ジャズの引出しについて 番外編~バードとプレスの共演ライブについて~
チャーリー・パーカーのアルバムに、ヴァーヴのプロデューサー、ノーマン・グランツが主催していた、いわゆる「J.A.T.Pコンサート」の1946年の録音からパーカーがフューチャーされた音源をまとめたものがある。録音前提のライブだったので音質も良く、当時のオールスターセッションなのでメンツも良い。ライブならではのハプニングもあり、とても楽しいアルバムだ。4曲目「Oh, Lady Be Good」でパーカーがソロを取った後、何故ベースソロが延々と続くのか、何故ベースソロの途中でいきなり聴衆が拍手喝采をしだすのか、謎解きも楽しい。この曲のパーカーのソロは顛末も納得の名演で、後にエディー・ジェファーソンがソロのメロディに歌詞をつけて歌っているぐらいだ。前述のベースソロの後にソロを取るのはレスター・ヤングなのだが、このアルバムの聴きどころは何といってもチャーリー・パーカーとレスター・ヤングの共演である。次の曲「After You've Gone」ではパーカー、ハワード・マギー、レスターと続くソロも秀逸で、特にレスターはこの時代の若手ミュージシャンに圧倒的支持を受けていた理由も良く解るカッコよさである。曲の最後にはアル・キリアンというトランぺッターがとんでもなく強烈なハイノートをかまし、名演の余韻を全部持って行ってしまう。様々なスタイルのソリストが集まると空気を読まないぶち壊し屋も出てくるわけで、そういうのも楽しい。
さて、このアルバムを聴いて印象付けられるのは、パーカーやレスターの名演もさることながら、当時の他のスタープレイヤー達と、パーカー、レスターのスタイルの違い過ぎぶりである。あまりにもパーカーとレスターが他のミュージシャンと違い過ぎる。この後レスターのスタイルが一般化し、それをもってジャズの主流がビッグバンドジャズからモダンジャズへと移っていくわけで、それは何故なのかを少し考察したい。
上記アルバムを聴くと、当時のジャズのソロのスタイルが実に多様であることが分かる。テーマを崩して吹く以外は、キリアンの様にひたすらハイノートを吹いたり、クロマチックでウネウネ吹いたりと色々で、一人一スタイルの趣である。おそらくビ・バップの様な統一的な方法論もあまりなかったんじゃないかと思う。レスターはダイアトニックスケールとコードトーンを駆使した8分音符のメロディラインに、キメフレーズを織り交ぜたりする馴染みのあるスタイルだ。これは割とシンプルな方法論だから誰でも思いつきそうなものだが、レスター以前に一般化しなかったのはカッコ良くやるのが難しいからだと思う。レスターがあまりにもカッコ良く具現化しなければモダンジャズなど生まれていなかったかもしれない。
その後、レスターの方法論にディジーやパーカー達が検討を加え、使えるコードやスケールを増やしていき、ビ・バップと呼ばれるスタイルが完成されるわけだが、スティットやデクスターなどがパーカーに影響を受ける前からビ・バップ的な演奏をしていたのは、当時の若手ミュージシャンの多くがレスターのスタイルを研究していたからだろう。ビ・バップの生成はミントンハウスの中だけではなく、各地で同時多発的に起こっていたのだと思う。
さて、このスタイルは何故こんなにも当時のミュージシャンに支持されたのだろうか。長くなってしまいそうなので続きについてはまた次回論じたいと思う。
<参照アルバム>
チャーリー・パーカー「Jazz at the Philharmonic, 1946」
もう著作権はとっくに切れているので怪しげな廉価版が出回っている様だが、ヴァーヴの正規版に付いている解説は是非とも読みたい所です。色々蘊蓄や種明かしが書いてあって楽しい。アマゾンのレヴューには斜め上の方からキリアンの事が熱く語られていて、コレはコレで面白い。僕も勉強になりました。力作レヴューなんで買わずとも一読をお薦めします。
因みにエディ・ジェファーソンがパーカーの「Oh, Lady Be Good」のソロに歌詞をつけて歌っている曲の曲名は「Disappointed」で、ジェームズ・ムーディーの「Cookin' the Blues」に収録されてます。僕はボーカル物のコンピで聴きました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?