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紅くらげに告ぐ #39



パァン! 銃声が響く。私は目を閉じた。

ギュッと、強く。

私の父は、殺されたんだろうか。



なんで?......なんで〇〇がお父さんを殺すの?なんで〇〇が私の父親の事を"父さん"と呼んだんだろう。

何が....起きているんだろう。


〇〇:がっ....はぁ..

和:え?


〇〇の声がして、目を開ける。〇〇は胸部と口から、血を吹き出していた。


「「突入!」」


怒号の様な声が室内に木霊する。

拍子、廃ビルの一階に黒づくめの重装備の人間達が押し寄せた。


和:なっなに!?

総理:撃ち続けろ。死にはしない。


パァン! パァン!


〇〇:がっ....ぐっ....はっ..


〇〇に銃弾が乱射されていく。何が起きているかわからなかった。

黒づくめの集団の真ん中に、囲まれる様に佇んでいるのは、何度もテレビで見た事がある人物。

現内閣総理大臣だった。


総理:....よし。発砲、やめ。


その言葉と同時に、発砲は止んだ。〇〇の体は、銃弾の跡から血が滴り落ち、もはやどこを撃たれたかすらわからない状況だった。


総理:捕えろ。抵抗するようなら骨を折れ。どうせ治る。

〇〇:..........

和:〇...〇...?

〜〜

〇〇:がっ...はっ...

何が起きている。何故俺が撃たれてるんだ?


体に突き刺さる銃弾の感覚に意識が薄れそうになる。

薄れゆく意識の中で、目をこじらせて見ると、そこには黒づくめの集団。そして・・

総理大臣の姿が見えた。


国会議事堂に忍び込んだあの日の事を、思い出す。


〇〇:がっ...


まただ。頭の中で、声がする。俺ではない俺の声。

あぁ....このまま..痛みで声を消してくれ。

じゃないと俺は何者かに意識を奪われてしまう。


まだ....父親を殺していないのに...


そう強く思った瞬間、俺の意識は途絶えた。

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九条:....遅いな。


〇〇が帰ってくると言った時間から、少し過ぎている。

......もう...父親の事は殺したんだろうか。



あいにく、外の音は聞こえない。こちらの子供の声が外に聞こえてしまったら、場所を特定されかねない為、防音設備はかなり積んでいるのだ。


それにしても...遅い。


胸騒ぎがした。

監視室へ行き、外の様子を見る。


九条:はっ?....


モニターは黒く染められている。ハックしている監視カメラの映像が切られているんだ。

俺がやったんじゃない。確実に外部の仕業だ。


九条:....美空..ちょっと上行ってくる。

美空:え?...でも今〇〇が...

九条:杞憂なら良い...でも何かあったかも知れないっ!


俺は扉を開け、階段を駆け上った。


上った後の光景を、俺は...忘れる事はないだろう。

〜〜

〜〜

和:..........

秀一:...尾行されてたのか.....いや...もうわかっていたのか...全て....クソッ...


父が地面にへたり込みながら、ブツブツと何かを言っている。

私の横には、大きな血溜まりと、少し乾いた血のついた足跡。


私は立ち尽くしていた。......放心状態なんて言葉では片付けられない...体が動かない状態。


カッカッカッカッ 階段から誰かが上ってくる音が聞こえて、やっと目の焦点を合わせる事ができた。


九条:っはぁ! 〇〇!監視カメラの映像が切られ.........なんだよ....これ...

和:あぁ...グスッ ...あぁぁ..


九条の姿を見た瞬間、波が止まらなかった。

私は何も出来なかったことに対しての、無念の涙なのか。

いずれにせよ、止まらなかった。


九条:和....〇〇は!? 何があった!?

和:うぅ...〇〇が...〇〇がぁぁグスッ

秀一:.....君は..〇〇の友達なのか?

九条:あ?.......お前...なんでお前は...無事なんだよ..


九条が私の父を見て、目を血走らせている。

もう......一体....何が起きてるんだ...


和:.....え?

九条:おい....なんだよ...


父は、へたり込んだまま姿勢を正し、九条に向けて土下座をしている。


秀一:.....すまない.....〇〇はもう...戻らないだろう。

九条:は?


あぁ...もう訳わかんないよ。

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総理:おい、早く車出せ。帰るぞ。

「は?....いやいや..突入は?」

総理:いらない。目的は果たした。

梅澤:い、いやいやいや...包囲して...突入の合図を待ってたんですよ!?


"何でも屋" 全員の居場所と動向を掴み、今日は逮捕という日だった。

正直、覚悟が必要だった。......何でも屋の主犯が、〇〇君だったから。

変な出会い方だったけど、信用を置いていた人。

仕方のないことだと自分に言い聞かせて...今日に臨んだというのに...

