特許の仕事をPRで拡張するチャレンジをしてみようと思ふ
去年、特許の仕事にひさびさに復帰した。1年弱が経ち、感覚がちょっとずつ戻ってきている感じはあるが、あの頃と同じレベルで満足したくはないし、僕に仕事を依頼してくる人が満足するはずもない。
ということで、今後の自分の仕事についてこの1カ月くらい思考を巡らせていた。で、たどり着いたのが「PRスキルによる特許の仕事の拡張」である。まだ考えを整理している最中ではあるが、取り急ぎ言語化してみようと思う。(最終更新:2019/5/2)
※ちなみにこういうことを言いたいわけではないので先に書いておく。
→ 特許出願の価値を高める、スタートアップのためのプレスリリース活用術(CNET Japan:スタートアップのための特許講座)
いまの特許事務所に所属するにあたって、自分に誓った3つのこと
いま、自分はIPTech特許業務法人というITスタートアップ企業を主なクライアントとする特許事務所の仕事をメインにしている。
現経営陣の3名と以前から親しくしていたとはいえ、
中長期的なビジョンとしては、スタートアップとIT系という軸で、最強の事務所になること。
そのうち、スタートアップ×知財で最強の事務所というのは、具体的に見えてきている目標だと感じています。
を掲げる事務所に加わる以上、それなりの覚悟をする必要があった。
※ちなみに、代表の安高さんは2019年度の弁理士会(関東会)ベンチャー支援部会長に就任している。ビジョンに向けて着々と進んでいる。
で、自分の中で誓ったことが下記3つ。
1. スタートアップのエコシステムについて1番詳しい人間であること
2. アジアのIT事情について1番詳しい人間であること
3. 対外アプローチ(企画・広報など)に1番強い人間であること
以下、1つずつ説明していく。
「特許の仕事」と「特許の周辺の仕事」で両足の軸を定める
「1. スタートアップのエコシステムについて1番詳しい人間であること」については、いま(&これから数年)のメインの顧客となる国内ITスタートアップ企業について理解を深め、事務所に還元することだ。
スタートアップ業界にどんな形でお金が流れているのか、どの業界に何社くらいプレイヤーがいるかなど、(個別のクライアントについては担当メンバーの方がもちろん詳しいが)マクロな観点でスタートアップ企業について一番詳しいメンバーでありたいと思っている。
「2. アジアのIT事情について1番詳しい人間であること」は1の裏側みたいなもので、メインの顧客である国内ITスタートアップが今後直面する脅威について理解を深め、事務所に還元することである。
テック企業の世界では「自社のビジネスを(自分で)破壊せよ」と以前から言われており、例えばfacebookが人気メッセンジャーアプリ「WhatsApp」を買収することで自社ビジネスを破壊しうるサービスを手中に収めている。
facebookの新製品発表カンファレンス「f8」について。Facebookの状況より先に、メッセンジャーアプリ「FB Messanger」「WhatsApp」を先に取り上げる=そちらを目玉と考えている、という見方ができる
あと、単純に新しいテクノロジーに詳しいことが求められる仕事なだけに、いまイケイケの中国を中心としたIT事情にキャッチアップしておくことは重要だと思っている。
ここまでが誓い1と2の話。で、3に行く前に少し前提となる知識を書く。
「異なる分野の掛け算が大きな付加価値を生み出す」という発想について
私の場合には「営業とプレゼン」×「リクルート流のマネジメント」×「公立校の校長」の三角形になった。(中略)それで100分の1×100分の1×100分の1が完成して、掛け算で100万分の1のレアな存在になった、という話です。(中略)3つの分野を掛け算して、100万分の1のユニークな場所を取ればいい。上に立つんじゃないんです。「ここは私」という場所を取ればいいんです。
引用:100万分の1のレアな人材になるには? 藤原和博氏が教える、自分の付加価値を上げる三角形
自分はキャリアについて考えるときに、上記記事に書かれている「3分野の掛け算で100万人に1人のレアキャラになる」というポジショニング戦略が一番しっくり来ている。
