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紅くらげに告ぐ #3



〇〇:ふぃー....今日も仕事終わりっと。

後輩:お疲れ様です!

〇〇:今日はミス無しだったな。

後輩:先輩のおかげです!

〇〇:今度飯行くか。奢るよ。

後輩:ほんとですか!? ありがとうございます!

〇〇:よしっ!じゃあ美味い飯目指して、来週も頑張るかー。

〜〜

後輩:じゃ、僕はここで。

〇〇:うぃー。お疲れー。

後輩:お疲れ様です!蓮加先輩も!


ウィーン エレベーターの扉が閉まる。エレベーター内には2人だけ。


〇〇:..............

蓮加:........演技やめなよ。良い加減。

〇〇:社会に馴染んでんの。

蓮加:見てて気持ち悪い。

〇〇:...蓮加だけだよ。気付いてんの。...あと気持ち悪いとか言うな。


会社の同期の岩本蓮加。 彼女も高卒で会社に入社して来た。聞く所によると、どうやら政治家の娘らしい。大学なんてコネと金で入れそうだが、何故か高卒で社会人をしている。


会社で唯一、素で話せる人間だ。


〇〇:はぁ....

蓮加:ため息やめて。せっかく仕事終わったんだから。

〇〇:....色々あんの。


ウィーン


〇〇:じゃあな。また来週。

蓮加:んー。



蓮加:......ご飯とか行きたかったんだけどなー...。

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帰り道に、ケーキを買って家路に着く。


〇〇:ただいまー。


誰もいない空虚な空間に挨拶をする。


〇〇:.....帰ったか。


部屋には誰もいなかった。家出をして来た少女は恐らく帰ったんだろう。

乗り気ではなかった様子だったし。

〜〜

〜〜

「お姉ちゃん!あっちで遊ぼ!」

「違うー!私と遊ぶのー!」

和:ちょ、じゅ、順番!順番に遊ぶからねー...

美空:あはは笑 和人気〜笑


手足に年端もいかない少年少女達が絡みつく。右に左に引っ張られる。


ガチャ


〇〇:チビ共ー、帰ったぞー。

和:あ!!

「〇〇帰って来た!」

「〇〇おかえりー!何持ってるの?」

〇〇:んー?ケーキだよ。 ほれ、誕生日おめでとう。

「わぁ〜!! ありがとう!!」

「良いなぁー」

〇〇:お前も誕生日来たら買ってやるよ。


私の手足に絡みついていた少年少女達は、皆んなあの男の元へ行ってしまった。


和:...........

美空:ね?ほんとだったでしょ?

和:.....うん。

〇〇:あ?何がだ? てか...お前まだ帰ってなかったのか。

和:あ、あなたがビルに行けって....

〇〇:本当に行くとは思ってなかった。中々やるなお前。

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数時間前


和:こ、孤児院?

美空:そ!イチノセ孤児院!


私は一度、辺りを見渡した。....この廃ビルに孤児院? 


和:ど、どこにそんなものが....

美空:んー?地下だよ?

和:地下!?

美空:百聞は一見に如かず!行ってみよー。


美空は私の手を取って階段を降りていった。

〜〜

〜〜

「ねぇ、美空姉ちゃん。この子だーれ?」

美空:私のお友達だよー。

「そっかー!じゃ僕も友達」

和:はは笑.......


いや、友達って...さっき会ったばかりなんだけど....色々と頭がついて行かない。

廃ビルの下に続く階段を降りていくと、少しずつ明るくなっていくのがわかった


美空:じゃー、改めまして!ようこそイチノセ孤児院へ!


階段を降りて地下に行くと、そこには別世界が広がっていた。

廃ビルからは想像もできない程綺麗で広い空間が広がっていた。


和:ほ、ほんとに孤児院?....綺麗すぎない?

「ほんとだよ!みんな呼んでくる!」


男の子は奥の部屋に走っていった。


美空:ありゃー、これ大変な事になるなぁ笑

和:え?

美空:新しい子が来た時は、皆んなテンション上がっちゃって笑

和:新しい子?

美空:うん。え?だってここに住むんでしょ?

和:えっ!?

美空:だって家出して来たんでしょ?〇〇から聞いたよ?

和:い、いつ聞いたの!?

美空:....〇〇が会社からLINEくれたよ。井上和って子が来たらよろしく頼むーって。

和:.....あの人....良い人なの?

美空:良い人....? んー....良い人って何かわかんないや笑

美空:まぁでも、この孤児院を立ち上げたのも〇〇だしね。

和:嘘!?

