【材料】18世紀、鉱物学の進歩
18世紀の社会思想の中心となったのはフランス唯物論です。霊魂とか奇跡といったものを認めず、現象を物質のしくみから説明しようという考え方は、鉱物学にも影響を与えました。フランスの鉱物学者アユイ(1743~1822)は、結晶を小さく分割していけば、その最小単位に行き着くはずであると考えました。彼は多くの鉱物には、それぞれ特有の割れ方を示す劈開性(へきかいせい)があることに着目し、結晶とは微小な劈開片がすきまなく積み重なったものとみなしたのです。
これは観念的な元素の組み合わせから鉱物の性質が現れるとする錬金術からは、決して生まれることのなかった革新的な考え方でした。レンガを積み上げて巨大建物をつくるように、結晶は微小な劈開片の集積からつくられているというのは、きわめて単純明快かつ説得力のある考え方だったのです。
しかし、アユイの仮説はほどなく矛盾が生じて、行き詰まりをみせます。方解石のような結晶なら、微小なミニ方解石の集積とみなすことで説明できます。しかし、その一方で蛍石(ほたるいし)のように、結晶形は立方体なのにその劈開片は八面体という鉱物もあります。8面体の微小レンガをどんなに複雑に組み合わせても、立方体は作れないのです。
しかし、アユイの仮説は単なる思いつきとして科学史の中に埋もれていったのではなく、のちに見直されることになります。19世紀になると、鉱物の結晶は劈開片ではなく、原子やイオンによる結晶格子であることがしだいに分かってきたからです。
『参考資料』
https://optron.canon/ja/domain/fluorite/index.html