紅くらげに告ぐ #2
??:はぁー....めんどくさい仕事終わった...
??:お疲れ様、飯あるけど食う?
??:ちょーだい....あれ?〇〇は?
??:仕事入った。
??:へー.......
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カチャ
何で? というより初めて見た。体が固まって動けない。
和:な...何で...
〇〇:すーっ....はぁ....
タバコの臭いがする。銃を突きつけながら、後ろでタバコを吸っているんだ。
〇〇:....お前...
和:ビクッ....
〇〇:どこで"何でも屋"の話聞いた?
和:あ....ひぅ....いやっ...そのっ...
声が出にくい。再び横目で鏡を見ると、確かに銃が突きつけられているのが再確認できた。
〇〇:なぁ、どこで?
和:そ...その...ジ、ジョーって人から教えてもらいました!
見ず知らずの人なんて信用するんじゃなかった。ここで私は死ぬんだろうか。
まだ、夢も叶えていないのに。
〇〇:チッ.....正規ルートかよ....
パッ 部屋の電気がついた。
和:へ?
うずくまる私の後頭部に、もう違和感はない。恐る恐る後ろを見ると、男はもうそこにはいなかった。
〇〇:飯はー! 食ったのかー!?
和:へ、へ?
隣の部屋から声が聞こえる。少し経って男が部屋から出てきた。
私は腰が抜けて立てない。
〇〇:だから飯は?
和:た、たた食べてないです.....じゅ、銃は...?
〇〇:あぁ? あー....これか?
パンッ
和:ぎゃあぁあ!!
男は銃を上に向けて発砲。思いの外音は小さかった。
〇〇:BB弾だ。バカ。 ほれ。
和:うわっ! とっとっ...
投げられたのはカップラーメン。
〇〇:お前、名前は?
和:あ...い、井上.....和です。
〇〇:一泊は許す。それ食って寝ろ。そして明日の朝出ていけ。
バタンッ
和:へ....へぁ?...
再び私はその場に、力無く座り込んだ。
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和:ん....んん....
和:んぁっ!
急いで飛び起きる。外はもう明るかった。
昨日は確か....逃げようとして、そのまま力無く寝てしまったんだ。
早く此処から出ないと、また何かされたら困る。
ガチャ
和:あっ....
〇〇:ふぁあ....あ? んだお前。まだいたのか。
和:あ、あの...すいません・・
男は私の横を何も言わずに通り過ぎて行った。
シャカシャカシャカシャカ
歯を磨く音だけが、部屋に響く。その間、私はずっとその男の事を見ていた。
和:(...ほんとに、昨日スマホを届けてくれた人と一緒の人なのかな...)
〇〇:おい。
和:はっ、はい!
〇〇:.....どっから家出して来た。
和:いや...その....神奈川県です...
〇〇:理由は?
和:....親と....喧嘩しました...
〇〇:....何で?
和:...その...夢?..を、否定されまして...
〇〇:夢ってなんだ?
あまり、言いたくはない。この夢を言って、笑われなかった事はないから。
和:...言いたく..ないです。
〇〇:じゃ、夢じゃねぇじゃん。 ...あー、口ん中スッキリした。さてと、クソブラック会社にでも行きますかー。
夢じゃない?違う。間違いなく夢だ。その為に家出までしたんだから。
和:...夢です。私は...アイドルになりたいんです。
〇〇:...ぷっ笑 あはははは笑
あぁ、やっぱり笑われてしまうんだな。
〇〇:最近流行ってんのか?アイドルになりたいって笑
和:え?
〇〇:....しゃあねぇな...。隣に高いビルあんだろ。後でそこに行け。
和:え、え?
〇〇:じゃ、俺行くから。ビル行くの嫌だったら帰れ。後は知らん。
和:ど、どこに行くんですか?
〇〇:会社。じゃあな。
バタンッ
和:え、えぇ.....
何が何だか分からず、追いかけようとしたが、やめた。
その代わりに窓際に走り、外を歩く男の姿を見ていた。
〇〇:お!おはようございます!