おかしいとは思っていた。異例中の異例、総理が作戦に参加するということだったから。

しかも先に潜入するという作戦。


「で、ですが逮捕は!?」

総理:いらないだろ。....何でも屋だったか?..経歴を見ると、警察より遥かに治安維持に貢献してるぞ。

「っ........」

梅澤:.....〇〇君?


総理の後ろに、〇〇君の姿が見えた。目が虚で、どこか〇〇君らしさを感じられない。

そんな様子だった。


「そいつは....主犯の結城〇〇!?」

総理:こいつが目的だからな。ほら、早く車に乗れ。


〇〇君は、何の抵抗もせずに用意された車に乗った。

パトカーではない。総理が用意した車だ。


「ど、どこへ...」

総理:官邸だよ官邸。...ほら、もう任務は終わったんだ。お前らの任務は私に何かあった時の護衛。はなっから何でも屋の逮捕じゃない。早く散れ。

「........チッ..」


総理と黒づくめの集団は、〇〇君を車に乗せて足早に去っていった。


「んだよ....クソッ。もう帰る。ほら!梅澤!帰るぞ!」

梅澤:............

「おい!」

梅澤:......行きませんか。

「あ?」

梅澤:....突入しませんか。何でも屋の本拠地に。

「お前...何言って..」


既に、総理の指示によって周りを包囲していた警官は居なくなっており、現場には私と上司しか残っていなかった。


梅澤:....何か..おかしい気がするんです。....そもそも〇〇君が非道な事をするなんて考えられなかった。

「.....二人だけでか?」

梅澤:....戦闘要員は〇〇君と鬼木だけだと、調べがついている筈です。...鬼木だけなら、二人だけでも..大丈夫な筈....

「.......はぁ...死んだら自己責任だぞ」

梅澤:...いいんですか。

「あぁ。止めたって行きそうな顔してるからな」

梅澤:...ありがとうございます。

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和:..........


椅子に、父が座らされ項垂れて、九条達に謝り続けている。


九条から計画の一切を聞いた。

信じられなかった。〇〇が.....いや..何でも屋の皆んなが...私を嵌めていたんだ。

じゃあ何?.....あの日々は全て....嘘だったの?


ねぇ...誰か教えてよ...


九条:謝ってるだけじゃ何もわからないッ...知ってる事を全て話せ!

秀一:....謝る事しかできない。....それに..君達が〇〇の事を嫌いになってしまうのなら..知らない方が良い事なんだ。


父は一体何を言っているんだろう。


ガチャ


蓮加:遊びに来たよー....って...どういう状況?


扉を開けて入って来たのは、蓮加だった。片手には拳銃を持っている。


九条:....それは?

蓮加:ん?...あぁ...一階に落ちてたよ。はい。


蓮加は持っていた銃を、九条に手渡す。それは..〇〇が持っていた銃だ。


九条:.............はっ...そうか...グスッ...そうだったんだな...〇〇.....良がった...


九条は、その場で泣き崩れた。銃を持った瞬間だった。

その後の九条の顔を、良く覚えてる。

九条は私の方を向いて、深く礼をした。


九条:......まずは..本当にすまない。今までずっと騙し続けていた。...本当にすまない。

和:......全部....全部...嘘だったの?

九条:.....あいつは...〇〇は..迷ってたんだ。....確かに最初は...父親を殺す事だけに執着してた。

九条:だけど...〇〇は踏みとどまったんだ。....その証拠に...


九条は拳銃を分解して見せた。....弾は一つも入っていない。

あぁ.....殺す気なんかなかったんだ...最初の威嚇射撃をお父さんに当てなかった時点で...殺す気なんてなかったんだ....

〇〇は...私と同じ様に...人に期待して..何か変わっていると信じて...


和:...うぅ..グスッ...

九条:あいつはずっと...迷ってたんだと思う。...そして関わっていくうちに...多分..和の事が...好きに..なっていったんだと....俺は思う。

九条:だから...だからこそ.....今は状況を整理しないといけない。...〇〇を助ける為に。〇〇に何があったかを知る為に。


そこにいたのは、いつもの冷静で落ち着いた、九条雄星だった。


九条:秀一さん。


再び、九条は父に向き合った。


九条:お願いします。〇〇を助けたい。....何が起きているか、何があったのか...知っている事があったら..教えてくれませんか。

九条:....俺達...付き合いは長いけど...〇〇の過去の事..何も知らないんです。

九条:......お願い..します..。

秀一:.........


父は、私の方を一瞬見て、九条に目を移した。

一瞬だけ私のことを見たその目は....悲哀に満ちた、絶望の目だった。


秀一:.......〇〇の事を知る人を...ここに呼んでくれるか?

九条:え?

秀一:......〇〇の事を知る人全てに...知る権利がある。....でも..約束してくれ。...絶対に..〇〇から離れないでやってくれ。

九条:.....わかりました。



その後、お父さんの口から聞いた話は、簡単に信じられる話ではなかった。



.....〇〇が



人間じゃないなんて、信じられるものでは無かったんだ。

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              to be continued


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