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私が振り向かされたのは嫌いな"アイツ"だった。
「付き合ってください!」
何回この言葉を聞いてきただろうか。別に自慢じゃない。本当に。
「ごめんなさい。今は部活に集中したくて」
この言葉も何回発してきたか。私も言いたくない。恋愛なんて必要ないのに。
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美空:えぇー!また振ったのー!?
和:またって何?
美空:だってぇ...これで何回目?
和:そんなん数えてないよ...
井上和はこの学校の"ヒロイン" まさに主人公。それが皆んなの共通認識で当たり前だった。入学してからそれが崩れた事はないし、新入生にとっても、校則より早く定着する事柄だった。
美空:彼氏欲しいとか思わない訳?
和:だって..好きな人いないし、部活で忙しいし....ってこれ何回も説明してるよね。
美空:そうだけど〜...話聞く限り、理想高いって訳でもないしなぁ...
和:だから!いらないの!ほら次、移動教室だから行くよ!
私は引き出しから教科書を取り出す。
和:ん?
教科書を出す拍子に、一枚の小さな紙が落ちた。
和:💢💢....はぁぁ....
その紙を見た瞬間、私は怒りと溜息が溢れる。
美空:あ、それ、また〇〇君?笑
和:....そう、また"アイツ"
私はその紙を一瞬見て、そのまま制服のポケットに入れた。
見慣れた字で
「告白したいので、放課後屋上に来てください」
そう書いてあった。
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放課後
屋上へ向かう途中、友達に声をかけられる。
美空:和ー、どこ行くのー?部活は?
和:屋上!知ってるでしょ!!
美空:あ、ごめん。忘れてた笑
大きな声を出したせいで、周りの男子達もざわめく。
△△:もしかして、また〇〇?笑
□□:たぶん?笑 あいつも良くやるよ笑
私は男子を一瞬睨みつけて、そのまま歩いた。なんとなく....イラッとした。
〜〜
〜〜
屋上
〇〇:好きです!付き合ってください!!
眼前の男は深々とお辞儀をし、手を差し出す。
和:ごめんなさい。
間髪入れずに答える。
〇〇:うわぁー!!!なんだよもう!!またかよぉぉぉ!!!
和:あんたねぇ...これで何回m・・
〇〇:98回。
和:なんで覚えてるのよ....
〇〇:くっそぉ...今回もダメかぁ...
その男は、まるで初めて失恋したかのように項垂れる。
和:はぁ....、あ、一個言いたい事ある。
〇〇:え!なになに!もしかして次の告白で・・
和:違う!この紙!何この「告白したいので、放課後屋上に来てください」って!
〇〇:ダメだった?
和:普通、「伝えたい事があるので」とかでしょ!これじゃもうわかりきってるじゃん!
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〇〇:え....え?それ告白するのは許してるってことになってない?
和:あ.....ち、違う!嫌いだから!!それだけ!私もう部活行くから!
バタンッ 私は屋上を後にした。
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カンッッ!
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良い音が鳴った。私が放った矢はド真ん中へと吸い込まれていった。
弓道は気持ちが良い。真ん中に当たれば気分が晴れるし、悪い射なら気分が悪い。単純な所が好き。
カンッッ!
隣で良い音が鳴った。
〇〇:っっし!!
どうやら真ん中に当たったらしい。つくづく思う、なぜ私は、この男と同じ部活なのかと。
〜〜
女1:和ー、今日どっか寄って帰ろー。
和:いいよー....あ、ちょっと待って部室に忘れ物した!
女1:待ってるよー。
部活終わり、私は忘れ物を取りに弓道場に向かった。
和:ん?明かりついてる...
カンッッ!
和:ん?
誰もいない筈の弓道場から音が聞こえた。私は近くの木に隠れて弓道場を覗いた。
〇〇:んー...なんか感覚違うな。
和:あ....アイツだ...
練習していたのは、アイツだった。たった1人で。汗だくになりながら。
アイツはクラスでも、いつもふざけているし、いわゆるいじられキャラというやつ。そんなアイツが陰で努力してるなんて、知らなかった。
和:......違う違う!こんな事で勘違いするな私//
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アイツに違う感情を抱きそうになったから、私は忘れ物を諦めて、そのまま帰ることにした。
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次の日
美空:ねー、和。今日部活終わるの何時?
和:............
美空:和! 聞いてる!?
和:はっ! な、何?
美空:もー、今日ずっとボーっとしてるよ?.....もしかして、〇〇君の事、考えてたりー?
和:ち、違う違う!そんなんじゃない!!もー、やめてよ!
美空:そ、そんな否定しなくてもいいじゃん...
和:私もう部活行くから!
