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凡豪の鐘 #14
6月を目前にして、梅雨入りも目前。嫌な湿気を帯びた空気が身を覆っていく。
奈央母:奈央ー? 今日も学校行かないのー?
奈央:.......うん。
奈央母:なにがあったか分からないけど....落ち着いたらちゃんと学校行くのよー?
奈央:.....わかってる。
親友を裏切ってしまった。その罪悪感でもう家から出る気にさえなれない。自分の事が情けなくて仕方ない。恐い。
ピンポーン
自責の念に苛まれている中、インターホンが鳴った。まぁ自分には関係ない。母が対応しているだろう。
〜〜
何分か経って、階段を上がってくる音が聞こえる。
奈央母:奈央ー? お客さん来てるわよ!
お客さん?私に?
奈央:.....今は無理....帰ってもらって。
奈央母:そんなこと言われても....手土産も貰ったし、部屋開けてくれない?
奈央:....誰?
奈央母:男の子よ〜。
その言葉を聞いた瞬間、体が震えた。私はもう逃げられないのだろうか。あの大柄な男共に恐怖を植え付けられるのだろうか。
私は深く布団を被った。
キィィイ 扉が開く音がした。もうダメだ。
律:....奈央ちゃん?
奈央:ビクッ.......ん?
声が違かった。自分の脳裏に焼き付いたあの恐ろしい声ではない。私は恐る恐る布団から顔を出した。
奈央:あ......茉央のお兄さん...。
部屋にいたのは、何度も見た事がある、親友の兄だった。それともう1人。
奈央:だ、誰ですか?
律:ん?あぁ、こいつは天鐘〇〇って言うんだけど・・
〇〇:茉央の幼馴染だよ。よろしく。
奈央:え、あ.....はぁ....。
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〜〜
奈央:..............。
部屋のテーブルを3人で囲み、母親が淹れてくれたコーヒーを啜る。私はまったく口をつけられなかったが。
〇〇:.....なぁ、茉央っていじめられてんの?
奈央:え?
律:バカかお前!直接的すぎるって!
〇〇:あぁ? いいだろ別に、時間の無駄になる。んで?奈央ちゃん、茉央はいじめられてんの?
なんだこの男の人。自分のパーソナルスペースにズケズケと踏み込んでくる。
律:ご、ごめんね奈央ちゃん。最近さ、茉央が部屋から出てこなくてさ、なんか悩んでるみたいなんだ。奈央ちゃんも学校休んでるし、なんかあったのかなぁって。
奈央:......いや....その...えっと...
話すことを脳が拒んだ。話した事がバレてしまったら、後で何をされるかわからないという恐怖が行動を縛りつけた。
〇〇:んだよ。まわりくどいな。大分調べたんだからもういいだろ。
〇〇:つまりだ。奈央ちゃんと茉央は柔道部の悠真、晴人、大和にいじめられてる。女子生徒の真凛と夕華も含めてだな。違うか?
奈央:...........そうですグスッ
目からは自然に涙が出ていた。言われた事が全部当たっていて、やられた事が想起された。
律:もし、話せるようだったらさ、何があったか話してくれないかな。
奈央:....うぅ....グスッ....あの...私...茉央を見殺しにしちゃっだんです...うぅ....ごべんなざい....。
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坂乃高校 昼休み
美波:今日、律君も〇〇君も休みなんだね。
美月:そう....みたいだね(今日先に学校行ったの見たんだけどな....)
美波:ん?なんでそんな悩んだ顔してるの?
美月:い、いやいや別にそんな事ないよ。ただ、今日部活1人だなぁって。
美波:茉央ちゃん演劇部入ったって言ってなかったっけ。
美月:茉央ちゃんもここ最近ずっと学校来てないみたいなんだよねぇ。
蓮加は屋上の床で小説を書いていた手を止めた。
蓮加:........茉央学校来てないの?
美月:え?う、うん。
蓮加:.....理由わかる?
美月:うーん....詳しくはわかんないなぁ...〇〇君はわかってるみたいだったけど。
蓮加:.......そっか。......ねぇ、最近甚平着た変な人見たりした?
美月:え?
美波:あ!私見たよ! なんか....甚平着てひょっとこのお面付けてる人見た。
蓮加:そう.......ほんとにあいつらはボソッ
美月:どうかしたの?