左足と右足の軸ができてますので、底辺部、ベースラインができているということになります。これをし終わった後の3つ目なんですが、ドンと大きく踏み出したために、この三角形の大きさが非常に大きくなった。ここがミソなんです。
引用:100万分の1のレアな人材になるには? 藤原和博氏が教える、自分の付加価値を上げる三角形
冒頭にあげた誓いがちょうど3つだったので、
1. スタートアップのエコシステムについて1番詳しい人間であること
2. アジアのIT企業について1番詳しい人間であること
3. 対外アプローチ(企画・広報など)に1番強い人間であること
これが自分の三角形(1が左足、2が右足、3がジャンプした先)かと言うとそうではない。自分の中では
左足:特許(や知財)の諸々スキル
右足:誓いの1と2(スタートアップ業界・アジアIT事情の知識やネットワーク)
ジャンプ:誓いの3(対外アプローチ)
である。
参考までに自分が昨年書いたnoteだと、
下記のような内容が左足となる「特許や知財の諸々スキル」で、(ここも人によっては特許の周辺領域だと思う人もいるだろう。その辺は個人差があると思うし、あってよいと思う)
こんな感じのものは右足となる「特許の周辺領域(誓い2のアジアIT事情に詳しくあれ)」である。
これが左足と右足。ベースラインをしっかり作って、大きくジャンプするため、この1年はこの両足を鍛えることに集中していた。
大きく踏み出すための「3つ目の強み」を何にするか
で、ようやくジャンプ先となる「誓いの3(企画・広報などの対外アプローチ)」へ。
しばらくは、スコープを絞って商標や意匠や訴訟など一部の分野に特化するとか(知財系の大学院を調べたりした)
逆に少しスコープを広げてリーガルデザインに関わるとか
とかも考えたが、
通常、左足と右足の軸が固まっていた時に、普通の人は何をやるかというと、その軸(底辺の線)の近くに踏み出しちゃいますよね。例えば関連会社だったり、同じ業界だったり、この2つの軸(武器)が明らかに使えるところに転職するんです。あるいは独立しても、その会社がやってたことを受託するような業務についたりするんですけど。
そうすると、三角形の面積があまり広がらないということが起こります。
引用:100万分の1のレアな人材になるには? 藤原和博氏が教える、自分の付加価値を上げる三角形
三角形理論の話を踏まえて、もっと大きめのジャンプをしてみようかなと。とは言え、下記に書いてあることは意識しつつ。
そして、30代になったら「人からのニーズが高くて」かつ「人がいうほど努力がつらくない分野」の掛け算で、専門性を決める、というのがいいと思います。
で、何にしようかなと思ったのが記事タイトルに書いた「PR」関連の話なのです。(ようやく回収...)
ここについて、もう少し深掘りしていく。
仕事の拡張について、自分がいま興味あること
3つめのジャンプ先として、自分がいま興味があるのは「あるテクノロジーが社会に普及する速度を、コミュニケーションを通じて加速させる」こと。自分の中で便宜的に「テクノロジーコミュニケーション」と呼んでいる。
そういう行為をまとめた概念があるかもまだちゃんと調べてないし、「テクノロジーコミュニケーション」という言葉を使うのが正しいかもよく分からないが、しばらくはこの言葉を軸に自分の中で考えをまとめていきたい。
前から興味がある領域ではあったが、1つの概念として強く意識するようになったのは、下記記事で紹介されていた「JFKアンサイレンスド」を発端とした事例。
1963年、テキサス州ダラスで銃弾を受け亡くなったケネディ元大統領。彼の生前の800以上の肉声データを人工知能によって解析し、暗殺された当日にする予定だった演説を音声で再現したのがこの「JFKアンサイレンスド」です。
55年間読まれることのなかった原稿を、データテクノロジーによって肉声で蘇らせたクリエイティビティが高く評価され、クリエイティブデータ部門グランプリに輝きましたが、本稿で特に注目したいのは、この取り組みの成功によって、この人工知能による音声解析テクノロジーが早くも世界中でALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の声を取り戻すために活用され始めているという点です。
