凡豪の鐘 #11
ダイニングテーブルには、美月と〇〇。美月の隣には急な来訪者が座っている。
美月:え、え、えーっと....その..サ、サインとか貰っても.....
七瀬:そんな緊張せんでもええよ? それにしてもあんた.....かわええなぁ...
美月:へっ!?
〇〇:(何だこの状況....)
何故こんな状況になったかと言うと......
〜〜
〇〇:早く離せって!
七瀬:冷たいなぁ。
美月:ちょ、ちょっと待って! に、にに西野七瀬!?
七瀬:お、私のこと知ってるん?
美月:し、知ってますよ! ファンです!!
七瀬:嬉しいなぁ笑 〇〇の彼女ええ子やな。
〇〇:彼女じゃないって!
西野七瀬。日本を代表する女優である。高校卒業後すぐ女優への道へ進み、助演女優賞、主演女優賞などの賞を獲り、そのルックスで若者からも絶大な支持を得ている。
そんな、日本でもトップクラスの影響力を持った人物が、片田舎の町に来ている。
〜〜
〇〇:なな姉、なんでここにいんの?
美月:ちょっと!なな姉って....失礼でしょ!
七瀬:大丈夫やで、美月ちゃん。〇〇と私は付き合ってるんやから。
〇〇:付き合ってない。
美月:ど、どういうこと?
七瀬:私、高校までこの町で育ったの。5年生くらいの時に転校して来てな?そん時〇〇は.....4歳くらいか!可愛かったなぁ....
〇〇:....やめなさい。
七瀬:それで、私が高校卒業した時に上京するってなって、そん時〇〇が、なな姉の事好き!って言ってくれたんや。
〇〇:.....まじやめろ//
七瀬:それで、私が「有名になって帰ってくるから、そん時まで待ってて?」って言ったんや。それで今帰って来て、〇〇と付き合ってるってわけや。
七瀬:やから、美月ちゃんには悪いんやけど、〇〇は私のもん。
美月:い、いや......あぁ....はぁ...
突拍子もない話すぎて、美月にはまだ理解できていなかった。
〇〇:いや....だから結局何しに来たんだ!
七瀬:〇〇に会いに来たのと....あともう一つあってな?
七瀬:今年の夏に、この町で映画の撮影があんねん。私がその映画の主演に選ばれたから、下見みたいな意味で来たの。
〇〇:また映画決まったの!?
七瀬:そうやで! .....ていうか"また"って事は、ちゃんと私の事追ってくれてたんやなぁ....
〇〇:そ、そんなんじゃねぇし!//
〇〇:もう俺風呂入ってくるわ!
七瀬:私も一緒に入ろか?
〇〇:入らん!//
バタンッ
七瀬:ありゃ、行ってもうたなぁ笑
美月:そ、そうですね.....
同じ部屋に2人っきりになってしまった。一番尊敬している人と。
しばらく続いた沈黙を破ったのは七瀬だった。
七瀬:......〇〇は最近どうなん?
美月:え?
七瀬:小説、まだ書いてるん?
ここでようやく、〇〇と七瀬は小さい頃からの知り合いなんだと理解した。
美月:書いてますよ。それはもう尋常じゃなく。授業中も書いてて、部活も私と一緒に演劇部入ってるのにずっと小説書いてて、大雑把で、デリカシーなくて.....まぁ、そんな人です。
七瀬:あっはは笑 変わってへんなぁ....あと、美月ちゃんは良く〇〇を見てるんやなぁ...
美月:べ、別に見てないです!
七瀬:ふふ笑 それよりさ!美月ちゃんは坂乃高校やんな!
美月:そうですけど....
七瀬:おー! 実はな、坂乃高校の演劇部は私が創ったんや!
美月:えぇ!?そうなんですか!?
七瀬:そうや。....美月ちゃんは後輩かぁ....なんか嬉しいなぁ....
七瀬が創った部活を廃部寸前まで追い込んでいる事にとても罪悪感を感じた。
美月:今....3人しかいないですけどね.、、、
七瀬:関係あらへんよ。演技はな、自分だけじゃないねん。
美月:どういうことですか?
七瀬:私もプロの世界入って驚いたんやけどな、一流は周りの風景も作り出してまうねん。
美月:??
七瀬:見といてな?