「ん?あら!〇〇君かい? 今日もお仕事?」
〇〇:そうなんですよ笑 ブラックなんです笑 おばあちゃんも朝から働くねぇ。
「ひ孫産まれるまで死ねないからねぇ、100歳まで生きるよ私は!」
〇〇:あはは笑 おばあちゃんなら生きれるよ笑 じゃ、行って来まーす。
「いってらっしゃい」
あの人、〇〇って名前なんだ。
近所のお婆さんと親しげに話している。昨日と同じ雰囲気で。この家で私と話す雰囲気とは大違いだ。
ブラック?
あぁ、今日土曜日か。
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〇〇:すーっ....はぁ...
別に旨くも何ともないんだけど、中毒だから吸ってるタバコ。
会社の屋上で、街を見下ろしながら蒸す。
ピロンッ LINEが入る。
蓮加L:また朝から屋上でタバコ?部長が呼んでるから早く来て。
〇〇:はぁ....
〇〇L:了解。
まだ殆ど吸っていないタバコを灰皿に押し付け、屋上を出る。
扉を開ける前に、頬を強めに叩いた。
〇〇:しゃー! 行くか!
〇〇:明るく元気に!社会に溶け込む!
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警察には通報されていないだろうか。
まぁ....あの親なら通報しないか。
そんな事を思いながら、恐る恐る外に出た。
和:ビル...ビル.....あ、あった。
和:....これ...廃ビルじゃない?
一階部分は廃れてしまって、草で少し茂っている。
和:ここに行けって....何なのよ一体....
和:すいませーん....誰か...いますかー?
カーンと廃ビルに声が響くだけだった。
和:.....上に誰かいるかな...
和:...あ、階段は意外としっかりしてる...
〜〜
〜〜
カンカンッと、音を立てて鉄製の階段を登る。どの階にも人はいなかった。
和:なんか...全部あの人の言いなりになってない?私。
足に溜まる乳酸の辛さを、あの男にぶつけてみる。
まぁ、家出してるのはこっちなんだから、仕方ないと言えば仕方ないんだけど。
和:あ、もう屋上だ。
いるわけないと分かっていつつ、屋上の扉を開けた。
ガチャ
和:...あれ....綺麗...。
屋上は廃ビルとは思えない程、綺麗に整備されている様に見えた。
ビュュューーー
風が気持ちいい。
大きな何かに包まれると、私が今している事は本当に正しいのかと思えてくる。
学校も休んで、何をしているんだろう。
和:.....帰ろっかな。
この高い廃ビルから景色を眺めていると、神奈川が見えそうだ。
??:アイドル?....もっと現実を見なさい。
不意に頭の中で声がした。
和:....これで帰ったら、また言われちゃうかな...
私が何をしたいか、私でも分からないまま屋上を後にした。
和:ん?
扉に小さく何かが書かれているのに気付く。
何でも屋 創設メンバー
結城〇〇
九条雄星
倉科林檎
鬼木燈
ここに在り!!
とても綺麗とは言えない字で、そう書いてあった。
その横に綺麗な字で、
全ての子供が笑顔になれる世界に
と追記してあった。
指でその字を撫でる。
何故か、心の奥が締め付けられる様な感覚があった。
〜〜
〜〜
下りの階段は、何となく短く感じた。
和:はぁ.....結局何もないじゃん...何でここに来させたのよ...
二階に着いて、一階を見下ろす。
和:え!?
テトテトテト
小さな男の子が、一階を走って外に出て行こうとするのが見えた。
??:あーあー!ダメダメ! 外に出たらダメって言ったでしょ〜?
男の子の後を追うように、私と同い年くらいの女の子が走って行った。
「外出たーい!」
??:今はダーメ。ね?
「....はーい」
??:よしよし。偉い偉い。
「あれ?お姉ちゃん、誰かいる」
男の子が階段の踊り場にいる私を指差した。
??:え? ....あ!
私を見つけると、女の子は私の元へやって来た。
??:あなた、名前は?
和:え?あ...っと....井上...和です...
??:やっぱり! 〇〇から聞いてるよ〜!私はね、一ノ瀬美空! 美空って呼んで?
和:み、美空?
美空:へへー笑 同い年の子が来てくれて嬉しいなぁ〜。
ちょっと、状況についていけない。
和:えっと...その...何でも屋?の男の人にここに行けって言われたんだけど...
美空:....あ、そっか。何も知らないんだ。
美空:じゃ〜、とりあえず!
美空:ようこそ! イチノセ孤児院へ!
和:え? こ、孤児院?
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to be continued