「悲劇の死を遂げたケネディ元大統領の声とスピーチ原稿を元に、暗殺当日に行われる予定だった演説を再現する」という大きなストーリーに載せられた音声解析テクノロジーは、その後に世界中で活用される機会を増やしていった。
新しいテクノロジーが社会に普及しない原因は様々である。何に使えるか分からない、コストが合わない、使い勝手が悪い、そもそも知られていない、周辺環境が整っていない(生配信アプリが無線ネットワークの高速化で花開いたり)、何となくの不安を持たれている(原子力とか遺伝子組み換えとか)、などなど、本当に様々である。
その問題に対して「基礎技術の開発頑張れ!サービスをブラッシュアップしろ!」というのは簡単だが、自分としてはエンジニアリングだけの問題ではなく、結構社会に対するコミュニケーションの問題も結構多いような気がしているのである。
自分が「テクノロジーコミュニケーション」の領域だと思うこと
テクノロジーの普及を阻害する要因がたくさんあるように、それを解決しうるコミュニケーションも様々だと思う。
あるテクノロジーの普及を阻害している要因を整理して必要なロビーイングなどしたり
(下記記事の状況であれば、古い携帯端末のリプレイスを後押しするようなコミュニケーションが必要。通信速度に依存する動画サービスなどの会社はそこに意識が行っているのかとか)、
5G への移行に水を差す、通信料金の「官製値下げ」
官製値下げの議論では「携帯電話を長く使うひとが、携帯電話を短期間で機種変更するひとのコストを負担している」という論調が目立ち、結果として機種購入に伴う値引き (月々サポート) や端末購入の補助 (端末購入サポート) が撤廃されることとなりました。これにより「古い携帯電話を使い続けた方が得」という状況が生まれ、機種変更のサイクルが大きく鈍ることが予想されます。(中略)
古い機種を使い続ける人を優遇することは、結果として効率の悪い電波の使い方をしている人を優遇するということになってしまうのです。
起業家やクリエイターが語る熱い(エモい)1つの文章だったり(東京クロノス買いました)
平成最後の日に、このnoteをお読みのすべての方々、もといVRゴーグル(ヘッドセット)をまだ持っていないすべての方々にお伝えしたいことがあります。このnoteの結論でもあります。
「もうVRゴーグル買って大丈夫ですよ」
真剣にこう言いたいです。
こんな感じのサービス設計やコミュニケーション設計の境目みたいな話だったり、
知財業界では10年くらい前にホットになった気がする「テクノロジーブランディング」が役に立つかもしれなかったり
まあ、いろいろである。最近の日本でいうとコード決済を広めるために「還元キャンペーン」やったり「メルペイがiD連携」したり、もある。こういうのももちろんその領域だと思う。
こういう1つ1つの施策を整理して(あわよくば大学院などで研究対象にして)、「テクノロジーの普及に、コミュニケーションの側面から支援できること」を理論化し、実践できればと思うようになった。
2019/5/4追記:こんな記事を発見した。日本が他国と比べてどうかというのは個人的には気にしてないが、こういう問題意識自体が重要度増してる気がする
・米国の調査会社エデルマンは、『テクノロジーへの信頼度』で日本が主要国で最下位となる調査結果を公開しました。
・テクノロジーの種類ごとの信頼度では、最も信頼されているのがヘルステックで74%、次いでIoTが66%、AIが62%と続きました。一方ブロックチェーンは55%、自動運転は54%。
・半数近い人が「テクノロジーの急速な進歩から取り残されている」と感じている。
・テック企業はテクノロジー教育により大きな役割を果たすべきと回答した割合。日本は最下位
特許の仕事とPRの関係について
特許というものはざっくり言うと「ある事業領域において、他社の参入を排除することができる権利」である。そこから派生して(排除しない代わりにお金をもらう)ライセンス収入などが出てきたりはするが、ベースとなるのは「他社を市場から排除する」ことに変わりはない。
この観点でいうと、特許事務所や弁理士は
・その特許で本当に他社を排除できるの?
・他社を排除できるとして、本当にその特許取れるの?
