念に思った。才能という力に絶望し、押し潰され、前を向けなくなっていた。
まるで私を見ているようで、見ていられなかった。
茉央:...まだ少し寒いなぁ...
夜風に当たりながら海までの道を歩く。ものの10分程で着く道を色々と考えながら歩く。頭に浮かぶのは先刻の会見の事だ。
茉央:....〇〇のお父さん、初めて見たなぁ..ちょっとだけ似とった笑
〜〜
茉央:あれ? 誰かいるのかな。
砂浜に足跡がついている。暗くてよくわからなかったが、遠くまで続いているのがかろうじてわかった。
気になって、その足跡を辿っていく。
茉央:こんな時間に茉央以外に来てる人いるんやなぁ.....あ....。
足跡が海に向かって続いていることに気付く。視線を上にあげ、足跡を見ると、そこには海に膝下まで浸かっている〇〇がいた。
〇〇:........くそっ....くそっ!!
茉央:(〇〇や.....)
〇〇:....好き勝手言いやがって....何が「才能は線引き」だよ....何もわかってねぇよ.....
茉央:...............
〇〇:.......くそ......結局はあの人の言う通りだってわかってんだ...わかってんだよ....
少し離れた所から見る〇〇の背中は酷く小さく見えた。
茉央は声を掛けようとした。見るに耐えなかった。寒空の下で大切な人が不弊を並べて嘆いている。そんな姿は見たくなかった。
茉央:あ...あの・・
すーーーーーーーっ
声を掛けようとした矢先、大きく息を吸い込む音が聞こえた。
〇〇:.......やったるわぁぁぁああああぁああ!!!!
茉央:へっ!?
〇〇:やったるわボケ!! なってやろうじゃねぇか!!お前が言うネジが飛んでる人間に!!
〇〇:不向きだと思ってたよ....んなこた、もうわかってんだよ....わかってっけどよぉお!!
〇〇:だからこそやってやろうじゃねぇか!!見とけよクソ親父!! 俺は必ず..テメェを超えて、世界一の小説家になるからなぁぁぁああああ!!!!!!
ザザーーーン ザパァーーン
意思が宿った咆哮も、波の音に、すぐかき消されていく。
〇〇:はぁ....はぁ.....よし....家帰って書こ...ん?
茉央:あ.......
振り向いた〇〇と目が合う。
〇〇:茉央じゃん。.....今の聞いてた?
茉央:いやぁ...その偶然な?聞くつもりはなかったんやけど・・
〇〇:ははっ笑 ラッキーラッキー。
茉央:へ?
〇〇:誰かに聞かれてた方が後戻りできないからな。
茉央:そ、そっか...。
〇〇:ほれ!
茉央:え? うわ!
〇〇は自分が着ていたパーカーを脱ぎ、茉央に投げて渡した。
〇〇:この時期まだ寒いからな。着て帰りな。この寒空の下そんな薄着じゃ風邪引くからな.....思い出しただけでも震えるわ笑
茉央:あ、ありがとう//
パーカーを羽織ると、〇〇の匂いが自分を包んだ。
〇〇:じゃあな。......あ! 今のは俺と茉央だけの秘密な!
茉央:う、うん!
〇〇:っし!....書くぞぉお!! じゃあな!
走って帰ってしまった。
変わっていなかった。私の大切な人は何も変わっていなかった。不器用な程で真っ直ぐで、ベクトルがプラスに向かえば、彼はどこまでも突っ走る。
そんな彼の事が、私は・・
〜〜
〜〜
ガチャ
〇〇:....た、ただいま..ブルブル
美月:あ!ちょっと!どこ行ってたの....ってビチョビチョじゃん!
〇〇:ふ...風呂沸かしてくれブルブル
美月:何やってんの!バカ!
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翌日
美月:ふぁあ.....よく寝た....
今日は〇〇が料理当番だった。
美月:〇〇君の料理食べるの...初めてかも。
ガチャ
扉を開けて、朝ご飯が置いてあるであろうダイニングへ行く。
美月:なっ!........
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坂乃高校 図書室 AM8:00
律:........なんでこんなのに付き合わにゃならんのだ....
ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ
図書室には鉛筆の音だけが響いていた。
〇〇:....さてぇと、きょふはどんな女をちゅろうかな(釣ろうかな)
律:かえってこぉーい!
バチンッ!
〇〇:いでぇ! はぁ...はぁ...どうだ!
律:今から読む。ちょっと待ってろ。
〇〇:うい。
〜〜
律:......いや...面白いけど....
〇〇:だろ? おもひろいはろ?
律:うん...まぁ....てゆうかさ、俺小説普段読まねぇから詳しくないんだけど。他の人の見てもらえよ。
〇〇:.....お前以外に学校で見てくれる奴いねぇひ。
ガラガラガラッ
美月:いたぁ! ちょっと!〇〇君!
〇〇:ふぁ? なんはよ。
美月:なんはよって何? ....って...なんでそんな顔腫れてるの!?
〇〇の左頬は親知らずを抜いた時のように腫れ上がり、どうも喋りにくそうだった。
律:あー....〇〇が小説の中入ったら叩けっていうからさ...これで7回目だよ....
美月:7回!? 何時からいるの!?
律:5時に呼び出された。
美月:えぇ!?
〇〇:うっへぇなぁ...なにひに来たんだよ。
美月:何しにじゃないよ! 何あの朝ご飯!あんな真っ黒焦げな食パン見たことないんだけど!?