蓮加:いや?なんでもない。
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私と茉央は小学校からの親友で、ずっと行動も一緒にしていた。
中学の頃から一緒になったのは真凛と夕華。真凛と夕華はいわゆる一軍という感じの女子で、友達も多く、それでも私達と遊んでくれる時間が多かった。それが、嬉しかった。
真凛と夕華が一個上の柔道部の先輩とつるんでいるという噂が出始めたのが中学2年生の頃。でもそんな噂はすぐに無くなったし、真凛達も否定していた。
私達は同じ高校に進み、一緒のクラスにもなった。
でも、新学期が始まって早2ヶ月。5月の終わりにあんなことが起こるなんて、思わなかった。
〜〜
1年担任:じゃ、進路希望出してねー。一年生だからってうかうかしてると、すぐ卒業だからね?
1年男1:大学受験とかやだなぁ.....
1年男2:それなぁ.....なんか一気に有名人になれたりしねぇかな。
真凛:はい!先生!
1年担任:お!真凛ちゃんは......
第一希望 アイドル
第二希望 女優
第三希望 有名人
1年担任:えーっと......これは本気?
真凛:はい!
1年担任:そ、そう....
真凛を皮切りに、続々と生徒が進路希望を出しに行った。
真凛:......あれ?茉央は出しに行かないの?
茉央:あ.....まだちょっと....
真凛:なんて書いたのー?
茉央:あっ!
真凛は強引に、茉央の手に握られていた進路希望の紙を抜き取った。
真凛:えーっと.....第一希望...アイドル?
茉央:あ、あぅ....
一瞬真凛の顔が怖いと感じた。
真凛:....そっかぁ....。
真凛は茉央の進路希望を消しゴムで消し、書き換えた。
茉央:な、何してるの?
真凛:はい!これで出してきて?
茉央:これって.....
真凛から返された進路希望には、第一希望 □□大学 と書かれていた。
真凛:アイドルなんてやめといた方がいいよ?茉央がなれる訳ないしww
茉央:でも....私本気で!
真凛:いいから早く出してこいよボソッ
茉央:え......
私は茉央の後ろの席で、今まで真凛から聞いた事がない声を聞いた。
〜〜
昼休み
私と茉央はいつも一緒に昼食を取る。最近の茉央はなんか元気だ。どうやら好きな人でも出来たらしい。本人は否定しているけど、見ればわかる。
今日は、真凛と夕華も共に昼食を食べたいと言ってきた。
それに、真凛と夕華はあまり人目につかない、体育館倉庫で食べたいと申し出てきた。
〜〜
奈央:珍しいね、真凛達とお昼ご飯食べるの。
真凛:そうかな。でも今日はそんな気分でさ。
夕華:そーそー。
なんとなく2人の雰囲気が違う気がした。
真凛:.....奈央はさ、進路希望なんて書いたの?
奈央:私?私は普通に大学って書いたよ。
真凛:そかそか。茉央も大学って書いたんだよねー。
私は茉央の方を横目で見た。
茉央:....いや、あの後結局アイドルって書いて出した。
真凛:え?
茉央:私、もう決めたんや。アイドルって夢諦められへんから。
真凛:.......ふーん。
真凛と夕華は互いに目を合わせて何かを我慢している様子だった。
真凛:.....ぷっww あっははははははwwww
夕華:ギャハハハハww 茉央...茉央なんかがなれる訳ねぇじゃんwwww
茉央:え?
私は声が出なかった。
真凛:あっははww ....ねぇ、夕華、もういいよね。
夕華:もういいっしょ。こいつらめんどいし。
奈央:え?な、なに、どうしたの?
真凛:お前らさぁ、勘違いしてんじゃねぇよ。
茉央:え?
真凛からは想像もできない程の言葉遣いだった。
真凛:お前ら勘違いしてるようだから言ってやるよ。別に私達、お前らの事、友達だと思ったことねぇからww
夕華:それなww 中学の時、話しかけたのも、今友達演じてやってんのも、周りからの好感度得る為だけだからwww
真凛:お前らクソ陰キャじゃん? だからお前らみたいな奴に仲良くしてる所見せれば人気出ると思っただけだよww
茉央:な、なんで.....なんでそんなこと....
