手羽先的Best Track ~All Blues~
貴方がもし1940年代のアメリカの街に住んでいて、初めて自分の楽器を買ってもらったとしたらどうするだろう?まず音が出るように練習をするだろう。音が出るようになったら?楽器を持っている友達で集まって何か曲をやってみようとするだろう。生れて初めてのセッションで一番最初に演奏される曲は何だろう?もちろんそれはブルースだ。しかも飛び切りスローでシンプルなヤツである。そこにはジャズの大切な秘密が隠されている。そしてそのセッションで演奏されたブルースは貴方が死ぬまで演奏され続けられるだろう。貴方が音楽を手放さない限りは。
曲名:Tiny's Tempo
出典アルバム:『The Savoy Recordings Master Takes』 by Charlie Parker
パーカーの最初にレコーディングされたブルースはジェイ・マクシャンとのモノだと思われるが、こちらもサイドマン時代にタイニー・グライムスのバンドで録音された物である。シンプルなスリー・コードのメチャメチャハッピーなブルースだ。そのジャンプしたリズムの中でもちろんパーカーは軽快にバップ・フレーズを決めまくる。典型的なビ・バップではないがココからリズム&ブルースとモダン・ジャズが分かれていくんだと思うととても興味深い。ジャズもブルースの一部なんだぜ。
曲名:Nutville
出典アルバム:『Minor Move』 by Tina Brooks
ティナ・ブルックスのこちらもハッピーに跳ねたブルース。リー・モーガンとの2管で演奏されるテーマからしてメチャメチャカッコ良くて楽しい!ティナのキメフレーズとかすごいイカスよ!このアルバムのジャケは2種類あるようだけどこの黒猫のヤツが好きなんだよな。
曲名:Lanyop
出典アルバム:『Pony's Express』 by Pony Poindexter
前も熱く語ったことのあるヤツだけど、とても面白いのでこちらにも取り上げました。フロントに並んだ6本のサックスが順番にソロを取っていくんだけど、これが面白い!メンツは全員ピンで行ける実力者で固めています。熱いです!アルト3本、テナー2本、バリトン1本なんだけど、誰がどのソロを取っているか当てたくなるよね。ドルフィーはアレなんですぐ判ると思う。しかし、ジャケはもう少し何とかならなかったのか...
曲名:Blues for Philly Joe
出典アルバム:『Newk's Time』 by Sonny Rollins
これも楽しいブルース。一つのモチーフを延々と繰り返しながら、とても茶目っ気たっぷりに遊んでいて、それでいてすごいカッコ良い。これはコピーしたいなあ。楽譜もネットで拾えたし。もう耳コピする時間無いんだもん。落ち着いたら是非挑戦したい。こんなに遊び心のあるソロは中々お目に掛かれません。しかもこのクオリティで実現されちゃうと、やっぱこの人ヤバいヒトだったんだなと実感する。
曲名:After Hours
出典アルバム:『Sonny Side Up』 by Dizzy Gillespie
これはジャケに写ってる3人がまず物凄いんだけど、それに加えてピアノのレイ・ブライアントが良いんですよ。とんでもなく分厚い。もう本当にメニュー写真のビッグマック並みに分厚いです。ホントにこんなに分厚ければいいのになあ、ってのが実現しちゃった感あります。しかもグルグルとトリップ感もある。もっと聴かれても良いヒトなんだけど、そういう人に限って雑誌とかで取り上げられないんだよな。ソロピアノものとかホント良いよ!左手がもうとにかくヤバイんだよ。このアルバム、アナザー・バードのスティットにポスト・パーカーのロリンズが挑むって構図なんだけど、スティットは余裕です。余裕のないスティットなど想像つかん。
曲名:Beauty and the Blues
出典アルバム:『Last Chorus』 by Ernie Henry
僕の知っている限り最も美しいブルース。ディジー・ガレスピーのバンドで一緒だったベニー・ゴルソンの曲ですね。さすがです。夢見るような12小節ですよ。アーニーはエキセントリックに通常運転。ゴルソンもフガフガ頑張ってます。ペットはリー・モーガン。ピアノはケリー。蛇足だけど、タイトルはもちろん「Beauty And The Beast」のもじり。