七瀬は立ち上がって、美月の目の前に立った。
七瀬:たこ焼き美味いなぁ。ここのたこ焼きが一番美味いねん。
美月:うわ......
七瀬の仕草、口調、雰囲気から、たこ焼きを食べている情景はもちろん。大阪の賑やかな周りの風景まで見えたような"気がした"
七瀬:どうだった?
美月:す....凄いです.....なんか...七瀬さん1人だけじゃなかったです....
七瀬:やろ?........それにしても、真面目に見とったなぁ..
七瀬:演劇部に入ってるって事は....もしかして、女優になりたいとか?
美月:え.....い、いや......えーっと..
七瀬:あー!図星やろ。 そっかぁ.....じゃあ特別に良い事教えたる。
美月:ほんとですか!?
七瀬:美月ちゃんの事気に入ったからな。ええか?良い演技をする為にはな・・
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翌日
昨日は風呂に入った後、すぐ部屋に戻って寝た。なな姉を見ると寝れなくなってしまうから。
〇〇:ふぁあ.....ん?
背中側に違和感を感じる。その違和感を確認するべく振り返った。
七瀬:すーっ......んー....あれ〇〇? 起きたん?
〇〇:な、なにしてんだよ!?//
〇〇の背中でぴったりと抱きつく形で七瀬は寝ていた。
七瀬:今日からGWやろ? 終わるまで泊まらせて貰うから。
〇〇:えぇ.....
〜〜
テーブルを3人で囲んで朝食を摂る。
七瀬:美月ちゃん料理美味いなぁ!
美月:ほんとですか!良かったです!
〇〇:.....なんでそんな打ち解けてんの...
七瀬:ええやろ。
〇〇:...いいけどさ....
美月:....〇〇君なんで七瀬さんの事見ないの?
〇〇:ングッ.....ゴホゴホッ!
〇〇は図星を突かれたように咳き込んだ。
七瀬:私のこと見るとドキドキするからやろ?
〇〇:ち、違うっ!
七瀬:じゃあ、こっち見てや。
七瀬は〇〇を覗き込むように見た。
〇〇:近いって//
美月:ぷっ笑 〇〇君が女優さんに詳しいのって七瀬さんが理由なんだね。
七瀬:そうやで。私がこの町を出て行く時に、女優が題材の小説を書いてくれてな。あれは....嬉しかったなぁ...
〇〇:うぅ....やめてくれ//
美月にとってこんな〇〇を見るのは初めてだった。そんな事を思っていると七瀬がこっちを見て目配せをしている。まるで何かを合図するように。
何の合図かは、すぐわかった。
美月:.......〇〇君。口に何か付いてるよ?
〇〇:ん? まじ?
美月:取ってあげる。
美月は指で〇〇の口についたソースを取り、自分の口に運んだ。
美月:ふふ笑 美味しい。
〇〇:ん、サンキュ。
美月:なっ!?
まったく照れていないようだった。
七瀬:あはは笑 まだまだやなぁ、美月ちゃん。
美月:むぅ....
〇〇:何の話?
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GWも中盤。もとより宿題なんて出す気はない。よって〇〇はずっと部屋に篭り小説を書いていた。
飯とトイレと風呂の時だけ部屋の外に出る。たったそれだけしか部屋の外に出る時間は無いのだが、確かに蔓延る違和感を〇〇は感じていた。
コンコンコンッ
〇〇:うーい。
美月:お昼ご飯食べよー。
〇〇:はいはい。
ガチャ 部屋の外に出る。テーブルにつかず待ち構えていたのは美月だった。
美月:ほら、早く行こ?ギュッ
〇〇:んぁ?
俺の手を取ってエスコートしてくる。
............なんか....距離が近くないか?確かこいつ、俺のこと嫌いとか何とか言ってた筈なんだけど...
〇〇:........なんか演技の練習でもしてんの?
美月:っ!.....
途端に美月の顔が赤くなる。
美月:そ、そんなんじゃないよぉ?
〇〇:.....そか。
ダイニングまで行き座る。すでに七瀬は席に着いていた。
七瀬:遅いで!早く食べよ!
〇〇:はいはい。
七瀬:あれ、なんで美月ちゃん顔赤いん?笑
ニヤついた顔で七瀬は美月に問いかける。
美月:な、なんでもありません!