私は急いで教室を出た。美空に図星を突かれた。その通りだった。昨日からアイツの事が頭から離れない。
和:んー....もう! こんなんじゃアイツのこと・・
結局、その日は一回も真ん中に矢が放たれる事はなかった。
〜〜
〜〜
部活終わり。私は少し残って勉強していこうと教室へ向かった。
和:あ.....
少し開いた教室のドアから見えたのは、アイツと数人の友達だった。
△△:なぁ、〇〇、後何回和さんに告白すんの?笑
〇〇:あー?告白成功するまでに決まってんだろ。
隙間から声が聞こえてくる。
□□:無理だって笑 何回やったって成功しないから笑 この前だってこの学校で一番イケメンって言われてる奴がフラれたんだろ?
〇〇:そーゆーの関係ないから。
△△:それにさぁ、最近和さんの人気も落ちてるぜ?お高くとまっててうざいって笑 皆んなもただ美人だからって告白してるだけだしな笑
聞くんじゃなかった。私はそのまま教室を後にしようとした。その時だった。
〇〇:そんなんじゃねぇって!いい加減にしろよテメェ!
△△:は?
〇〇:お前ら、井上のこと何も知らねぇだろ!井上はなぁ、部活だっていつも真面目にやってるし、成績だっていい。全部に対して真面目なんだよ!内面見ねぇで告白してんなら、井上に対して失礼だ!
□□:ちょ、落ち着けって....なんでお前そんなに・・
〇〇:井上の事が好きだからに決まってんだろ!!
和:っつ!....
〇〇:.......俺、今日も残って練習してくから。怒鳴ってごめん。じゃあな。
アイツがこっちに向かって歩いてくるのがわかって、すぐに身を隠した。
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パスッッ
どうも今日は音が悪い。
〇〇:んー....
理由はわかっている。雑念が多いから。ついカッとなって怒鳴ってしまった。明日から気まづい。
和:下手くそね。
〇〇:ん?え!?井上!?
後ろにいたのは井上だった。どうしよう、コソ練がバレる。
和:隠れてないで堂々とやればいいのに。
〇〇:いやぁ...だって..カッコ悪ぃじゃん。俺みたいなのが練習してたら。
和:ふっ笑 さっきの教室のよりは、全然カッコ悪くないけど。
〇〇:なっ!?....み、見てたのか。
井上はそのまま、弓と矢を手に取った。
〇〇:なにして・・
和:気が変わった。.....私と三本勝負して。勝ったら付き合ってあげる。
〇〇:えぇ!?
〜〜
そのまま勝負が始まってしまった。
〇〇:(ちょ、待て待て...勝ったら付き合う!?そんな雑念のまま勝てる訳...)
カンッッ! 井上の2射目が終わった。結果はド真ん中。
次は俺の番。今の所2人とも真ん中に居抜き続けている。
〇〇:ふぅ.....
俺は矢を構える。そして、ふと頭によぎる"井上と付き合う"という事が。
〇〇:っ...あ!
放った矢は的から大きく外れてしまった。俺は弓道場においての礼節を最低限に重んじながら絶望した。
カンッッ! 少し間をおいて、良い音が鳴った。見ると、矢は真ん中に突き刺さっていた。
和:ふぅ.....よいしょ。
井上は、座っている俺の横に腰掛けた。
〇〇:........
和:私の勝ち笑
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井上は笑いながら言った。
負けたことの悔しさと、笑顔の眩しさで感情がぐちゃぐちゃだった。
〇〇:....くそ...
和:じゃ、勝ったから約束通り、私と付き合う?
〇〇:はぁ.....ん!?え!?
俺は勢いよく井上の方を見た。その顔は暗がりでもわかる程、真っ赤に染まっていた。
和:どっちが勝ったらとか....言ってないし。
〇〇:え、あ...え///
和:ほ、ほら! し、しないの?告白?
〇〇:いや、じゃあ....その....俺と付き合ってくだ・・
和:ごめんなさい。
〇〇:えぇ!?
隣で井上はケタケタと笑っていた。
〇〇:な、なんで....
和:99回目じゃ....キリ悪いでしょ?
和:100回目は....私から///
弓道場のライトに照らされて、井上は俺と向き合った。
和:〇〇君。
初めて名前を呼ばれた。
和:私と付き合ってください!
俺は差し出された手を、優しく、思い切り握った。
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数日後
〇〇:なんだよ、もー!
和:えへへ//〇〇好きぃ//
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〇〇:しつこいっての!!
美空:ぎ、逆転してる....
厚い皮で覆われていた私の心を射抜き、振り向かせたのは、大嫌いな"アイツ"でした。
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Finish