〇〇:食えりゃなんでもいいはろ。文句言うなら自分で作れ。
美月:当番だって・・あ.....
律:.....何の話?
美月:いや...その...えーっと...
美月は手で髪を解かしながら、一瞬、目を瞑り再び律と向き合った。
美月:なんでもないよ? それより...律君って、こうやって見るとカッコいいんだね?
美月は律の隣に座り近づきながらそう言った。
律:へぇ!? いや....そ、そうかな//
美月:うんうん! カッコいい!
律:いやぁ...嬉しいな//
〇〇:.....何してんだ...キモイぞ...
少しの沈黙の後、美月は〇〇の対面に座った。
美月:〇〇君もさ、結構カッコいいんだね。 私好きになっちゃったかも。
〇〇:............何おまへ。何が目的?
美月:え?
〇〇:.......初めて会った時から思ってたけど...やっぱ俺、おまへの事嫌いだわ。
律:な!? お、おい!
〇〇:うっへぇ。 俺きょうひつ戻る。
律:ちょ、ちょっと待てって!
美月:...............。
〜〜
図書室に一人、美月は動けなかった。
しばらく経ち、1時間目の前に教室に戻って来たが、〇〇とは一度も言葉を交わさなかった。
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昼休み
〇〇:しゃあ! おら!行くぞ律!
律:あ?どこに?
〇〇:図書室だよ! ようやく腫れも引いたし、昼休みノルマは2作かなぁ..
律:いーやーだ。
〇〇:え?
律:1人で書け。今日はもうパス。
〇〇:はぁ!?
律:ほら!いったいった!
〇〇:...んだよーー。
〇〇は渋々1人で図書室へ歩いて行った。
男1:あ、あの!美月さん!一緒に昼飯食わない?
男2:お、俺も!
美月:.........へ? ご、ごめん!聞いてなかった!
男1:疲れてる?
美月:ううん!大丈夫!た、食べよっか!
美月は昼ご飯を取り出し、弁当箱を開けた。
男1:.......美月さん....なにそれ....
美月:え?
弁当箱に入っていたのは、真っ黒に焦げている食パンだった。
美月:...........💢
男2:....な、なかなか攻めた料理だね...
美月:...今日は美波と食べてくるね?
そう言って真っ黒焦げ食パン弁当を手に美月は屋上へ向かった。
〜〜
〜〜
ガチャ
美月:なんなの! あの人はなんなの!?
美波:うわぁ! びっくりした! なになに!?
美月:あ、ごめん。
美波:あの人って誰?
美月:あぁ....〇〇君。
美波:また〇〇君笑 なんかされたの?
美月:.........朝ご飯と昼ご飯に黒焦げの食パン出してくる人どう思う?
美波:え?.......どうかしてると思う。
美月:だよね!! どうかしてるよ!ほんと! しかも私に嫌いって...ボソッ
美波:食パンのくだり...なに?
美月:あぁ...ごめん。こっちの話。
美月:あれ?そういえば蓮加は?
美波:先に食べて図書室行っちゃったよ。毎日行ってるってさ。
美月:図書室?.......なんか忘れてるような....ま、いいや。美波ー、おかずちょっと頂戴?
美波:嫌!
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〇〇:.....朝は恋愛物書いたからな...昼は...どうしよ...。
ブツブツと小説について唱えながら廊下を歩く。気づけば図書室の前だった。
ガラガラガラッ
〇〇:たのもー......って....は?
蓮加:....ん? は?
しばらく2人は動かず目を見つめ合わせていた。そしてまったく同時に指を指した。
〇〇、蓮加:なんでここにいんのよ!
いんだよ!
蓮加:私は毎日ここにいるし!
〇〇:知るかぁ!どっか行け!
蓮加:嫌だね! あんたがどっか行きなさいよ!
〇〇:ぐぬぬぬ....こうなったら...
蓮加:なによ。
〇〇:小説で勝負だ!
〜〜
バチンッ!
〇〇:いだ!
蓮加:ねぇ...面倒くさいんだけど!
〇〇:仕方ねぇだろ...
蓮加:.......ていうかさ....また小説書くことにしたの?
〇〇:ん?...まぁな。クソ親父にあんな事言われて終われない。
蓮加:..........やっぱ〇〇はそっちの方がいいよ..。
〇〇:お、やっと名前で呼んだな笑
蓮加:う、うっさい//
〇〇:なんで顔赤いの? ま、いいや勝負の時間だ。
蓮加:望むところよ。
2人は描いたものを交換し読み始めた。
〜〜
〜〜
〇〇:はぁ...はぁ....これは勝ったろ!
蓮加:どう考えても私でしょ!?
勝負なんてつくはずがない。2人共自分が書いた方に入れるのだから。
もう何回も勝負している。午後の授業のことなんて頭になかった。
〇〇:........今日ケンじぃは。
蓮加:.....執筆で忙しいって言ってた。
〇〇:"あれ"使うか。
蓮加:.....久しぶりだけど集まるかな。
〇〇:...集まるだろ。集まらないと困る。勝敗つかないし。
蓮加:...そうだね。
〇〇:そうと決まれば...よし!なんか放課後になってし、帰るぞ!
蓮加:え....あ、...うん。
〇〇:あ?どうした?
蓮加:ふ、2人で帰るの?
〇〇:当たり前だろ。皆んなもう帰ったよ。ほら早くしろ。
蓮加:う、うん//
2人は"あれ"を使うべく共に帰ることにした。1人は何か違う思いを抱いているようだったが。
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To be continued