という2つの問いを常に問われている。
(一般的には他社排除力の強い特許ほど取得するのが難しい。なので、両者を満たすスキルを獲得するには日々の訓練が必要で、もちろん尊いものである)
その一方で、最近自分はいつもこの問いが頭に浮かんでくる。
ある事業領域で他社を排除できる特許が取れたとして、その事業は本当に市場として立ち上がるんだろうか?(市場として立ち上がらなければ、他社を排除する・しないは意味がない)
特許事務所としては、市場が立ち上がると想定して特許取得の手伝いをする。そして、市場が立ち上がるかどうかに関わらず謝礼をいただく。
そう考えると、スタートアップにとっての特許権=「株価が上がった時に行使できるプットオプション(一定価格で株を売る権利)」みたいなものかもしれない。
自分はもうちょっと踏み込みたいと思った。売り切りのパッケージではなく、SaaSビジネスになってからカスタマーサクセスが重要になったようなものだ。
そう考えたときに、自分は市場を立ち上げることも含めてサポートできないかと考えた。
という思考順序を経て「コミュニケーションを通じたテクノロジーの普及」をジャンプ先として考えた。
ちなみに、以前「SONYの新旧知財部長の対談」の編集に関わったことがあるが、CDというプラットフォーム(紙と並んで、インターネットが十分に発達する前のコンテンツ流通の礎に近い)市場の立ち上げについて、SONYの知財部が大きな働きをしたエピソードを聞いた。
中村:ビジネス戦略に知財活動を積極的に組み込んでいく体制を作るべきと考えています。
御供:ビジネスを考えて知財を活用する発想は中村さんの頃からありましたよね。CDのときの話ですが、アダムソンというカナダ人が特許を持っていた。でも、小さい会社なので彼だけでは何もできなかった。そこで中村さんが、彼のために特許ライセンスの仕組みを作ってあげたんです。
アダムソンは収入を得ることができて儲かる。一方で、CDを作るときのコストが明確になるのでより多くのメーカーが市場参入して全体の市場が大きくなるというソニーにとってのメリットもありました。
このエピソードは主にリーガルデザイン&ビジネスデザインによるものだが、こういう大きな枠組みでの貢献に、自分も興味があるんだと思う。
最後に:個人と組織の成長依存スパイラル
何度も引用して恐縮だが、再度引用。
通常、左足と右足の軸が固まっていた時に、普通の人は何をやるかというと、その軸(底辺の線)の近くに踏み出しちゃいますよね。例えば関連会社だったり、同じ業界だったり、この2つの軸(武器)が明らかに使えるところに転職するんです。あるいは独立しても、その会社がやってたことを受託するような業務についたりするんですけど。
そうすると、三角形の面積があまり広がらないということが起こります。
引用:100万分の1のレアな人材になるには? 藤原和博氏が教える、自分の付加価値を上げる三角形
さっき書いた三角形を大きくしたいと考えたときに、
左足:特許(や知財)の諸々スキル
右足:誓い1,2(スタートアップ業界・アジアIT事情の知識やネットワーク)
ジャンプ:誓いの3(対外アプローチ)
自分が思いっきりジャンプしに行けるのは、「事務所の他メンバーが左足(特許の諸々スキル)を思いっきり深く遠くへ踏み込んでくれる」と信じているからである。
最近は複業やパラレルキャリアといった文脈も含めて、一点突破じゃなく三角形キャリアがなじみやすい状況にあると思うが、そうであるからこそ逆に「(時間軸をずらしながらであっても)三点を深く踏み込む」のはそれはそれで厳しいよねと思っている。
時間をずらしながら1つずつ軸足を作っていくというのは、「Aに強みがある組織で働きながら、自分もAの強みを付けていく」→「違う強みBを持つ組織に移動して、自分もBの強みを付けていく」を繰り返す方法だと思う。
それに対してこれからは、「Aに強みがある組織で働きながら、自分は(Aとは違う)Xという強みを(複業を通じて)付けていく」を繰り返すことが重要じゃないかと思っている。こうすることで個人としても三角形作りやすいし、組織としても三角形(あるいは多角形)が作れるようになっていくはずだ。
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ということで、令和が始まったからじゃないですが、今年は「特許関係の仕事をメインにしつつ、仕事拡張のためにPR系の勉強したりコミュニティに参加したりしていきます!」という話でした。
(twitter:@tech_nomad)
参考:ということで、ライター仕事を募集してます。