種を守るために使われた砒素
17世紀に中国で書かれた、産業技術書の古典である『天工開物』
自然の力(天工)から人々がものを作り出す(開物)過程が解説されている。
その中の、農業に関わる一説を抜粋する。
古代中国では、緑色に濁った水の井戸は、まず水を汲み上げて掘り下げると“砒石”が産出されることが知られていた。“砒石”は釜の中で焼き精錬すると粉末状の“砒霜”ができる。
“砒石”を焼くときには、立っている人は必ず風上へ30m以上離れる。風下の近いところでは草木はみな枯れる。“砒石”を焼く人は2年たつと転業する。そうしないとヒゲや髪が落ちてしまい、死んでしまう。
これほど危険な砒石の精錬だが、砒霜は飛ぶように売れた。山西の地では、豆や麦をまく時に種子にまぜたり、田の害虫を駆除するのに用いていた。
砒素をまくなんて、現代では考えられないが緑色に濁った井戸を掘ってみようと考えた、人間の好奇心と行動力の積み重ねが現代社会を作っている。