コント 日常茶飯事

昼間、ごみ捨てに出た男二人が偶然出会う。
井戸端会議。ご近所さんである。

井上  あ、こんにちは。
坂上  こんにちは。どうもどうも。
井上  最近はこの辺りもめっきり静かになりましたね。
坂上  本当に。若い人間はどんどん都会に出てしまってねぇ‥
井上  坂上さんの所ももう始まりました?
坂上  うちはむしろもう終わりましたよ。
井上  ああ、お疲れさまでした。
坂上  いえいえ、ウチは大分昔からだったんで。もう慣れてしまってむしろ今、寂しいくらいですよ。
井上  そうだったんですかぁ。えっ?じゃぁ、たまに見かけたワンちゃんが?
坂上  はははは、実はそうだったんです。ここ五、六年でしたかねぇ。
井上  そうでしたか…ああ、気づきもしませんで。
坂上  変化してみるとやはり、犬猫の方が楽なのかもしれません。
井上  そんなもんですか・・・うちは昨日から・・・
坂上  あ、そうだったんですか。それはそれは・・・
井上  国が決めた事とはいえ、なんかねぇ・・・複雑な気持ちですよ。
坂上  ・・・と言う事は・・・もう、意識は・・・
井上  昨年までは元気に普通に暮らしていたんですが、昨年の夏頃から急に痴呆が進んでしまいましてね。
坂上  ああ、おばあ様?おじい様?
井上  まさかのじいさんでした。ばあさんの方が、入退院良く繰り返していたんですがねぇ。
坂上  ああ~それはそれは。おばあ様、反対されたんじゃないですか?
井上  まぁ、本心は反対の気持ちもあったと思いますがね・・・自分の体力の事や、介護する家族の事を考えるとねぇ
坂上  わがままは言えませんよね…。で、昨日?
井上  はい。市役所から薬貰ってきて、昨晩飲ませました。
坂上  早かったでしょう?
井上  ええ、朝起きて見てみたら、じいさんの布団の上に老犬が寝てました。
坂上  中型犬ですか?
井上  うちは、男手が私しかいないもので、小型犬に・・・。
坂上  高かったでしょう?
井上  まぁ、小さくなるにつれて、値段ってあんなに変わるんですね。
坂上  無料で支給される薬なんかは大型犬で、介護の量はほとんど変わらないらしいですからね。
井上  それじゃぁ、自分の親をペット化する意味なんてないですよね。
坂上  本当。いやいやいやいや、何はともあれ、これからは少ない時間とは思いますが、愛情一杯注いであげてください。
井上  早く気持ちが成れる様に努めますよ。
坂上  なれてしまえば、かわいいもんですよ。
井上  ははははは…そうですね。
坂上  あ、ウチは中型犬だったんですが、フード余ってますけどもしよかったら。
井上  ああ・・・お気持ちだけで。出来る限りの事はやってあげたいんで。
坂上 現代人は避けて通れない問題ですからねぇ。
井上  人口の七割の後期高齢化。新薬の発明特許により経済を支え、その薬によって、まさか自らの親を犬猫に変える時代が来るなんてね。
坂上  やるせない。・・・けど、介護施設やそこで働く人間、両方足りないとなると・・・これが一番いいのかもしれませんね。葬儀も変な感じでしたよ。
井上  ああ・・・まぁ・・いずれ自分もそうなるんですもんねぇ・・
坂上  いやホント。人間の内にコロッと逝きたいもんだね。
井上  ははははは・・・
坂上  ああ、ごめんね。昨日の今日なのに、ちょっとデリカシーなさ過ぎたね・・
井上  いえいえ、また、ちょくちょく相談させてください。
坂上  ああ、リードだけはしっかりつけときなよ。犬化しても痴呆は治ったわけじゃないからさ。『はぐれ』になったらそれこそ悲惨だから。
井上  ・・・そうですね。自分の親の毒殺とか・・・やだなぁ…
坂上  此処だけの話だけど・・・国と保健所も手を組んでる・・・って言い方おかしいけどさ。裏の政策の一つみたいなふしあるからさ。
井上  怖い話ですね。
坂上 ホント変な時代だよ。あ、じゃぁ、俺この後葬儀だから。
井上  ああ、それでは。


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