美空:ほんとだよ〜


あの人が子供の為に孤児院を立ち上げるなんてあるだろうか。 あの口調、声のトーン、雰囲気はとても子供に好かれるようなものではないと感じていた。


美空:まぁ、詳しい事は〇〇が帰って来てからかな。今は皆んなと遊んであげて〜。

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とまぁ、こんな具合で遊んでいたのである。


〇〇:なんだ、お前。俺の事疑ってたのか。

和:だ、だって...何も教えてくれないし。

〇〇:そりゃ教えねぇだろ。お前の事信用してないんだから。

美空:ちょっとぉー、そんな言い方ないでしょー?


やっぱり、少し怖い。街で会った時とは大違いな雰囲気に、まだ戸惑いを隠せない。


〇〇:そうだ。お前、名前なんて言うんだ。

「和ちゃんだよ!」


私の足に引っ付いている女の子がそう言った。


美空:知ってるくせに〜。LINEくれたじゃん。

〇〇:いちいち覚えちゃいない。

〇〇:和ね。.....んで?どっから来たっつったっけ。何歳だ?いつまで家出するつもりなんだ?


矢継ぎ早の質問に思わず息を呑む。


ガチャ 「ただいまー」


扉が開くと、細身の男性が入ってくるのが見えた。


〇〇:お、良い所に帰って来た。

和:あ.....あ!!

??:んー? あ、和ちゃん。来たんだね。

和:ジ...ジョー...さん?

ジョー:せーかい!覚えててくれたんだね。


孤児院に入って来たのは、私に"何でも屋"の存在を教えたジョーという男だった。


〇〇:ジョー?別に本名教えてもいいだろ。他言するようだったら殺しゃあ・・

ジョー:あーあー!ダメダメ笑 過激だよ〇〇。

ジョー:ごめんね和ちゃん。俺、"九条 雄星"って言います。これからよろしくね?

和:え...あ...はい...

九条:ここだとチビちゃん達多いし、〇〇も説明下手だから俺が色々説明するよ。こっちの部屋おいで。

〇〇:全面的に頼んだー。


私はそのまま、流されるように着いて行った。


美空:.....珍しいね、高校生の子連れてくるって。

〇〇:....お前も高校生だろ。

美空:....なんか変な事考えてないよね。

〇〇:......考えてねーよ。

〜〜

〜〜

九条:紅茶、コーヒー、ココア、どれがいい?

和:あ...じゃあ...その...ココアで...

九条:やっぱ寒い日はココアだよね〜。今淹れるから待ってて。


そう言って九条はテレビをつけた後、ココアを淹れに行った。

半ば放心状態になりながら、私はテレビを見ていた。


和:......アイドル...


テレビの画面には、音楽番組が映っていた。女性アイドルグループが歌って踊っている。


九条:おー...皆んな可愛いね。はい、どーぞ。


ココアを置いて、九条は私の対面に座った。


九条:そっか。和ちゃんもアイドルになりたいんだったね。

和:え!?な、何で知ってるんですか!?

九条:〇〇から聞いたよ〜。

和:...なんか...言いふらしてないですか?あの人...

九条:たぶん俺にしか言ってないよ笑

九条:それで.....君はこれからどうするの?

和:え?


今の状況を説明してくれるんじゃないの?


九条:こっちとしても説明はしたいんだけど、和ちゃん次第なんだよね。僕等と共にいるのか、実家帰るのか。それが聞けないと説明できないの。


いや...だからその決断をする為に説明が必要なのに...。


九条:.....君は何で家出してきたの?

和:....アイドルになる為に...アイドルになるまで帰らないつもりで...

九条:そんな簡単なものじゃないでしょ?アイドルになるのって。親のサポートとか、1人で出来るようなもんじゃないでしょ?

和:.....サポートなんてしてくれません。両親はアイドルの事、認めてませんから。

九条:...幸せだねぇ、君。

和:え?


今の話のどこに幸せな要素があったんだろう。


九条:君、ここにいた方がいいよ。アイドル云々の前に、世の中の事を知らなすぎる。


そう語る九条の表情は、和かなものではなかった。


九条:アイドルの意義って何かな。

和:...ダンスと歌と表現で...皆んなを笑顔にすること。

九条:...いいね。じゃあ先ずは君が笑顔にならないと。

九条:そもそも、この孤児院と"何でも屋"の目的は...



            全ての子供が笑顔になれる世界に




九条:だよ?笑顔じゃない君の事を帰す訳にはいかないよ。

九条:でも決めるのは君。さぁ、どうする?ここでアイドルになるか、実家に帰るか。....君はここにいれば、きっと...



       アイドルになれる。


和:....ッ....


アイドルになれる。そう言われたのは初めてだった。

信用はまだしていないし、説明もまだ何も....

でも、半ば洗脳のように、私の心はもう決まっていた。

このままでは帰れない。アイドルという夢を叶える為に、私は東京に来たんだ。


和:.....私を...ここに住まわせてください。

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              to be continued

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