真凛:こっからが本題だよカス。お前アイドルのオーディション受けんのやめろ。
夕華:そうだそうだー。
茉央:い、嫌や。私の夢・・
真凛:てめぇの夢なんて知るかよ。お前さ、顔だけは可愛いだからさ、もし受かったらどうすんだよ。
真凛:もし受かったら私が目立たなくなるじゃんかよ。
奈央:あぁ.......
どんどん私の中での真凛達の像が崩れていく。
真凛:アイドルって言うのは、私みたいな皆んなから好かれてる人がなるの! オーディション受けるってだけで周りの男はチヤホヤしてくれんのにさぁ....お前みたいな陰キャも受けるって言ったら注目度下がるでしょ.....
夕華:諦めた方が身の為だよ?ww
そこからはあまり覚えていない。かすかに覚えていたのは、茉央が決してアイドルを諦めるという言葉を発していないということだった。
〜〜
今まで友達だと思っていた2人は、まったくの虚像だった。本性が出た瞬間にこうも崩れるなんて思わなかった。
私は嬉しかった。こんなキラキラした女の子達が私なんかと仲良くしてくれている事が。
一緒に遊びにも行った。買い物もした。家にも遊びに行った。そんな事を思い出す。
まだ心の中で、起こった出来事を信じられていなかったのかもしれない。
朦朧とした意識で段々と視界がハッキリとしてくる。聴覚がまず反応する。耳からは叫び声が聞こえてくる。
それが聞こえてきた瞬間、一気に視覚情報が戻った。
私がいたのは柔道場だった。
真凛:あははははははwwww いいぞいいぞー、もっとやれー。
夕華:ギャハハハハww 動画撮っとこww
私の横でかつての友達が腹を抱えて笑っている。
茉央:ぐっ....な、奈央....助け...がっ
前を見たくなかった。なにも直視したくなかった。だが、反射的に眼は前を向く。
奈央:あ......あぁ......
私の眼前に広がる光景は、この世で起こり得るものではない。そんなものだった。
3人の大柄な男達が、親友を痛めつけている。1人が抑え付け、身ぐるみは剥ぎ、ボールを投げつけ、殴り、蹴りまるで人として扱っていない。
もうダメだと思った。私がいる世界だと思いたくなかった。
トントンッ
奈央:ひっ......
後ろから肩を叩かれた。
真凛:ねぇねぇ、あんな風になりたい?
奈央:え...あ....ブンブン
私は首を横に大きく振った。
真凛:じゃあさ、あれかけてきてよ。
真凛が指を指したのは、バケツの中に入った、雑巾をかけた後であろう汚水だった。
奈央:い、嫌・・
真凛:奈央はさ、私達とずっと友達だよね?
気づいた時には、自分の手にバケツが握られていた。目の前にはびしょ濡れの茉央。
道場に響き渡る笑い声を聞いて私は悟った。
もう逃げ場所はないんだ
〜〜
人生はそう上手くいかない。真凛と夕華の言う通りにしても、私が無事でいられるということはなかった。
何度も犯され、何度も汚された。どうやら柔道部の先輩の1人に気に入られたらしい。あの男達は女性男性関係ない。ただ暴行を加える事に快感を覚える狂人だった。
でも犯された回数も汚された回数も、茉央の比ではなかった。
茉央にまた汚水をかけた。牛乳をかけた。そんな時は、感情を無にした。
学校で茉央と話す事は禁止された。親友と話す事を禁止された。もうこの時には、無意識に感情を無にする事しか考えていなかったんだろう。
結局、茉央は折れなかった。一度もアイドルになる事を諦めるという意味合いの文言を口にすることはなかった。
私は知っていたのに。ずっと茉央がアイドルになりたいと夢見ていた事を知っていたのに。
私は親友を見殺しにした。そんな人間は生きているべきではないと思った。
でも私という人間は弱い生き物だった。死ぬ勇気も出なかった。
そんな事を思いながら、部屋に籠る。どうしようもない気持ちを枕にぶつけ、布団に包まる。
そんな生活をしている時に、部屋に訪れたのは、親友の兄と、親友の幼馴染だった。
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To be continued