曲名:Parker's Mood
出典アルバム:『The Savoy Recordings Master Takes』 by Charlie Parker
この人のブルースはホントになんかおかしい。みんなパーカーをコピーして真似をしているはずなんだけど、なんでかこうはならない。そんなパーカーを代表するスロー・ブルースです。この度も何曲かスロー・ブルースを採り上げてますが、普通こんな風に吹かないよね。誰もこんな風に吹いてない。全く誰にも似ていない。みんなパーカーの真似をしているのに、本家が全く陳腐化しないってとんでもなく物凄い事ですよ?バラードみたいなんだよ。何か秘密があるんだよな。
曲名:Back O' Town
出典アルバム:『Gumbo!』 by Pony Poindexter
ギルド・マホネスのピアノが妖しい変なブルースです。ニューオリンズのカオスを表現しているかのようです。1・3拍目にアクセントを入れてくるリズム隊がもうオカシイです。なんかカーニバル的な生と死が交錯する時間を感じる妖しさでドキドキします。仮面をつけた行列が踊っているような感じなんだよな。トロンボーンのイカツいソロも良い。アル・グレイさんというベイシーにいた凄腕らしい。まだまだ知らない事ばかりだなあ。
曲名:Prey-Loot
出典アルバム:『Lucky Strikes』 by Lucky Thompson
ソプラノ・サックスのとても可愛いブルース。僕の知っているブルースの中で一番カワイイです。ラッキー・トンプソンてパーカーのエアチェック盤にやたら登場する「パーカーが来なかった時要員」ぐらいに思ってましたが、完全に認識を改めました。考えてみれば、40年代にいきなりビ・バップにアジャストしてるってだけでスゴい事ですよ、天才ですよ。で、晩年はホームレスとか、こういう人多いんだよな。モンクもモブレーも最後はホームレスだった気がする。しかし良い曲書くなあ。
曲名:Chi-Chi
出典アルバム:『The Genius Of Charlie Parker #3: Now's The Time』 by Charlie Parker
大好きなバードのブルース。思えば僕がジャズを聴き始めて一番最初に聴いたブルースがコレだった。テーマもソロもめちゃくちゃカッコいい。バップの作曲家としてもずば抜けたセンスを持ってたんだよな。こういうカッコいいブルース書ける人、他にいないよ?コレで全盛期を過ぎているとか言われちゃうんだから、オカシイとしか言いようがない。
曲名:Hog Maw
出典アルバム:『Light-Foot』 by Lou Donaldson
今回スロー・ブルース率高めの選曲の中でもザ・ブルースという感じの一曲がコレ。ジャズマンて本当にブルースが好きなのである。こういうのを聴くとジャズマンて楽譜が読めるブルースマンに過ぎないんだなあと実感しますね。ハーマン・フォスターのピアノも楽しくて良い。上のポエムで訳のわからんコト言ってるけど、ホント、いつもと同じコード進行、同じスピード、同じフレーズで良いんだよな。だからきっといつもと違う気持ちも、何気ない冗談の機微も通じるのだ。新しい事なんて挑戦してやってるうちは判ってないってことよ。
曲名:Presto
出典アルバム:『The Hard Swing』 by Sonny Stitt
はい、こちらはビ・バップの典型の様なブルースです。普通です。コレがセンターど真ん中です。ココから始まるのです。スティットは本当に簡単そうにやってるけど爪先を引っ掛けるのも難しいレベル。keys to the kingdomをバードから預かっただけの事はあります。録音もスティットを堪能しろって感じでピアノソロは休暇時間ぽい。いつも通りにフィニッシュしてブルーな余韻を素敵に残してます。他の曲もイントロ、テーマ、ソロ、アウトロと全部オレにやらせろって感じの非常にスティットっぽいアルバム。名演揃いです。「After You've Gone」とかスゴいよ。この人、アルトのスロー・ブルースも素晴らしいんだけど、今回は残念ながらバランスを考えてピックアップしませんでした。機会があればまた紹介したい。
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