七瀬:ふふ笑 さ、食べよか。
〜〜
七瀬、美月、〇〇:ごちそうさまでした。
食事を終え、部屋に戻ろうと立ち上がった時だった。
七瀬:ちょっと待ってやぁ。また部屋戻るん?
〇〇:まぁ.....
七瀬:えー...寂しいなぁギュッ
〇〇:うぁ!?//
七瀬は〇〇に後ろから抱きつき、頬を指で突いた。
七瀬:〇〇の部屋....行っていい?
〇〇:いや....あの....//
これ以上ない程に頬を赤らめている。
七瀬:いい?
〇〇:す、好きにして!//
〇〇は七瀬を振り解き、部屋は戻って行った。
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バタンッ
美月:はぁ.......
自室に戻りため息をこぼす。
美月:上手くいかないなぁ...
私がこんなにも悩んでいるのには理由があった。
〜〜
七瀬:ええか?良い演技をする為にはな.....
美月:ゴクッ....
大女優からのアドバイス。生唾を飲んで聞き入る。
七瀬:恋をする事や!
美月:へっ!?
七瀬:ん?聞こえんかった? 恋や恋。
美月:こ、恋!?
七瀬:好きな人を作ってその人を演技で落とすんや。
美月:えぇ.....
七瀬:ただし! 自分が好きになったらあかんで。それはもう演技やないからな。
美月:そんなの酷くないですか?
七瀬:じゃあ〇〇にしたらええ。
美月:え?
七瀬:〇〇を落とすのは.....難しいなぁ。....だからこそ、好きにさせてみぃ。
七瀬:期間は....そうやなぁ....夏にまたここに来るから、それまでに好きにさせてみ。
美月:えぇ......私、〇〇君嫌いなんですけど....
七瀬:嫌いな人との共演もあるんや。ぜーんぶ演技でなんとかせなあかん。だから〇〇を好きにさせてみぃ。
美月:えぇ......
〜〜
というわけで、なんとか〇〇を落とそうとしているのだが.....
美月:上手くいかない.....
学校での美月の立ち回りは上手い。人当たりがよく、皆んなから好かれる。
だが、それが演技だと〇〇に分られている以上、通用しなかった。
そもそも〇〇相手には、演技が上手くいかなかった。
美月:もーー!! でも.....女優さんになる為....絶対好きにさせてやる!
美月は部屋の枕に顔を埋め叫んだ。
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岩本宅
蓮加:どう!?
賢治:うーん....面白いが....優秀賞は...無理だろうなぁ..
蓮加:むぅ.....じゃあ、もっかい書く!
賢治:なんだ、今年はやけにやる気があるな。
蓮加:.....〇〇も帰って来たし、負けらんない。それに審査員が空子さん....絶対優秀賞取ってやる!
賢治:頑張れ.....ゴホッ...ゴホゴホッ
蓮加:お爺ちゃん...大丈夫?
賢治:ん?あぁ...大丈夫だ。
〜〜
五百城宅
茉央:.....お願いします!受けさせてください!
茉央父:んー.....いやぁ....そんなの受かる訳ないだろう?
茉央母:そうよ。もっと将来の事をちゃんと考えて・・
茉央:チャンスがいつあるか分からん!このチャンスを逃したくないんや!
茉央父:いやー.....でも..."アイドルのオーディション"かぁ....
〜〜
体育館
美波:よしっ!
女バス1:美波ナイッシュー!
男バス1:はっ笑 下手クセェ。
女バス2:何しに来たのよ!男子!
男バス1:俺ら大会近いんだよ。もうさ....体育館明け渡せって。
美波:私達も大会近いの!
男バス2:お前ら弱いんだからさー....そこらへんの公園でやってろよ笑
女バス1:なんですって!?
律:ま、まぁまぁ......
女バス1:......勝負よ。
男バス1:あ?
女バス1:男バスと女バスで試合して勝った方が体育館使える! これでどう!?
男バス2:ぷっ笑 あはははは笑 望むところだよ笑 あー、バカでよかったわ笑
律:んあー.....もう....なんでこうなるかなぁ....
〜〜
様々なものが交錯し、入り乱れ、一つの線となって進んでいく。
それが気温のせいなのか、気温に充てられた独特の雰囲気のせいなのか。
そんな、一年の中でも最も青春を帯びた"夏"という季節を迎えようとしていた。
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To be continued