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中山美穂さん追悼 冬の小樽へ

 1週間前の12月6日、中山美穂さんが急逝されました。享年54歳。突然の訃報に、しばらく言葉を失いました。

 彼女の熱心なファンとは言い難かった私ですが、代表作とされる映画「Love Letter」には思い入れがありました。二十数年ぶりに作品を観返した後、どうしても中山さんの足跡をたどりたくなり、凍てつく冬の小樽へ向かいました。 

ここからはネタバレ的な要素も含みますので、映画を観ていない方はご注意願います。

あらすじ
 山で遭難死した恋人・藤井樹の3回忌の日。渡辺博子(中山美穂)は、藤井の実家で見せられた中学の卒業アルバムに、藤井が小樽に住んでいた頃の住所を見つけ、いるはずのない相手に手紙を出す。「お元気ですか。私は元気です」。数日後、博子は「藤井樹」から返事を受け取ることになる。

手紙の住所>
 卒業アルバムに書かれていた樹の住所は「小樽市銭函二丁目24」。これは恋人と同姓同名で、中山さんが1人2役を演じる藤井樹の家の住所でした。

映画シーン

 その住所をグーグルマップに打ち込むと「銭函公園」にたどり着きました。架空の地名にしない代わりに公共施設の住所を用いたと思われます。

現在

<藤井樹(女)の家>
 実際のロケに使われた藤井樹の家は、公園から1キロほど離れた高台にありました。

映画シーン

 市の歴史的建造物にも指定された由緒ある邸宅でしたが、2007年に失火で全焼してしまいました。当時の新聞記事がこちらです。

 足を運んだところ、全焼した旧坂(ばん)別邸の跡地とみられる場所には立派な家が建っていました。

現在


 続いて小樽市街地へ向かいました。市や観光協会などでつくる小樽フィルムコミッションがホームページで公開しているロケ地マップを参照ください。

<船見坂>
 マップには載っていませんが、まずは物語が始まってまもなく、樹(女)の住所に宛てた博子の手紙を配達する郵便局員がバイクを走らせる船見坂に向かいました。小樽駅にも近く、坂の街の代表的な撮影スポットです。

映画シーン

 名前の通り、街と海、そして航行する船を見渡すことができ、訪れた日も記念撮影する観光客をあちこちで見かけました。

現在

<天狗山>
 映画の冒頭。博子が雪原を歩く場面が撮影されました。

映画シーン

 小樽天狗山ロープウェイとスキー場で知られる観光スポットですが、当日午後は猛吹雪でロープウェイは運休していました。ところが、アジアからの観光客がひっきりなしにバスやタクシーで訪れています。
 ここはアジア各国で人気を博したNetflixのドラマ「First Love 初恋」のロケ地としても知られ、日本映画やドラマが好きな方々の聖地巡礼の場所になっているそうです。

現在

 ロープウェイ山麓駅には今も「Love Letter」のポスターが貼られています。
 その下に「あなたの笑顔は、これからも天狗山に残り続けます。感謝と哀悼の意を捧げます」とのメッセージが添えられていました。韓国では大変人気が高い作品らしく、韓国人客が熱心に写真に収めていました。中山さんの人気は日本だけにとどまりません。

現在

<旧日本郵船小樽支店>
 樹(女)が働いている図書館はこちらの建物で撮影されました。国の重要文化財にも指定されている歴史的建造物です。

映画シーン

 ただ、現在は保存修理工事中で中に入れませんでした。隣に工事事務所があり、来年1月17日までが工期と書かれていました。

現在。中には入れず…

<色内交差点>
 神戸に戻る博子と、博子に宛てた手紙を投函する樹(女)がすれ違うシーンが撮影されました。1人2役の中山さん同士が出会い、互いの存在に気付く場面なのですが、会話を交わすことはありませんでした。

映画シーン

 ここはかつて北のウォール街と呼ばれた小樽の中心部。日本銀行旧小樽支店など重厚な建物が並び、今も観光客でにぎわっています。

現在

<小樽市役所>
 風邪をこじらせて亡くなった博子の父親が運び込まれた病院のシーンが撮影されたのは小樽市役所でした。

映画シーン

 市長室などがある本庁舎の中はレトロな造りそのままでした。ここまで古いと、さらに後世まで残したく思えてきます。ここなら半沢直樹のドラマ撮影もできるかも。

現在


冬の小樽行を終えて
 思い向くまま、中山さんの足跡をたどってみると、何とも言えない郷愁にかられました。

 公開されたのは、札幌の大学に進学して3年目だった1995年3月。年明けに阪神・淡路大震災が発生し、公開直前に地下鉄サリン事件が起きた年でもありました。
 重苦しいニュースが相次ぐ中、この映画は多感な青春期の自分に刺さりました。中山さんの美しさをより一層引き立てたのは、ノスタルジックな小樽の街。私にとって聖地の一つになりました。

 映画の脚本を手掛けたのは当時、新進気鋭だった岩井俊二監督。物語のラスト、亡くなった樹(男)が中学時代に借りていた本と巻末の図書カードを、母校の後輩たちが樹(女)に届けるシーンは秀逸だと思います。

映画シーン

 これこそが、長い年月を経て届いた「ラブレター」。理解力の乏しい私は、初見で分からなかったのですが、改めて観返したところ、物語途中の伏線が見事に回収されていることに気付きました。

 日本の恋愛映画史上、私にとって珠玉の名場面を届けてくださった中山さんに改めて哀悼の意を表します。

 そして、映画のクライマックスシーンであなたが天国の恋人に向かって叫んだセリフを、多くの人が悲しみをこらえながらリフレインしていると思います。

拝啓、中山美穂様。
「お元気ですか? 私は元気です」と。

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